第42話

 新島先輩がお兄ちゃんにフラれてから数日が経つ。

 グループの皆で詳しく聞かせてもらおうと色々質問したが、『今度きちんと話すから』とだけ返ってきた。

 新島先輩らしからぬ反応に本当にフラれたんだと感じた。


 その日以降の新島先輩の様子を水瀬先輩に聞いてみたが普段と別段変わっていないらしい。

 普通なら落ち込んだりしてしまうが、話を聞く限りそんな素振りを全く見せないのは凄い。

 

 ――――もし、私が告白してフラれたらどうなってしまうんだろう。



 文化祭もついに2日後に迫り、私のクラスは準備も佳境を迎えていた。


「もうすぐ文化祭本番だね。緊張してきた~」

「もう、めぐは緊張し過ぎだよ! って言っても私も少し緊張してるんだけどね」

「ゆずは主役だからね。私なんかモブキャラなのに失敗したらどうしようとか考えちゃう」

「それは私もおなじだよ~。でも、絶対成功させたいよね!」

「うん! 劇を観たらまたゆずのファンが増えるかもね」

「そんなことないよ。めぐだって劇に出るんだから気をつけないとね~」

「もう、揶揄わないでよ~」


 教室の隅でめぐと他愛もない話をしながら休憩していると、急に名前を呼ばれた。


「柚希ちゃん!」


 その声に振り返ると実行委員のサチが私に駆け寄って来た。


「どうしたのそんなに慌てて。何か問題でもあった?」

「私の数え間違いで暗幕が一枚足りないの! これじゃ劇に支障が出ちゃう! どうしよう」

「とりあえず落ち着いて。他のクラスに余ってないか確認はした? あと先生にも」

「他のクラスに聞いてみたけど余ってないって。先生にも話して探して貰ってるけど見つかるかどうかは分からないって言われて……やっぱり私なんかが実行委員やっちゃダメだったんだ」


 自分のミスの所為で劇がダメになってしまうんじゃないかと考えて思考がネガティブになっている。

 もしこのまま暗幕が見つからなかったら物凄い責任を感じちゃうだろう。

 

「そんな事ないよ! 今まで順調に準備出来てきたのはサチのおかげだよ!」

「うぅ、でもぅ~」


 捨てられた子犬の様にフルフルと身体を震わせながら私にしがみ付くサチの頭を優しく撫でながら立ち上がる。


「とりあえず皆で残ってる暗幕を探そう。私は被覆室に行ってみるからめぐは視聴覚室をお願い」

「うん、わかった」

「サチは教室に残って準備を進めてて。見つかり次第連絡するから」

「うぅ、ゆずありがと~」


 最後にサチの頭を撫でて私とめぐは教室を出た。


 さっきはああ言ったけど暗幕が残ってる可能性は低いと思う。

 最悪の場合は使われていないカーテンを黒く染めて代用するしかないか。


「すみませ~ん」


 声をかけて被覆室に入るが誰も居ない。

 とりあえず被覆室の中をぐるりと回り暗幕を探すが、案の定一枚も無い。

 

「まぁ当然か」


 被覆室を諦めて他を探そうと教室から出ようとドアに手を伸ばすとドアが自動的に開いた。


「うわっ! ビックリしたー」

「きゃっ! す、すみません」


 目の前には上級生であろう男子生徒が立っていた。

 しかしそれよりもその先輩が手に持っているモノが気になった。


「あの、いきなりで申し訳ないんですが、その暗幕って?」

「ああ、余ったから返しにきたんだ」


 やっぱり! 


