第22話 王宮図書館
白い壁。宮殿のような見た目の美しいその建物は、バルド家の本館に匹敵する広さだろうと一目で分かる。
私は中央にある大きな扉を開けて中に入った。広がる景色にほうと息がもれる。
「すごい――」
本。本。本。
見渡す限りの本。広い空間にずらっと等間隔に並ぶ本棚には、すき間なく本が敷き詰められていた。
ここは王宮図書館。
王宮というその名前の割に、この図書館は郊外に建てられており、貴族だろうが市民だろうが使用することができる。単に王宮が管理をしているから王宮図書館と名付けられている。
とはいえ、この国の市民の識字率はあまり高くない。だから図書館を利用する人間はおよそ貴族と研究者に限られている。
静かな館内を歩いて本棚を物色してみたが、置かれている本は研究書が多いようだった。この蔵書であれば、たとえ文字が読めたとしても一般人は寄り付かないだろう。
一通り歩き終わると、図書館の端に螺旋階段があるのを見つけた。当初の目的を思いだして、私はその階段を上る。
この図書館は三階建てだ。
一階は本の所蔵と閲覧スペース。
二階は誰でも使える学習室。図書館に申請をすれば個室を貸してもらえて、本を読むことも研究をすることもできる。若手の研究者がよく利用しているらしい。
そして三階は研究室だ。こちらは国に認められた研究者専用の個室である。二階を若手研究者が使うのにに比べて、三階はエリート専用といったところだ。
私たちがレイチェルお嬢様の家庭教師にと願う偏屈で天才学者と名高いパッサン・リアル卿も、この三階に研究室を構えている。
三階にのぼると、そこは静かな空気に包まれていた。
白い壁の廊下には等間隔にドアが並ぶ。
一階も静かだったが、ゆったりとした空気で心地よかった。しかしこの階には緊張感が漂っていて、なんとなく呼吸がしづらい。自分の呼吸音が周りに響いてしまうのではと思うくらいに静かだ。
私は大きく息を吸って「よし」と呟いてから歩き出した。
パッサン卿の研究室はこの三階の一番奥だときく。いくつものドアの前を通りすぎる。この建物は広いから、随分と長いこと歩いたような気になる。
突き当りに到着すると、大きく深呼吸。意を決してドアを三回ノックした。
中からの返事はない。
「パッサン卿、いらっしゃいますでしょうか。私、バルド家で使用人をしておりますリーフ・カインツと申します」
返事はない。物音もしない。
しかし、パッサン卿はほとんど毎日この研究室にいると聞く。
「先日お手紙も差し上げたのですが、一度お話を聞いていただきたいのです」
事前に送った手紙で訪問のお願いをしていたが、返事はなかった。失礼だとは思うが、今日は勝手に押し掛けさせてもらっている。
パッサン卿は気難しい人だと聞く。それだけでも緊張するのに、約束もないのに訪ねることになってしまったため、私の胃はきりきりとしている。
「パッサン卿」
胃の不快感を抑えながらもう一度呼びかけてみたが、やはり返事はなかった。
そのまま少し待ってみたが、ただただ静かな空気が流れるだけで何かが起こる気配はしない。ほとんどこの研究室にいるとはいっても、もちろん外出することだってあるだろう。今日は不在なのだろうか――。
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