剣士、ふたたび

 あちこちと滅びた様相を呈してはいるが、洋風な高級レストランの一室であるかのような部屋に案内されて、着席すれば、テーブルの上には、久々に稼働した、西洋の甲冑のデザリングをしたロボットたちが、食事を一品ずつ運んでくるところであった。そして、どれだけ、まともに食事をしていないかが計り知れないクーが、花より団子とばかりに嬉々として喜んで手をつける中、漸く、モモも、朝から、何も食べていないことにきづくのであった。

(………………)

 ただ、今頃、教室で、親友や委員長達と、祖母が作ってくれたお弁当と共に、よくある学生生活の一コマを過ごしていたかもしれない事などを思うと、ふと、手にしていたフォークの動きも止まる。だが、グリバスとの約束をも思い出せば、少女の瞳には、強き光も灯り、やがて、口に運ばれたそれが、ほっぺたがおちるほどの味わいであったりすると、睫毛も長き南国の瞳は、一際に大きく見開かれたりするのであった。そんな一部始終を、浮遊しながらもじっと見つめていたAIウズメは、食事する子供たちの姿に、ただただ、静かに頷いていた。


「ほう……黒王、自ら、お出ましじゃぞい」

 今や、太陽系にある人々の住む星、国を全て制圧しつつある宇宙船同士のやりとりの通信などを傍受しながら、AIウズメは、ふと、呟き、

「えっ……!」

 その聞いたことのある呼称を耳にし、思わずモモの手は止まった。

「しかも、ここは、やつらが連合から奪った領土からすれば、飛び地じゃぞい。このカラクリは、何を意味するんかいな……」

 人工知能老婆は、自らのスペックを駆使して、ネットの波の中にダイビングを重ねていっている様子である。だが、

「ふむ~。情報っちゅうのは、便利じゃが、これがデジタルの限界かのう~。『神通力』の方がはるかに便利だったもんじゃわい~」

 どこもかしこも機密扱いの壁に阻まれれば、とうとう、調査を断念し肩をすくめてみせたのだ。ただ、相変わらず愛娘は、我関せずと、次から次へと物を口に運ぶ中、自らのかつての戦友とそっくりの厳しい視線と目が合ってしまえば、

「ほれほれ、飯が冷めてしまうぞい。育ち盛りなんじゃから」

 なんぞと、一端の親ともなった者ゆえの無意識なる口調が、モモの食事を促した。


 それは食事もひと段落着いた頃合であった。

「さて、モモや。おぬしをここによこしたはグリバスじゃな……あの金属じじいも、いよいよ天に召されたか」

「えっ、は、はい!」

 モモは、そのなんでもお見通し具合に驚きつつ答えると、ウズメAIは頷き、

「ついてまいれ……皆で食後の散歩じゃ」

 などと語りかけ、二人の乙女の前に漂うと、ボォーと電光状の光の姿のままに、先導するのであった。


 廃墟でしかなかった宮殿内は、先刻よりも、そこ、ここの回路が鈍色に機能している模様だ。ホログラムは、二人の少女を案内しながら、

「……ありゃ、まだワシが総理をやっとった頃じゃ。まぁ、ワシらも話し合っての。元はただの若者を、いつまでも戦争やら政界やらに留めおくのも不憫と思ったというわけじゃ。一時のタケルとイヨは、本人達が望む望まぬに関わらず、そりゃ、注目される存在じゃった。じゃから、早々に引退させて、本人達をクマソに引っ込ませたというわけなんじゃ」

 と、思い出などを語り始め、

「……それからしばらくしてかのう……小僧とイヨが赤子とおるホログラムと電子メールなんぞをよこしてきたのは……奔放にやってきたワシじゃったが、それを眺めておったら、無償に欲しくなってしまっての~。じゃが、日本は元の国造りからはじめなならんかった。激務とあれば、安心して我が子を腹にいれてもおけんじゃろ?」

