第91話 姉の心配
ライラ様はパーティーでの疲労がたまったのか、屋敷に戻ってからはベッドから起き上がることができなくなった。医者にもみせてはいるものの、これといって回復の兆しはない。それどころか日に日に弱っていく。
まるで亡くなった奥様のようだ、これも先妻の呪いなのではないか、と噂をするメイドまで出始めている。もしかしたらこのまま――、なんて不謹慎な話まである。
「リーフ」
「はい。ここに」
夜になり、ライラ様はふらふらとベッドから体を起こす。起き上がることさえ辛そうだ。
「お姉様とお話がしたいの。ここに呼んできてもらえないかしら」
「しかしそのお体では――、安静にされていた方がいいのでは?」
「でも早く謝りたくて。ずっとこのまま話を先延ばしにしていたら、その方が精神的に参ってしまうわ」
そういって眉を下げて笑う。
私では決めかねて扉の前で待機しているジルに目を向けると、彼は何も言わずに頷いた。
「かしこまりました。お呼びしてきますので、お待ちください」
私は本館を出ると庭を横切ってお嬢様のもとに向かった。なんだかとても別館が懐かしい。
「あれ、リーフさん? どうしたんですか」
「レオン。久しぶりね」
柱の影からひょっこりとレオンが顔をみせた。その腕には本が抱えられている。
「勉強?」
「はい。僕は無学だから、知識をつけておいて困ることはないだろうってレイチェル様が色々と教えてくださるんです。難しいけど、レイチェル様は教えるのもお上手なので楽しいです」
にっこりと微笑む。その姿がまるで子犬のようで、頭を撫でたくなる手をぐっと抑えた。以前はマリーと一緒にいたからよかったものの、最近一緒にいるのはジルばかり。彼は美形なことに違いはないが、可愛い要素が足りないのだ。癒しに飢えている。
ふうと息を吐いた。
「マリーは?」
「レイチェル様のお部屋で手紙の整理を手伝っています」
「そう。私はお嬢様にお話があるのだけど、レオンも一緒に来てくれる?」
レオンは不思議そうな顔をしながら、素直に私のあとをついてきた。
お嬢様の部屋をノックして入室すると、驚いた顔のお嬢様とマリーが私を見つめた。お久しぶりですと頭を下げると、私が用件を言うより前にお嬢様が口を開く。
「ライラがずっと体調を崩しているそうだけど、大丈夫なのかしら。もうずっとベッドから出られないって聞いているわ。そんなに悪いの?」
「え、ええ」
あまりの勢いに気圧された。ずっと心配してくれていたのだろう。
そんなお嬢様にこれからライラ様が伝える話は酷なものかもしれない。私はすこしだけ迷って、けれど伝えないわけにはいかないのだと思いなおして息を吸った。
「ライラ様が、お嬢様にお話があるとのことです。よろしければライラ様のお部屋までお越しいただけませんか」
お嬢様はすぐに頷いた。
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