第13話 妹との密会2
ライラ様のことを信用していないわけじゃない。昔も今も、世間がどう言おうと彼女がお嬢様を悪く言ったことは一度もない。むしろ、ずっと気にかけてくれている。
ただ、レイチェルお嬢様の今の状況については軽々しく話せない。そういう繊細な問題だと思っている。
ライラ様も黙ってしまって、沈黙の時間が続いた。ジルが綺麗な所作で紅茶を淹れると柔らかい香りが漂う。
ライラ様は湯気の立つティーカップに口をつけた。私の前にも紅茶の入ったカップがおかれたが、じっとそのカップに視線を落とすことしかできなかった。
ライラ様は何が言いたいのだろうか。彼女の意図するところがよく分からない。
こつんと小さな音を立てて、ライラ様はカップを置いた。
「遠回しに言っても、あなたを困らせてしまうだけだと思うし。素直に言うわね」
いつもの優しい微笑みを消して、真剣な表情を作った。すっと緑色の瞳が細められて、私はどきりとする。
「私は、お姉様のことが好きよ。お姉様の敵になろうなんて思っていないわ。世間では色々と言われているようだけど、私はお姉様にもう一度社交界に戻ってきてほしいと思ってる」
今までみたことがないライラ様の雰囲気。威圧というほど強くはないが、思わずこちらが背筋を伸ばしてしまうような、そんな空気をまとっている。
――でも、どうしてだろう。どこか懐かしい。
ライラ様の緑色の瞳を見つめていると、私はその理由に思い当たった。
彼女の表情は、まだ悪役令嬢と呼ばれる前のレイチェルお嬢様によく似ているのだ。昔のお嬢様も、よくこんな表情をしていた。
「私はお姉様がこんな状況に立たされているのが嫌なの。どうしてお姉様が人から悪く言われなくてはならないのか、私には分からない。お姉様は何も悪くないのに」
「悪くない、ですか」
「ええ。たしかに私は、お姉様に手をあげられたこともあるけど、仕方ないことだと思ってる。だって、お姉様はずっと悲しんでいたでしょう。お姉様を悲しませていたのは私だわ。悪いのは、無神経だった私の方だとさえ思う」
ライラ様の目は真剣そのもので、私は息をのんだ。
自分の居場所を奪われたことを悲しみ、妹に手をあげたレイチェルお嬢様。ライラ様は被害者なのだと誰もが思っている。そんなライラ様から、「自分が悪かった」という言葉を聞くなんて思わなかった。
ライラ様は静かに言葉を重ねた。
「そろそろ宮廷に嫁ぐ令嬢を決めるべきだと、貴族の間でも競争は強まっているわ。私も、后の候補に入っているし、その中でも有力だと言われているようだけれど、后になるべきはお姉様だと思う。だって、お姉様はずっと后になるために教育を受けてきたんだもの。あなただって、お姉様の努力は知っているでしょう」
私はもちろんですと頷いた。
幼い時からお嬢様にずっとお仕えしてきたのだ。お嬢様の努力は誰よりも知っている。教養も、ダンスも、音楽も。后に相応しい女性になるために、お嬢様はずっと努力を重ねてきた。
でも――。
私はライラ様をうかがう。
多分彼女の言葉に嘘はない。しかし引っかかることはある。
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