1.5章/ 異世界転移までの五日間

13/ 家族会議

 七月。世の学生たちが待ちに待った夏休みがやってきた。

 渡された大量の課題には目もくれず、クラスメイトたちは終業式一週間前から楽しそうに夏休みの計画を立てていた。


 一月前、探査局局長雪永さんとの面談が終わった後、すぐに彼は僕の両親にかけ合ってくれた。

 宣言通り忙しい時間を割いてわざわざ僕の家に赴き、分かりやすくまとめた資料を持参した上で懇切丁寧な説明会が行われた。


 ORDAについて。異世界について。僕が探査員候補に選ばれた理由。僕が参加するプロジェクトの簡単な説明。

 転移探査員に支払われる報酬や、異世界転移に関する危険性。

 まだ未成年で学生の僕に対しての学業面のサポート。今後の学校生活に関わること。

 

 などなど、全てのメリット、デメリットを包み隠すことなく雪永さんは話した。

 口下手な僕の説明では理解半分だった両親も、彼の説明によってようやく理解ができたようだ。

 渡された機密保持の契約書や保護者の同意書などのお堅い資料を目にし、彼らもようやく僕が探査員に選ばれた事の重大さに気づいたようだった。


「今後の進路や、最悪命に関わるとても重要なことです。我々はご子息の力を必要としておりますし、優さんも異世界転移をしたいという明確な意思があります。ですが、今一度じっくりとご家族で話し合ってください」


 訪問販売のセールスマンのように書類記入を急かすことなく、雪永さんは何度も話し合うようにと念押しして帰っていった。




 その夜、両親、姉、僕の四人で家族会議が開かれた。

 バイトから帰ってきた姉さんは両親から話を聞いて「マジだったんだ」と驚いた顔を浮かべた。

 普通のサラリーマンの父、パート勤めの主婦の母、今時の大学生の姉、そして高校生の僕。

 ごくごく普通の四人家族に突如舞い込んできたとんでもない話に、皆は息を飲んだ。


「お母さん、難しいことはよく分からないけれど……とにかく、優は凄いことに選ばれたのよね。でも、海外にも行ったことないのにいきなり異世界だなんて……危険じゃないかしら」

「異世界探査員って宇宙飛行士みたいに頭も良くて運動もできるエリートが選ばれるんでしょう? ユウは超普通の高校生じゃん。なんか裏、ありそうじゃない?」


 母と姉は僕の異世界転移に反対意見を示した。

 姉はともかく、母は雪永さんから転移の危険性を聞いている。今まで一度も死亡事故こそ起きてはいないが、転移装置故障の可能性や、平和な日本とかけ離れた異世界の治安を耳にすれば不安になって当然である。


「……だけど、一番大事なのは優本人の意思じゃないか?」


 女子の会話を黙って聞いていた父がようやく口を開いた。

 真剣な眼差しで僕を見つめ、お前はどうしたんだ、と聞いてくる。


「……僕は、異世界に行ってみたい」

「でも……」


 口を挟みかけた母を父は手でそっと制す。


「たまに家族や、父さんに連れられて色々なところ行ったよね。僕は、自分の知らない場所や景色を見るのがとっても大好きだったんだ。異世界みたいに簡単に誰でもいけない場所を見られるなんて、多分このチャンスを逃したら一生ないと思う。だから……僕は、異世界に行きたい」


 こんな風にはっきりと家族の前で自分の意見を述べたのは初めてのことだったかもしれない。

 僕の言葉を聞いた父さんはゆっくりと頷いて、ペンと印鑑を持ち出すと、同意書に署名捺印をして僕に渡してくれた。


「父さんは学生の頃、海外留学をしたかったけれど勇気がなくて諦めたんだ。今思えばあの時勇気をだしていたら人生変わっていたんじゃないかって、後悔したこともあるよ。まぁ、行かなかったおかげで母さんと出会えたんだけどな」


 なんて冗談交じりに笑いながら、父さんは僕を真剣に見つめた。


「だからこそ、自分の息子には後悔だけはしてほしくない。若いうちに色々な世界を見ることはとっても良いことだ。大人になると段々と自由はきかなくなっていくからね。だから、父さんは優を応援するよ」

「父さん……反対しないの?」

「反対なんてするもんか。むしろ父さんは優を尊敬するよ。父さんも昔は異世界転移モノが大好きだったんだ。異世界探査なんて男のロマンみたいなものだろう!」

 

 父さんが楽しそうに声をあげる。

 こんな風に子供のような笑顔を浮かべる父さんをはじめてみた。


「…………そう、よね。優がやりたいっていってるんだから、家族が一番に応援しなきゃよね」

「無事に帰ってきたら周りに自慢してやるんだから。ウチの弟は異世界に行ってきたんだぞーって」


 反対されると思っていたが、父の言葉で家族全員の風向きが変わった。

 こうして家族の了承を得、いつの間にか雪永さんの手回しで学校側も全面協力をしてくれるという形になり−−僕の予想に反して、異世界転移の話はトントン拍子に進んでいったのであった。

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