第10話 辿り着いた真実

「「――――異世界で二年間過ごしたぁ!?」」


 当然のごとく、しおんと真鈴さんが俺の話を聞いて愕然とした声を上げた。


「まーな。超しんどかったぜ」

「……ま、待ってろっくん、その前にもう一度聞いておきたいんだけど、どうやって異世界に飛ばされたの?」

「だから殺されて」

「「…………」」


 またも二人が唖然としながら俺を見つめている。

 俺はそんな二人の様子を見て苦笑しつつ続けた。


「俺はあの日……しおんたちと熱海旅行に行く日に死んだ。いや、殺されたんだよ」

「殺されたって……! で、でもこうしてろっくんは生きてるでしょ! どういうことなの!」

「落ち着けって」

「落ち着けるわけないよ! だってだって! ろっくんが殺されたなんか言うからぁっ!」


 それもそうか。俺だってしおんやソラネたちが殺されたって聞いたら正気じゃいられないかもしれねえし。


 俺はしおんの手を取ると、そっと自分の胸に押し当ててやった。


「聞こえるだろ、心臓の音。確かに一度死んじまったけど、こうしてちゃんと生き返ってきたんだ」

「ろっくん……!」

「俺があの日、バスジャック犯に殺されて、次に目が覚めたら神様って名乗る奴のところにいた。そして元の世界に生き返る方法があるって聞いて、俺は半信半疑ながらも神の言うことに従った。ま、結果的に従って良かったけどな」