 などと、それは、やがてクーの出生話に変わっていったのだ。


 奥方となった中国出身の女とは、エウロパで出会ったなどという、デレデレした、与太話も続いたが、

「……女っちゅーのは、母親になると、更にええ女になる! たまらんぞい!……じゃが、娘も年ごろになる頃には、国も漸く落ち着いての。見極めた上、ワシも政界から引退することにしたんじゃ。これからは嫁たちとたっぷり過ごすぞい! なんて思ってたもんじゃが……ある夜、ワシの持つ『神通力』が、ワシの死期が近い事と、ある事を予知させたんで、飛び起きたんじゃ」

 そしてあくる日、全ての旦那と嫁と、愛娘クーが見つめる中にて、ウズメは予知について、とうとうと語ったのだという。

「じゃが、ワシゃ、人間ではあり得ないほど充分に生きたぞな。問題は、ワシが予知した『漆黒の闇、銀河に蔓延る』というイメージじゃ。それは漠然とはしておったが、あまりに不穏な存在が、この銀河にふたたび台頭するという未来のイメージじゃった。そして、その『闇』に抗する事のできる選ばれし者が、光り輝かしく、この宮殿に現れる、ということも暗示しておった」

 モモの隣では、当時を思い出すようにしてウンウンとクーが頷いている。


「……じゃから、ワシは、死して尚、仮にも存在するため、全ての記憶データをネットに落とし込むことに決め、その日まで、この地でそれを待つことにした。して、クーには、我が聖剣の番人として共に眠ってもらう事にしたというわけじゃ」

(…………聖剣?)

 モモの瞳は疑問に瞬きしている間に、場所は、大きく開かれた区画へと入り、丁度、眼前には、大きな円形の競技場のようなものも現れると、

「……して、モモや、さっきの食器の使いっぷりからして……利き手は?」

「えっ、右、です」

「……ふむ。直されたというわけでもなさそうじゃしな。小烏丸じゃったら、とかく左右のバランスじゃからの~」

(子……ま……?)

 立体映像の呟く言葉の端に、聞き慣れぬ単語すら浮かぶ頃、荒れ果てた競技場の中央が何やら稼働すると、そこから、今、ゆっくりと浮かんでくるのは、突き刺さる、綺麗な柄の装飾をした一振りの剣が、夕焼けの光の中に映える姿であり、

「聖剣グラムドリングじゃ……」

 嗄れ声は、一度、そこで区切ると、

「モモよ。今、銀河は危機に瀕しておる。そなたこそが選ばれし者! その剣を手にし、銀河系を救うのじゃ!」

(…………!)

 その後に呼びかけられた言葉に、モモはまたもや大きく目を見開かざるをえなかった。すると、

「ワシゃはもうこんなAIじゃ。クーが手取り足取り教えるぞい」

 などとも付け加えられたので、振り向けば新たな友が、

「任せてアルネ!」

 と、色違いのチャイナドレスの突き出した自らの胸を、ポヨンっと叩くのであった。


 生まれてはじめて持つ武器は、いくらスポーツ万能であったとは言え、死ぬほど重く感じる。そして、荒れ果てた円形闘技場の上では、基本の構えすらままならないモモが、顔も真っ赤にプルプルとしながらも、なんとかやってやろうとするのを、クーが体を密着させ、熱血指導するのであった。チャイナドレスを着た美しき乙女二人が、絡み合うようにしている光景に、すっかり、機械になりやがったくせに、ウズメは、ハァハァと、目をハートにして鼻息を荒くしていた事は言うまでもない。


 言わば、午後の体育の授業といったところであろうか。元々、運動神経のいいモモの事である。ぎこちないとはいえ、徐々に形を成していく中、その切っ先に自分の持つ超常の力をこめることのコツすら、早速飲み込んでるところを見、

