第115話 皆さまお揃いで

 エマはレオンを見るとくすりと笑う。


「なんだか、街で過ごしていたレオンが宮廷にいるのって不思議だね。でももうすっかりこの世界が板についたみたい。最初バルド家のお屋敷に来たときは緊張でガチガチだったのに」


「ありがとう。今もすごく緊張しているんですけどね。でも皆さんが色々と教育をつけてくださったので、自信は少しずつついてきました」


 レオンはそう言ってはにかんだ。

 当たり前じゃないですか、とマリーが胸を張る。


「なんといっても、レオンの教育係りは私ですからね。しっかりみっちり教え込みましたよ」


 マリー、エマ、レオンはくすくすと笑いあった。それをみて、パッサン卿が「まるで小動物の集まりだな」という。お嬢様が小さく噴き出した。


 ふと、私は人だかりに一際目立つ深緑の長髪を見つける。


「こういう場にいつも来ない天才が、もう一人いらっしゃるようですね」


 ディーは私に気づくとぱっと笑顔を浮かべて手を振り近付いてくる。会いたかったですよ、と瞳が細められた。


「ディーも殿下から招待を?」

「ええ。ダンスの曲を演奏してほしいと頼まれまして」

「え、それって、今ここにいても大丈夫なんですか?」


 レオンが首を傾げた。

 今は王子とライラ様のダンス真っ最中だ。おそらく、この演奏をしてほしくてディーは招待をされているのだろう。

 心配する私たちをよそに、ディーはそうですねえと笑った。


「気分が乗らなかったので、またあとでとお断りしてしまいました」


 え、と私たちの声が重なる。


「そんな緩い感じでいいんですか?」

「皆さん、仕方ないなと笑いながら許してくださいましたよ」


 にこりと微笑む。

 ディーは演奏したいときに演奏し、歌いたいときに歌い、絵を描きたいときに描く。そうして気ままにしているからこそ、彼の芸術は完成するのだろう。彼に芸術を強制させるべきではないと、宮廷の人間も思っているのかもしれない。


 ディーも大物よねとお嬢様は笑った。



――――――――

幕引きまであと1話

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