第12話

 『俺と……付き合ってくれ!』

 『……ずっとその言葉を待ってました』

 『それじゃあ……』

 『はい、よろしくお願いします』


 ~~♪ ~~♪ ~~♪ ~~♪


 

「うぅ……よかったぁ……2人が結ばれて……」

「どうだ? 満足したか?」

「ううん……もっかい観る……」

「まだ観るのかよ!」

「え~でもこれすっごい面白かったよ!? ね~ね~せっかくだからもっと観ようよ! 期末テストも終わったんだしさ」

「だからって俺の部屋で観ることないだろ!」

「だってお兄ちゃんと一緒に観たいんだもん」


 今私はお兄ちゃんの部屋でアニメを観ている。

 新島先輩から教えてもらったオススメ作品だ。


 テストを終えて家に帰る途中で、早速新島先輩が教えてくれた幾つかの作品を借りてきた。

 その中から時間の短い劇場版を一つ手に取り、お兄ちゃんの部屋へ押しかけた。

 

「はぁ……でも驚いたよ。アニメ観ようだなんて突然言い出すんだもんな」

「最近あまり喋ってなかったから、お兄ちゃんが寂しがってると思ってさ」


 と言いつつも、気まずいままでいたくなかったというのが本音だ。

 テストが終わるまでは勉強に集中していたけど、何か切っ掛けがあればと考えていた。

 その矢先に、新島先輩からアニメの話を聞かされ今に至る。


「べ、別に寂しくなんてなかったけど」

「あっ! 今のってツンデレっていうんでしょ? さっきのヒロインみたいに」

「おぉ、ちゃんと観てたんだな。それにしても柚希がアニメを観るなんて思わなかったな」

「分かってないなぁお兄ちゃん! 今はリア充でもアニメを観る時代なんだよ!」

「そ、そうなのかぁ」



 アニメだなんて馬鹿にしてたけど、いざ観始めると感動している自分がいた。

 これからもちょっとづつ観ていこうかな。

 だけど、今の私にとってはお兄ちゃんとの接点を得る一つの手段に過ぎない。


 私だってアピールして行くんだから!


「それよりもお兄ちゃん知ってる? お父さんとお母さんが一週間旅行に行くらしいよ」

「え? マジで! いつから?」

「え? もう居ないけど?」

「マジかぁ。俺だけ何も聞かされてなかったのか……」


 衝撃の事実を知ったお兄ちゃんは、露骨に肩を落とす。

 そんなお兄ちゃんに私は妹らしく元気づける。


「まぁまぁ、そんなに落ち込まないで」

「柚希……」

「今に始まったことじゃないでしょ?」

「慰めてるのか、トドメ刺すのかどっちかにしてくれ!」


 そうやってふざけあっていると、お兄ちゃんは急に真剣な顔で話しかけてきた。


「なぁ、柚希」

「どうしたの?」

「この間、南と真剣に向き合うって約束しただろ?」

「うん」

「あれから楓と三人で話し合ったんだ」

「それで?」

「二人から同時にアピールを受けて、8月のキャンプの時にどちらと付き合うか選ぶ事になった」

「ふ~んそうなんだ」

「……なんか妙にさっぱりした返答だな」

「だってお兄ちゃんは、お兄ちゃんを好きだって言ってくれる人と向き合うって決めた上でそうなったんでしょ?」

「そうだけど……」

「だったらいいじゃん。私が口を挟む事じゃないよ」

「そっか」

「ただ、一つだけ言わせて貰えば、自分の気持に嘘をつかないでほしいな」

「ああ、わかってるよ」


 とキメ顔でそう言ったが、ぐぅ~とお腹が鳴って台無しだ。

 お兄ちゃんは恥ずかしさを誤魔化すように話題を変える。


「そ、そういえば飯とかどうするんだ?」

「一応食費は預かってるよ」

「よかった~。なら早速行くか」

「え? 何処に?」

「ファミレスに決まってるだろ」

「駄目だよそんなの! ちゃんと節約してかなきゃ!」

「う~ん、じゃあカップラーメンにするか。安くて美味いしな」

「それも駄目! 栄養偏るし、意外と安くないんだよ」

「じゃあどうするんだよ?」

「私が作ります!」

「えっ! 柚希料理出来るのか?」

「当たり前でしょ! ちょくちょくお母さんのお手伝いしてたもん!」

「そうなのか? あまりにも部屋に引きこもりすぎて知らなかった……」

「ま、そういう訳だから私に任せて♪」


 そう言って私はDVDを片付けて部屋を後にする。



 お父さんとお母さんが居ない間、計画通り私が料理を作る事になった。

 私はお兄ちゃんのことを誰よりも知っている。

 料理だって誰にも負けない自身がある。


 先輩たちには悪いけど、家ではずっと私のターンなんだから!




