10/ 通知書の真意


「局長も部屋に戻って来たみたいだから。行きましょうか」


 昼食を終え、いよいよ本題の局長室へ足を踏み入れることとなった。


「霧上です。入ります」


 探査局最上階最奥に局長室はあった。

 霧上さんが入室し、僕はその後に続いく。

 局長室は広く、応接スペースもあるが一つの研究室のようだった。

 両壁一面に作られた本棚にはずらりと書物が並んでいる。けれどきちんと整頓された綺麗な室内だ。

 窓際にあるデスクには、見覚えのある白衣姿の男性が座っていた。


「弥、待たせてしまって悪かったね」

「いえ。会議お疲れ様です。広瀬優さんを連れてきました」


 僕と目があうと、男性はにこりと優しい微笑みを浮かべた。


「はじめまして、広瀬優君。僕がお招きしたというのにお待たせしてしまって申し訳なかった。探査局局長の雪永です」

「は、はじめまして。星霜高校二年の広瀬です」


 にこやかに歩み寄られ差し出された手をおずおずと握り返す。


「午前から退屈じゃなかったかい?」

「いえ……霧上さんが施設の中を案内してくれたので……」

「弥も忙しいのに申し訳なかった。業務に戻ってくれて大丈夫だよ」

「わかりました。じゃあ、私はこれで。広瀬君、ご縁があればまたいつか」

「あっ、ありがとうございました!」


 退室する霧上さんに頭を下げると、彼女は微笑んで手を振ってくれた。

 今まで一緒にいた霧上さんがいなくなると、忘れていたはずの緊張感が急にこみあげてきてしまう。


 その名の通り、探査局局長の雪永さんはこの中で一番偉い人だ。

 そんな凄い人と部屋に二人きりだなんてどうしていいかわからず、僕は落ち着きなく目を泳がせる。


「さ、そこに座って楽にして。そんなに緊張しなくても大丈夫だから。広瀬君はコーヒーは飲めるかな?」

「は、はい」


 促されるがままに、来客用のソファに座る。

 黒革のソファは明らかに高級そうで、座り心地がとんでもなく良い。学校の椅子と比べたら天と地の差だろう。


「コーヒーといってもお湯で溶かすインスタントだけど。ミルクやお砂糖は必要かな?」

「えっと、じゃあ……両方、お願いします」

「僕もどうもブラックコーヒーが苦手でね。いつも砂糖とミルクをたっぷり入れてしまうんだ」


 僕を和ませようと雪永さんが気を使って声をかけてくれる。

 少しして部屋にコーヒーの香ばしい香りが漂い、彼は二人ぶんのコーヒーと高級そうな缶を持って僕の前に座った。


「これ、貰い物なんだけど。よかったらコーヒーのお供に……好きなの食べて」


 缶の中身はクッキーだった。

 プレーン、チョコチップ、市松模様−−色とりどりに並んだそれはとても美味しそうだ。


「さ、遠慮せずにどうぞ。僕一人じゃ食べきれないから沢山食べてね」

「ありがとうございます。いただきます」


 僕は手を合わせ、中央にチェリーがのったクッキーを一枚いただくことにした。

 ミルクと砂糖が入ったコーヒーも美味しく、少しだけ緊張が和らぐ。


「−−さて、早速だけど本題に入ってもいいかな」

「は、はい。あの、家に届いた通知書の……こと、ですよね」


 唐突に本題を切り出され、思わず身構えてしまう。

 咀嚼していたクッキーをごくんと飲み込み、カバンの中から通知書を取り出し雪永さんの前に置いた。

 それにちらりと目を通した雪永さんは、大きく頷いて微笑んだ。


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