「ふ……あやつより、はるかに筋がよいではないか……」

 などと、ウズメは、かつての自分の弟子の姿とそれを重ね合わせ、笑みを浮かべたりするのであった。


 そして、モモには、かつての剣士よりガッツもあった。少女が時間の経過も解らないままに、茜空の元、一心不乱に剣を振り続ける中、

「よーし。そこまで! 晩飯じゃ! はよ、風呂はいってこーい!」

 実体のない老婆の姿が時刻を告げ、その愛娘が無邪気に喜び、

「……ふーーーーっ!」

 と、一息をいれると、かつての誰かさんのようにへたれこむわけでもなく、モモは、汗だくとはいえ、今や、仁王立ちのままに、しっかりと剣を鞘におさめるのだった。


 すっかり裸の付き合いとなったクーと、再び、汗を流した後の脱衣所には、今日、一日に起きた事が嘘のように、聖トーハー女子高等学校の制服がクリーニングすらされて、ひとしきりおかれており、クーは、その制服のデザリングのかわいさを無邪気にたたえたりした。無論、その側には、性懲りもなく、各自、天女の羽衣も置かれてはいたが、もちろん黙殺した二人に対し、白々しく振る舞う、機械化され、尚、衰えぬ変態エロティックは、夕飯時となり、

「そうじゃな……一先ず、小烏丸を見つけだす事じゃな」

 などと、今後のモモの道のりを切り出し、頷いてみせたりするのであった。


(…………?)

 確か、老婆の記憶媒体は、先程も同じ単語を呟いていたような気がする。モモが今一度、意味を確かめようと瞬きをして、ホログラムの方を見ると、

「ふむ…………本来なら、お主が受け継いでいたかもしれぬ、一振りの剣の事じゃよ」

 立体映像は何やら言葉を選ぶようにして語りはじめ、

「タケルのやつめ。何処かに隠しよったみたいでな。まぁ、聖剣に、名刀まで揃えば、鬼に金棒ということじゃ。お主は筋がええ。鬼退治もすんなり事が進むじゃろうて」

 それは、モモの先祖にかつて伝来していた刀だと、AIウズメは語り続ける。今日、一日で怒涛の展開であるが、何かと色々なことも明確になっていく。目下の目標なども定まれば、少女の意思は強くなるというものだった。


 ただ、鉄のような決意と裏腹に、一度に様々なことを見させられた少女の心は、ふと、疼き、次第に夕餉を前にしていた手の動きも、緩やかとなった果てに止まるのもしょうがない事であった。

(……わたしに、できるのカナ)

 いくら、かつての祖先は偉業を成した、その末裔とは言え、モモは、つい、昨日までは、普通の女の子に過ぎなかったのだ。自分の在る太陽系から遠い彼方にあり、銀河系連合にも属していない星に建国された国の王が、突如、他の星々にまで侵攻をはじめた、というのは、たまに眺めるニュースかなんかで、ぼんやりとは知っていた。スクープと言う名の元に報道された映像には、いづこかの占領した街を視察する、ヤックルという、ハイデリヤ特有の黒い馬に乗り、鎧もマントも真っ黒づくめに、腰には剣の柄をも覗かせ、細面の顔には切れ長の目が印象的な、整った顔の若者の横顔が、角の生えた黒髪を風になびかせていたものである。


 モモたちの、ハイテクな文明都市の光景が当たり前の世界の者から見れば、一体いつの時代だと驚きたくもなる価値観であったが、銀河系一の戦闘民族という民族を丸ごと従えたという「黒王」は、見た目で言えば、モモより、多少、大人といった風貌程度であるのに、王らしい貫禄と威厳は、相当なものだった気がする。ただ、宇宙は身近となって久しいが、銀河系は果てなく広いのだ。そのニュースを見たことすらも遠い記憶のようであり、モモにとっては、それほど、対岸の火事というよりも、更に遥か遠い、他人事でしかなかったのだ。


 いつの間にか、思い詰めた顔となっていた少女を、AIウズメはじっと見つめていたが、

「……今でこそ、英雄などと持ち上げられておるお主の先祖じゃがな。あやつ、元々は単なる、宇宙船の運転手だったらしいぞえ」

 彼女は生前の生きていた頃の記憶を、少しばかり大事に取り上げるようにして語りだし、

「……本人は、音楽で食っていきたかったらしいがの。それがなんの因果か、気づけば、第一次宇宙大戦に巻き込まれ、随分、悩んだこともあったそうじゃ」

(…………!)

