第93話 姉妹

「お姉様?」

「ライラも、たくさん辛かったのね。ごめんなさい、あなたを苦しめていたのはわたくしよね」


 ライラ様は顔をあげて、わずかに目を見開いた。レイチェルお嬢様は優しく、慈しむような顔をしている。

 怒らないのですか、と震えた声がした。


「怒りよりも、今は驚きの方が強いわ。それに、申し訳ないとも思う。わたくしは、ライラがどう生きてきたのか考えたこともなかった。このバルド家で辛いのは自分だけなのだと、勝手に思い込んでいたわ。身勝手よね。思えば、母を亡くしたのはわたくしもあなたも同じで、悲しくないわけないのに」


 お嬢様の赤い瞳が揺らいだ。


「わたくしは、母を亡くした辛さをライラにぶつけてしまった。ライラがしたことはそれと同じよ。あなたがわたくしを許してくれたのに、わたくしがあなたを許さない道理はないわ。だって」


 一瞬ためらうように口を閉ざす。そして微笑んだ。


「わたくしは、あなたの姉なんだもの」


 ライラ様の頬を涙が伝う。お嬢様はそっと人差し指でそれをぬぐった。


「謝るのはもういいわ。わたくしたちはどちらも間違ったけれど、これでお相子よ」


 きっと「ごめんなさい」と紡がれるはずたった口をライラ様はぎゅっと閉じた。何度か口を開閉させたあと、


「ありがとうございます」


 小さく、けれどたしかに感謝の言葉を述べた。


「お姉様、どうか幸せになってくださいね。私、お姉様には幸せになってほしいんです。后になって、この国で一番幸せな女性になってください。――殿下はとてもいいお人ですから、お姉様によくお似合いだと思います」

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