「すみません、その暗幕私に下さい!」

「別に構わないけど……ってよく見たら佐藤君の妹だよね?」

「は、はい。佐藤友也の妹の佐藤柚希といいます」

「だったらこんな暗幕くらい持ってっちゃってよ。妹さんならしっかりしてるだろうからこっちも安心だし」

「ありがとうございます!」

「うん、結構重たいから気を付けてね」

「大丈夫です! ありがとうございます」

「返す時は被覆室に返せばいいから。じゃ、俺は教室戻るね」

「ありがとうございました!」


 先輩にお礼を言い、急いでサチに暗幕が手に入った事を伝える。

 電話越しに泣きながらお礼を言われ、相当不安だったのが伺える。

 とにかく早く持って帰って安心させてあげよう。


 暗幕を持って被覆室を後にして歩いていると、どこからともなく良い匂いがしてくる。

 そういえばお昼ご飯食べてなかったなぁ。

 なんて事を考えながら歩いていると、家庭科室から騒がしい声が聞こえて来た。

 中を覗いてみると、お兄ちゃんとそのグループの人やクラスメイトらしき人達が居た。


「こんなのミートパスタじゃない!」

「ん~、これじゃお客さんに出せないね」

「たはー、これはヒドイよ」

「こんな物私に食べさせないでくんない」


 女性陣が料理にダメ出しをしている。

 というかギャル風の人は初めて見るけどやっぱりお兄ちゃんの事を狙ってるのかな。

 そんな事を考えている内に話が進んでいき、料理対決をする事になったみたいだ。

 審査員は及川先輩とお兄ちゃんだけど、みんな絶対お兄ちゃんへのアピールだ!


 そう結論を出した時には勝手に体が動いていた。


「面白そうだから私も参加する!」


 いきなり現れた私にお兄ちゃんは驚いていたが、女性陣の反応には闘志を感じた。


「なるほど、家庭の味って事ね」

「ふふふ、誰が相手でも罹ってきなさい」

「え? 友也の妹なん? なら断る訳にはいかないっしょ」


 と私の参加が認められ、お題のミートパスタをササッと作る。

 そして4つのパスタがお兄ちゃん達の前に並んだが、すかさず私は先制攻撃をする。


「お兄ちゃん、私のから食べて」

「お、おう」


 半ば無理矢理お兄ちゃんに食べさせる。

 私の後に新島先輩達の分も食べ、全ての実食を済ませる。


「どうだったお兄ちゃん」

「友也君、感想聞かせて」

「トモの胃袋は私が掴んだよね?」

「どれが一番美味しかったか早く言いなよ」


 私達が感想を求めると、お兄ちゃんは逃げるように及川先輩に話題を振ったが


「全部美味しかった!」


 と参考にならなかった為、再びお兄ちゃんに視線が集まる。

 それに伴って観念した様にお兄ちゃんは私の皿を前に出した。


「これが一番美味しかったかな」


 それを聞いた三人は


「「「やっぱり家庭の味か~」」」


 と肩を落とす。

 みんなには悪いけど、お兄ちゃんの好みの味は把握してるから負ける訳にはいかなかった。

 ちょっとズルイ感じはするけどこれくらいならいいよね。


 するとずっと見守っていたクラスメイトの一人が口を開いた。


「ちょっと待って。妹さんのミートパスタが美味しいのはいいけど、当日作れないんじゃないかな?」

「あ、そうか!」


 お兄ちゃんもしまった! という顔をした後何か考え込んでいる。

 そして何か閃いた様にバッと顔をあげる。


「三人のミートパスタを出せばいいんじゃない?」

「どういうこと?」

「例えば、早川風パスタ、南風パスタ、か、楓風パスタみたいにして3種類出せないかな?」


 あ、今新島先輩の名前噛んだ。やっぱりお兄ちゃんもフッた事気にしてるんだ。


「それ良いアイディアだよ! さすが佐藤君!」

「いや、皆美味しかったから皆にも食べて貰いたいって思っただけだから」

「それでもだよ! じゃあ俺達は教室に戻って皆に報告してくるから」


 と言ってグループ以外のクラスメイトが教室へ戻って行った。

 早川先輩が去り際に「次は絶対認めさせてやる」と言っていたのは気になるけど。


 クラスメイトが全員出て行ったのを見計らった様に中居先輩が口を開く。


「佐藤、やっぱりお前は"たらし"だな」

「は? なんでだよ」

「はぁ、気づいてないのか」


 中居先輩が大きくため息を吐く。きっと早川先輩のことだろう。


「しっかしお前らはホントどこでも見せつけるよな。3人に手料理作らせるとかスゲェわ。やっぱハーレムなんてのをやってるだけの事はあるな」


 何気ない言葉に私達は固まる。

 中居先輩はハーレムが解散した事を知らないんだ。

 どうしようかと悩んでいると、新島先輩の口から説明された。


「中居、私達もうハーレムは辞めたんだ」

「は?」


 ハーレム解散を告げると最初は驚いた表情をしたが、段々と険しい……怒った表情に変わっていく。

 もしかしたらお兄ちゃんが凄く責められるかもしれない。


 その時は全てが私の計画だったと白状しよう。

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