 花より団子のクーが食事を更に進める隣で、モモは、ここでもまた、自らの体の中に宿るルーツの、遥か向こうでしかなかったものが、一気に間近に感じ出す感覚を覚えた。


「……ワシのところにきた時には、まぁまぁ、一端にはなっておったが、それでも英雄というには程遠いやつじゃったわい。ワシが脅かせば、慌てふためいて、あっちこっち逃げ回ってばかりでのぉ……うっひっひ。に、比べりゃ、おぬし、遥かに若いのに、ガッツもあれば筋もええ! お主なら、できる!」

(………………!)

 すっかりなじみであるような口ぶりと共に、太鼓判まで押されれば、

「お、おばあちゃん、タケル、さん?と、どんな……?」

 などとモモは問い、そんな制服姿の胸をなんとか揉んでやろうと、四苦八苦しはじめていた目の前の立体映像は、

「わっからんかのう! あいつはワシの弟子じゃ!」

 と、さも当然のような口ぶりで返すままに、相変わらず、欲望に忠実と化していた。


 完全破壊したテオの修理もあり、モモは、その日、朽ち果てた空中宮殿に泊まる事にしたのだ。天蓋もついた巨大なベットの、すぐ隣では、今までも散々寝たろうに、赤毛のハーフのクーが、既に涎をたらし、惰眠を貪っている。ところどころひび割れもある窓の外の茜空は、漸く、夜にちかづく闇も伴っていて、いくつものの国家に分かれていた月たちが、行灯のように光っていた。今日、一日、少女にとっては急展開の連続だったが、色々と思うところはありながらも一息ついた心は、やがて、瞼を重いものとしていくのであった。


 少女たちも寝静まった頃、伽藍としたその一室では、窓の外の、モモも見た同じ月たちを見上げながら、AIウズメが一人、ネットの海にダイビングし、状況分析につとめていたのだが、

「……ふむ。最早、あまり興味もないが、決して手放しもせぬ、か。……やれやれ。そこまで父も恋しいかえ……」

 などと、呟いた後は一先ず苦笑し、

「未来とは本来、不確定じゃ。違う流れもあったろうに……。して、タケルよ……まさか、お前の玄孫とはの……そして、お主が老いて見たのが、これ、ちゅーわけかい……」

 と、今は亡き、弟子に語りかけたりするのであった。地球から届いた、かつて、共に国の礎を築いたグリバスからの、


  将軍の予言、的中せり。後は頼む。


 などというメッセージを眺めつつ、ネットの海から手繰りよせた黒王の顔には、間違いなく弟子の面影すらあるではないか。こうして、全てを悟ったウズメは、

「やれやれ……タケル……お主も罪な男ぞ。老体がいいえるだけの事は言ったわい。これでよいな」

 と、もう一度、かつての愛弟子に語りかけるのであった。


「起きろーい! 起きろーい! 敵襲じゃわーい!」

 どれほど眠ったかは解らないが、老婆のがなり声がすると、モモもクーも、寝ぼけまなこに起きたものだが、ホログラムの老婆が「猛鬼」という単語を口走れば、途端に、共に二人の乙女の瞳は大きくなってしまうというものだった。

「必要なもんは、全部、船にのっけた!  テオも直したわい! 一足先にいっとるぞ!」

 状況を語る老婆の記憶は、たまに、ジジジ……などという電波障害のような音をだしては、原型を留めなかったりしつつ、

「ふーむ。外から見えないようにはしとるが、時間の問題かのう……」

 などと、更に続けたが、

「パーパ!」

 自分の親の形に異常を察したクーが駆け寄ると、

「クー。この子と一緒に行っておやり……これがほんとのかわいい子には旅をさせよ、ってな。うっひっひっ」

「や! うちはパーパと一緒にいるっ!」

 ウズメAIがうまいこと言ったと自分にほくそ笑む隣では、娘がしきりと首をふるのであった。


 すると、そんな我が子をじっと見つめた後、

「……クーや。ワシが生きておった頃、約束したはずじゃぞ? ……再び、目覚めた、その時は、ここから飛び立て、と」

 皺だらけの機械の顔は、すっかり威厳のある親の口調となっていて、尚も、クーは肩を震わせ首を振るのみであったが、

「……この姿となってお前の元に現れたワシは、最早、ワシであってワシでない。お前は幻を見てるにすぎぬ。お前にはワシゆずりの力がある。格闘もできる。加えて、マーマに似て飛び切りの美人じゃ!」

