15/ 事のはじめは自己紹介から


「ORDAへようこそ、広瀬君」


 聞き覚えのある優しい男性の声が聞こえる。


「−−−−あ」


 顔を上げた僕は思わず息を飲む。

 そこには僕と霧上さんを除いて二人の男女が座っていた。

 一人は僕を探査員に誘ってくれた探査局局長の雪永さん。

 もう一人は、以前食堂で青い風船を渡したあの銀髪の女の子。

 僕と目があうと小さく会釈をしてくれた。以前僕が見たのは決して幻なんかではなかったようだ。


「さぁ、どうぞ席に座って。弥も」


 いわれた通りに席につく。

 僕と霧上さん。その向かいには局長と銀髪の女の子。二人がそれぞれ対面する形となる。


「この四名が今回の探査プロジェクトメンバーになる。本来ならもっと大勢で行われるんだけれど……正直な話、なかなか賛同を得られなくて。広瀬君は不安に思ってしまうかもしれないけれど……」

「いえ……そんなことは……」


 申し訳なさそうに雪永さんは眉を下ろす。


「僕が本当に信頼できるメンバーを集めた。一人一人が十人力の能力がある。全力で広瀬君をサポートしていくから、どうぞ宜しくお願いします」

「……そ、そんな。頭を上げてください。僕の方こそ大した力になれるかも分からないんですけ……宜しくお願いします!」


 二人で頭を下げあう。

 雪永さんが頭を上げなければ僕が頭を上げるわけにもいかない。

 どちらも引かない攻防を諌めたのは霧上さんの咳払いだった。


「頭を下げあうだけじゃ話は進まないわよ。改めて自己紹介でもはじめたら? 局長」

「……それも、そうだね。じゃあ、改めて」


 霧上さんに促されると雪永さんはようやく頭を上げてくれた。


「僕はプロジェクトリーダーの雪永春久です。頼りないリーダーかもしれないけれど、宜しく頼むよ」


 そうして雪永さんは向かいに座る霧上さんに視線を送る。


「霧上弥です。主にメディカル面でのサポートを担当するわ。具合が悪かったらいつでもいってね」

「……霧上さんってお医者さんだったんですか」

「ふふん。自分でいうのもなんだけど、意外と有能なのよ私」


 研究者だと思っていたが、まさか医師免許まで持っているとは。

 僕が驚きの視線を向けると、霧上さんは得意げに微笑み眼鏡を光らせた。

 残るは僕と、もう一人の女の子。どちらが先に挨拶すべきかと悩んでいると、彼女が口を開いた。


「……雨宮リオ。異世界でのオペレーターを担当します……よろしく」


 言葉短かに語られた挨拶。女の子−−雨宮さんは軽く頭を下げた。

 ん? ちょっと待て。雨宮って、どこかで聞き覚えのある名字だけれど。


「あの、雨宮……って」

「ああ。リオは雨宮博士の娘で−−僕の姪だ。年は広瀬君と同じ十六歳。オペレーターと探査員は共有する時間が多い。歳も近いからお互い仲良く、ね」


 そうはいわれたけれど……目があった瞬間に逸らされてしまった。

 僕も僕とて、学校で女子と仲よく会話できるほど気さくなわけでもない。これは仲良くなるのに相当の時間を要しそうだ。


「じゃあ、最後。我らが探査員!」


 霧上さんが軽く僕の肩を叩く。

 最後は僕の番。背筋を伸ばし、おそらく僕のことをよく知らないであろう雨宮さんの方に視線をむけた。


「えっ、と。星霜高校二年の広瀬優です。異世界の知識はほぼ皆無ですけど……自分にできることを精一杯頑張りますので、宜しくお願いします!」


 深々と頭をさげると、三人は拍手をしてくれた。


「以上。探査員一名、後方支援三名、計四名でプロジェクトにとりかかっていく。他プロジェクトに比べ、人数こそ少ないけれど……少人数だからこそのチームワークで安全にミッションをこなしていこう! 改めて、宜しくお願いします!」


 雪永さんの掛け声で、全員深々とお辞儀をした。

 この四名で異世界転移探査を行なっていくこととなる。

 雪永さんと霧上さんの人柄はなんとなく把握できたけれど、雨宮さんに関してはまだまだ謎が多い。

 雨宮さんは相変わらず無表情のままで、中々目はあわず、あったとしてもやはりすぐに逸らされてしまう。

 一番時間を共有するという、探査員とオペレーター。先行き思いやられるが、やるしかないようだ。

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