14/ ORDAへようこそ


 そうして幕が開けた夏休み初日−−晴れて『異世界転移探査員候補』となった僕、広瀬優はORDA探査局の前に立っていた。

 この夏休みを利用して異世界転移訓練を行うとの連絡を受け、荷物を持ってやってきた。

 訓練期間は一ヶ月。今年の夏休みは丸々訓練合宿で潰れることになりそうだ。

 まだ探査員候補者という身分ゆえ情報を漏らすわけにもいかず、杉本の誘いをことごとく断ってしまったことは申し訳ない。杉本は夏休みを楽しんでほしい。僕は僕で、精一杯頑張るから。


「おはよう。時間通りで感心感心」


 探査局に入ると、受付前のソファに霧上さんが座っていた。一ヶ月振りの再会だ。


「おはようございます、霧上さん。今日からお世話になります」

「改めて探査局へようこそ、探査員候補の広瀬優君。また会えて嬉しいわ」


 挨拶すると霧上さんは嬉しそうに微笑んでくれた。


「とりあえず……荷物は部屋のほうに運んでおくから、そこの荷台の上に置いてね。ミーティングがあるから、会議室に向かいましょう」

「はい」


 受付横に置かれていた荷台に荷物を乗せ、霧上さんの後を追う。

 ゲートの手前で霧上さんは思い出したようにこちらを振り返った。


「広瀬君の入館証ができたのよ。これ……はい」


 差し出されたカードホルダーには一枚のカードが入っていた。

 そこにはIDと僕の顔写真と、名前。その上には『異世界転移探査員候補』と立派すぎる肩書きが書かれている。


「そのカードには個人情報が入ってるの。紛失するととーっても面倒だから、大切にしてね」

「…………はいっ!」


 僕もPUEAの一員として認められたのだ。

 首から入館証を下ろすと、身が引き締まり自然と背筋が伸びたような気がした。


「ミーティングってどんなことをするんですか?」


 エレベーターの中で、僕は霧上さんに話しかける。


「そうね……まずは今回のプロジェクトメンバーの紹介。それから今後の訓練予定についての説明。今日は丸一日オリエンテーションになると思うわ」

「てっきりいきなり難しい勉強会とか、体力テストとか始まるのかと……」

「ふふ、それはまた追々ね。初日からキツいことはいわないから、肩肘張らずに楽しんで。あ、最初に自己紹介してもらうから簡単に考えておいてね」

「はい……頑張ります」


 エレベーターは目的地の四階までゆっくりと上がっていく。

 自己紹介……か。進級するたびに行われてきた恒例行事だが、正直なところ苦手なんだよな。好感を与えられるような良い自己紹介ができるか不安しかない。


「ほら、顔が硬いぞ少年。レッツスマイル」

「…………が、頑張ります」


 つい顔が強張っていたのだろう。霧上さんは気合をいれるように僕の背中を軽く叩く。

 にっ、と笑みを浮かべる霧上さんに応えるように僕はぎこちなく笑顔を浮かべた。



 そうしていつの間にか僕は会議室の前に立っていて−−。


「霧上です。転移探査員候補を連れてきました」


 心の準備が整う前に、霧上さんはさっさと扉をノックして開けてしまった。

 部屋の中には数人の姿が見える。この部屋に入室したら、いよいよ転移訓練がはじまってしまう。


「さ、どうぞ」


 霧上さんは扉を開けたまま入室を促す。

 今更逃げることはできない。ここまできたのだから、もう進むしかないのだ。

 僕は深呼吸を数回繰り返し、意を決して会議室に足を踏み入れた。


「今日からお世話になります、広瀬優です! どうぞ宜しくお願い致します!」


 できるかぎり腹から声を出し、姿勢良く頭を下げる。



 いよいよ、異世界転移探査員候補としての訓練生活が幕を開けた−–。

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