 こうして再びしおんたちにも会えたんだから。


「それで異世界では日六くんは、人々を困らせる災厄をどうにかして、その対価として戻ってこられたというわけですね?」

「そういうことっすよ。まあお蔭で英雄なんてもんに持ち上げられちまって、いろいろ面倒ごととかありましたけど」


 俺の地位や名誉、そして金などに群がってくる連中。俺を倒して名を上げようとするバトルジャンキーな奴らもいた。マジでウザかった。


「ろっくんが……英雄」

「ははっ、似合わねえだろ?」

「ううん、そんなことないよ。だって……今のわたしにとっては、間違いなくろっくんはヒーローだもん」

「おいおい、よしてくれ。俺はただ友達を友達扱いしただけだぞ?」


 別に特別なことは何もしてねえ。たとえ力がなくても、あのオッサンには反発しただろうしな。結果はまた違ったかもしれないが。


「でもそっか……あの日、ろっくんの様子がおかしかったのは、わたしたちに久しぶりに会えたからだったんだね?」

「え? あー……そういや懐かしくて舞い上がっちまってたもんなぁ」

「それに二年間成長したろっくん。身長が伸びてるし逞しく感じたのも、勘違いじゃなかったんだ」

「俺としちゃもう少し身長は伸びてほしかったけどなぁ」


 二年間で伸びたのは六センチメートル。元々百七十三センチメートルあったので、現在は百七十九センチメートルだ。せめてあと一センチメートルほしかった。


「日六くん、もう一つ聞きたいのですが」

「俺の力のことでしょ?」

「え、ええ……その、聞いてもいいのかしら?」

「いいっすよ。もうここまで話したんです。今更隠すこともないですし」


 俺はスッと右手を上げると、「――《ゲート》」と呟く。

 右手の前の空間が歪み始め、濃紺の空間が生み出される。


「これが俺の《スキル》――《ゲート》です」

「あ、これはさっきの?」

「おう、そうだぞしおん。まあ簡単に言えば、空間と空間を繋ぐ力を持ってるってことかなぁ」

「空間と……空間?」


 俺は「例えば」と言いながら、空間を大きくしてその中に身を沈み込ませた。

 すると少し離れた場所にも同じような濃紺の空間が出現し、そこから俺の身体が出てくる。


「こんな感じに空間移動ができるってわけ」

「す、凄いですね……! では遠く離れた場所にも一瞬で行けるということですか?」

「俺が認識してる場所ならどこへでも。ちなみにさっきの連中は、俺がずっと前に親父と一緒に行った大西洋の無人島に送った」


 あそこの近くには船も結構通るし、運が良ければ生き残れるだろう。別に死んでも良心の呵責など一切無いが。


「凄いね、ろっくん! じゃあいつでも私と一緒に海外旅行とか行けちゃうね!」

「え? あ、うん…………一緒?」


 ちょっと気になるワードが出てきたが、確かに一度行ったことのある海外にはいつでも《ゲート》を開くことができる。


「では重道さんの部下たちが一斉に腕が切断されたのは?」

「ああ、それももちろん《ゲート》の力っすよ。たとえばこの壊した手錠を、こうやって半分ほど《ゲート》の中に入れて――《クローズ》」


 すると空間が元に戻ると同時に、手錠が綺麗に切断されていた。


「!? ……なるほど。そういう使い方もできるのですね。《スキル》……とても興味深いです」

「まあ、異世界限定の力だし、この世じゃ多分俺だけしか持ってねぇけど」

「そう、ですか……」


 少し残念そうだ。実は真鈴さん、こう見えて学者気質なので、未知への探求心は人一倍強いのである。大学で専攻しているのは民俗学らしいが。


「あれ? でもろっくん、力ずくで手錠を壊してたよね? それに銃弾だって受け止めてたし……そんなに力持ちだった?」

「あー異世界にはレベルってもんがあってよ。ほら、RPGみたいな?」

「へぇ、そうなんだぁ」

「おう。レベルを上げればパラメーターも上がってな。こっちに戻ってくる時も、そのパラメーターを維持したままだったからさ」

「い、一応聞きますが、日六くんはレベル幾つだったんですか?」

「245レベルでしたね」

「にっ……!? さ、参考までに聞きますが、この世界で最強のプロボクサーと言われているリケード・ファイガ選手をレベルに換算するとどれくらいです?」


 ああ、あのボクサーね。前人未踏の六階級制覇を為し、今ではリケードに挑戦するだけで勇者とまで讃えられるほどの絶対的王者。


「あの程度の強さなら……多分20レベルくらいじゃね? いや30? まあそれくらい」

「なっ!? ……そ、そうですか。異世界に住む者たちは常識では考えられないんですね」

「あー言っとくけど、向こうでもそうそう30レベルを超えるような奴はいねえよ。少なくとも一般人にはな」

「そうだとしても、今の日六くんならリケードに圧勝できるんですよね?」

「まあ……一応災厄のバケモノを倒してきた経験がありますしね」


 アイツと比べると、たかが六階級制覇したボクサーなんて、百人襲ってきても怖くない。

 だってどんだけ強くても、人間は拳で鉄を貫いたりできるわけじゃないから。


「とにかく日六くんが超人になってしまったということは分かりました」

「いやいや、これでも少し変わった高校生っていう自覚なんですけど?」

「「それは違う!」」


 あ、そう……。まあ、鉄を噛み砕くこともできるし、さすがに普通とは言えないが、それでも人間であることは間違いないのだ。


「でもろっくんが『異種』のこと知らなかったのは驚いたなぁ」

「そうですね。常識に近い情報ではありますから」


 ネットでも普通に『異種』で調べると、ちゃんとした情報が記載されていた。つまりこの世で『異種』は間違いなく存在が認識されているということ。

 なら何故俺は知らなかったのか……。


「こっちに戻ってくる時に記憶が一部失われた、とか?」

「真鈴さん、さすがにそれは無いです。神もそういう欠落した部分は無いようにするって言ってましたし」

「ですがどう考えても知らないなんてことは……田舎に引きこもっているわけでもないのに……」


 確かに考えれば考えるほどおかしい。

 学校でも普通に習うような情報を覚えていないってことは有り得るだろうか?

 特別に意識してなくとも、『異種』って言葉くらいは記憶に残ってるのが普通だろう。

 歴史上の人物を詳しく知らなくても、たとえ興味など無くとも、名前くらいは知ってるといった感じで。

 それなのに丸っきり知識が無いというのは不自然過ぎる。


 ……おいおい、マジで記憶喪失状態ってことか? だった神がこっちに戻す際に何かしら失敗した……とか?


 そこでもう一度、神と交わした言葉を思い出してみる。

 奴は元の世界に戻すのは難しいと言っていた。しかしある条件をクリアすれば、再び日本に戻してやると約束したので、俺は異世界に飛んだのだ。

 そして見事、神の条件をクリアし、こっちに戻って来る時に奴は最後に何か言ってた。


 確か……。


『――じゃあ頑張って。言ったことはちゃんと守ったからね。そう、言ったことは……さ』


 そうだ。この時、何となく違和感を覚えたんだ。

 言ったことは守った……。言ったこと……。

 元の世界に戻すのは難しい。

 ある条件をクリアすれば日本に戻してやる。


 …………ん? ちょっと待て。


 いやいや、まずは落ち着いて整理しよう。神は元の世界に戻すのは難しいけど、条件をクリアすれば日本に戻してやるって言ったんだ。 


 そうだ……日本に戻してやるって…………日本に…………っ!?


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「――っ!?」」


 俺が突然大声を上げたので、二人は何事かと目を丸くする。

 しかしそんな二人に構う暇なんてない。何故ならとんでもない真実に辿り着いてしまったからだ。


「あの神ぃっ! 元の世界に戻すって言ってねえぇぇぇぇぇぇっ!」





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