 早速晩ごはんの準備をする。

 メニューは勿論お兄ちゃんの好物の唐揚げだ。


「おぉ~、いい匂いだなぁ。料理ができるっていうのは嘘じゃなかったんだな」


 と言いながらお兄ちゃんが二階から降りてきた。


「もぅ! まだ疑ってたの? 嘘なんかつかないよ!」

「悪い悪い。ところで、もしかすると唐揚げ作ってるのか?」

「うん。丁度鶏肉が余ってたから。それにお兄ちゃん唐揚げ好きでしょ?」

「まぁ好きだけど、肉が半生になってたりしないだろうな?」

「もう五月蝿いな! お兄ちゃんはあっちでテレビでも観ながら待ってて!」

「はいはい、分かりました」


 と言ってお兄ちゃんはソファーに座りテレビを観始める。

 

 

 料理が出来上がりテーブルに並べる。

 そしてお兄ちゃんを呼ぶと


「おぉ、見た目は美味そうだな」

「そんな減らず口を叩けるのも今のうちだよ」

「言うじゃないか。じゃあ早速……」


 と言ってお兄ちゃんは唐揚げを一口食べる。


「う、美味い! っていうかいつも食べてる唐揚げと同じ味だ!」

「当たり前でしょ。いつも唐揚げは私が作ってるんだから」

「えっ! マジで! 柚希がこんな美味い唐揚げを……」


 そう言って再び唐揚げに箸を伸ばす。

 そこで私は皿をヒョイと遠ざける。


「……なにするんだよ」

「お兄ちゃん、待て!」

「俺は犬か!」

「何か言う事忘れてない?」

「あぁそうだったな。いただき――」


 私は再び皿を遠ざけた。


「だからなにするんだよ! ちゃんといただきます言っただろ?」

「疑ってごめんなさいは?」

「は?」

「料理出来ないって疑っててごめんなさいは?」


 そう言うとお兄ちゃんは唐揚げと私を交互に見つめた後


「……疑ってすみませんでしたーー!」


 と深々と頭を下げた。


「分かればよろしい! よし、食べていいよ」


 と言ってお皿を前に出すと、子供のように勢いよく食べ始めた。

 美味しそうに食べる姿を観ていると、得も言えぬ幸福感に満たされた。

 

「柚希、食べないのか?」


 と箸を止め、そう言ってくるお兄ちゃんの口元にはご飯粒がついていた。


「もうお兄ちゃん、ご飯粒付いてるよ」


 そう言いながら私はご飯粒を取って口に運ぶ。

 するとお兄ちゃんは目を丸くしたいた。


「ふふ、こうしてると新婚さんみたいだね」


 とからかい半分に言うと、お兄ちゃんは顔を真っ赤にしながら


「な、何言ってるんだよ! いいからさっさと食べろ」


 と言った後、一気に自分の分をたいらげてしまった。 

 照れ隠しなのかな? ふふ、お兄ちゃん可愛い。


「柚希、おかわり!」

「はいはい、たんとお食べ」


 お兄ちゃんの食べっぷりを見て、私もお腹が空いてきたので食べ始める。

 思えば、二人きりで食事をするのは始めてだ。

 家族四人で食べるのとはまた違った充実感を覚える。


「ふ~、ごちそうさま。スゲー美味しかったよ」

「どういたしまして。そうだ、お風呂沸いてるから入ってきちゃいなよ。お皿は私が洗っておくから」

「いいのか? なんか悪いな。全部柚希に任せちゃって」

「いいのいいの、何なら背中流してあげよっか?」


 食器を洗いながら冗談を言うと、またお兄ちゃんは顔を赤くして


「いいってそんなの! 風呂入ってくる」


 と言ってそそくさとリビングから出ていった。


 お兄ちゃんは直ぐ顔に出るから揶揄い甲斐がある。

 一週間二人きりになるのは少し不安だったけど、これから楽しくなりそうだ。

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