 親は子に、優しく、強く、語りかけていく。

「お前は、パーパとマーマの……否、パーパたち、マーマたちの自慢の娘じゃ! お前はなんでもできる! さぁ!飛び立つ時じゃ!」

 そんな親子のやりとりを、モモがじっと見守っている時であった。


 DOOOOOOOOOOOOOOOOOON………………

 何やら近くで鈍い音が響けば、宮殿には微かな振動をも伝わってくるではないか!

「……あいつも、ひつこいの~……月の国のどこにもないからと……ここまでよこすかえ……」

 AIウズメは見回すようにしてひとりごちた。どうやら、猛鬼たちは、廃墟となって浮かぶあちこちの空中宮殿に姿を現しはじめているようだ!

「さぁ! ワシがこの古巣をステルスにしとくうちに! 早く!……行け!」

 語尾は愛娘に対する𠮟咤激励で、やがてクーも俯けば立ち上がり、駆け出す二人の少女の背中越しには、

「最早、ここは鬼の世じゃ! じゃが、周囲の連合に入っとる領土は、なんとか生きておる。とりあえず、その中に飛び込めーい!」

 というラストメッセージがあったのだ。


 垣間見える、果てしなき雲の層が立ちこめる世界から吹くすきま風に、モモもクーも顔をしかめ、制服のスカートやチャイナドレスを手で押さえていると、係留所にある宇宙船は速やかにハッチを開き、二人共に中に飛び込めば、

「オハヨウゴザイマス。早上好。モモ御嬢様、クー様」

 と、テオは元気に答えていて、モモの気づかう声と、クーの謝罪に受け答えしながらも、

「……デハ、アマリ時間モゴザイマセン。シートベルトヲ、オ閉メ下サイ。一気ニ連合加盟地域マデ、『いくーーーーーーーーっ!』ッテ、アレ?」

「パーパ……っ!」

 突然、録音されたような、なんだかなまめかしい女性の音声に切り替わった箇所に、流石の超ハイテク人工知能も驚いていると、すぐに自らの親のいたずらと察したクーが顔も真っ赤にしたりしていたが、ドタバタしながらもこうして船は、宮殿を離れ、再び、宇宙へと向かう船影は、まるで空へと打ち上がる流れ星であった。


 ジジジ……ジジジ……という音と共に、いよいよ、起動の限界を表していたホログラムのAIは、駆けていった若者たちの背中に、かつての自分の、剣と共に財を成すまでの冒険の日々などを重ね合わせ、見送っていたのかもしれない。やがて、穏やかな笑みが、

「やれやれ……」

 と、呟く頃、またもや、DOOOOOOOOOOOOOOOOOON……という音がしたと思えば、「おい。この社、突然現れたぞ」「魔法使いがいるのかもしれん。気を付けろ」などと言い合うハイデリヤ人達の影が通路にはあるではないか。

 

 ジジジ……ジジジ……と、頻度も次第に増やした、AIウズメは、

「これがほんとの、昨日の友が、今日の敵っ。なんちて。うっひっひ」

 などなど、一人うまい事を言ったと笑った後、

「これで、お役目ごめんじゃの……ダーリン……ハニーたち……今、参るぞえ……そっちで酒池肉林、じゃ……」

 とも、悟り切ってみせたりもしたが、王に、剣の捜索という厳命を任された猛鬼たちが、各自、身構え、宮殿内は、今や目前と迫る頃、テレビのチャンネルを切るように消える瞬間のウズメの姿の、

「……あ、そいや、ワシ、とっくに死んどるんじゃった」

 という呟きが、一番うまい事を言ったかもしれなかった。






















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