新たな交流

「テトは見ちゃだめー!」

 マーブルが、仰天としたふうに突っ立っているテトの視線が、ベッドに釘付けとなっているのを妨害しようと、手を広げては何度も飛び跳ねていると、


「ご、ごめんなさい。もぅっ! マ、マガネちゃん?! だから、わたし、お友達と泊ってるんじゃないの? って確かめたじゃない!」

「てへっ、まあまあ、いいじゃないですかー。アスナお・姉・た・まっ」

「よくないっ!」

「…………」


 テトに躍起になりつつも、乙女心の剣幕に、マーブルが、つい、振り向けば、キルトケットで自らの体を覆うハーフアップの火照った頬の乙女が、涙目に睨むのを、未だ余韻に浸るようにしながらも、ヘラヘラとマガネがなだめてみせたりしていて、恍惚、満喫といった表情が、マーブルの視線に気づけば、

「あー、マーブルー。こちら、白樫アスナお姉たまっ」

「…………」


 ベッドの上では、内股に座り込んだマガネが、残った味わいを、尚、楽しむように舌なめずりなどしながら、あっけらかんと紹介などはじめたが、潤んだ瞳は、名を呼ばれれば、思わずうつむいてしまった。


「でー、こちらが、噂の私の大親友、マーブルと、少年には、さっき会ったよねー」

「……ど、どもー」

「……はじめまして」


 そして、マーブルが、ひきつった笑みとともにとりあえず軽く挨拶をすれば、伏し目がちながらも、アスナは答え、

「お姉たまは私たちの一個上のお姉たまなんだよーっ。やー、よその地球人の女の子ゲット第一号が、まさかの大人の味わいとは、これぞ、人生の至宝!」

「なに言ってるの!」


 マガネがギャハハと笑ったところで、マーブルのみならず、全く同じ台詞で一喝したのは、尚、頬を赤く染めているアスナなのであった。


 カチャリカチャリと、愛用である鎧が装着され、スカートの辺りから伸びる白いマントがひるがえる頃には、アスナの表情も幾分かは収まり、その姿は、マーブルも陽射の下でみた女剣士であることは間違いなかった。

 未だ、ベッドの上では胡坐をかいたマガネが鼻歌など刻みながら、そんな姿を、ジトリと眺め、ニヤニヤと体を揺らしている。


「ま、まあ、座って! アスナさん、改めてよろしくね!」

「……ありがとう。ほんと、ごめんなさい」

「いーって! いーって! 気にしないでー!」


 部屋の一角にある椅子などをすすめながら、つとめてマーブルが明るく接していると、

「アスナお姉たまったら、すごいんだよー! 白樫家は、この国の有能な国家指定ハンター、『聖騎士』ってのを、代々、輩出してる名家なんだってー!」

「ちょ、ちょっと、マガネちゃん?!」

「だから、マーブルと同じ、お嬢様ってわけさ」

「へー……」

「で、尊敬してるのが、彼の高原モモってわけ! 私の友達、末裔だよーだなんて、言ったら、もーう……」

「……そうなの。すごいわ! あの、四人の女傑さまのお一人が、ご先祖さまなんて!」


 そして、漸く、アスナの表情は、真っ直ぐにマーブルのことを見つめてくるではないか。ただ、それには苦笑交じりに、マーブルが、「いやー……うち、分家だしー」などと返しつつ、思わずマガネに視線を移せば、その瞳は、

(わたしを、ダシに使ったな!)

 と、猛抗議をぶつけたのだが、マガネの表情は、悪びれる様子もなければ、てへっとすれば、舌もペロリとだす始末であった。


 カチャリと音をたて、アスナは赤い鞘を握ると、

「わたしの剣じゃ、まだまだ、だめなの。もっと強くなって、もっともっと強い魔物を倒せるようにならないと……」

「でも、学校じゃ、トップなんでしょー?……ハンター専門の養成学校があるんだってさ。クラストップなのも、マーブルと同じだねっ」


 マガネはアスナに答えつつ、マーブルには説明をする。


「そこに満足してちゃ、この国の、いえ、この星のためになんてなれないわ。ねぇ、マーブル、さん。例えば、なんだけど、直伝の『クワン』の込め方だとか、もし知ってたら、教えてもらえないかな?」


 アスナは随分と真面目な性格のようだ。ただ見慣れぬ単語に、瞬きを繰り返しながら、マーブルが、「……クワン?」と問いかけるようにすると、察したアスナは、鞘を握り、「マーブルさん、危ないから、ちょっと……」などと、彼女に距離をとることを促せば、立ちあがるのだった。


 一時はレーザー一辺倒といっていい時期もあったが、タケルの小烏丸、モモのグラムドリングの活躍などもあり、金属製の剣も見直されて久しいこの時代、アスナが赤い鞘から抜いてみせたのは、銀色の光沢も美しいレイピアだった。そして、構え、アスナが息もスーッと静かに吸うと、その刀身はみるみる輝きを放ち始める。刹那、剣士のブラウンの瞳が、キッと前を見据えれば、右手からは、まるで人間技とは思えない閃光の突きがみるみる繰り出されるではないか。

「うわっ」

「ガウ」

 一陣の風すら起こった現象に、とりあえずベッドの上に座ったマーブルや、人造人間などの驚嘆が響くなか、はにかみ笑顔となったアスナが得物を元の鞘に収めつつ、

「クワンっていうのは、もともと、この星の先住民の言葉なんだけど……」

 などと説明をはじめようとした矢先、

「……借力だね」

「え、ちゃ?」

「超能力だよー、でー、のー、一種ー」


 またもや聞き慣れぬ単語に、思わずマーブルが隣のベッドに視線をやれば、マガネは、なにやらめんどくさそうにすらして背中をポリポリかいている。そして、マーブルが、

「あんた、こういうの詳しかったっけ?」

 などと問えば、「さーねー。けど、珍しいことでもないじゃーん」と、マガネは答えたのち、

「この子は、そういうのわからないよー。大親友の専門は、専ら、こいつさ!」

 と、尚、棒立ちにしているテトの方を指さすのであった。


 「そう、なんだ……」と、多少ばかりかは残念そうにしたアスナであったが、すぐさま気を取り直したようにすると、テトの方まで近づいていき、手を後ろ手にその長身を見上げれば、

「でも、すごいなー。女の子一人で、こんな大きいロボット、作れちゃうなんて。こんばんは」


 ただ、違いのわかっていない乙女の何事もなかったような笑顔を前に、未だうろたえていたのはテトの方で、「ガ、ガウ……」などと視線をそらすようにしてしまうと、

「あら、この子、喋れないタイプなのかな?」

 などと、なにも知らない長い髪がひるがえれば、クックックと肩を揺らして笑うマガネのベッドの隣で、マーブルは苦笑いとともに、

「ううん。ほらー、テトー、ご挨拶してー」

 と、促すのだった。

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