1章/ 異世界転移探査員候補に選ばれました

03/ 変わらない日常

「おい、優。民間探査員が帰ってきたってよ!」


 昼休み。教室で杉本と昼食を食べていると、唐突に目の前にスマホを突き出された。


《世界最年少民間異世界転移探査員ノエル・ウィリアムズ君が無事帰還》


 画面に表示されていたのはネットニュース。

 確か今朝ニュースで異世界探査員が帰ってくると耳にしたような気がする。


「へぇ……無事帰ってこれたみたいでよかったじゃん」


 僕は記事を流し読みしながら弁当を食べる。

 まだ十四歳の少年が半年間の異世界探査から帰還したという。

 写真に映るブロンドの美少年は誇らしげな表情を浮かべていた。世界で初めての快挙を遂げたんだ。本人も、きっと周りの家族だって鼻が高いことだろう。


「この子が帰ってきたってことは、また新しい探査員が選ばれるってことだろ! ついに俺の出番か!」

「……まだ、期待してたのかよ」


 興奮気味に目を輝かせる杉本に、思わず俺は呆れてしまった。

 あの講演から二ヶ月が経とうとしているが、ORDAからは探査員の話どころかアンケートに書いた質問の返答も返ってこない。

 忙しい組織だから当然のことで、僕は鼻から期待もしていなかったし、杉本から話題を振られなければとっくに忘れていただろう。

 杉本は未だに異世界に対する熱は冷めていない様だったが、だからといって俺たちの日常に変わりはなにもない。


「……このノエルって子、歳は俺たちより下だけど飛び級して大学だって卒業してるんだろ?」


 スマホの画面をスワイプし、記事を読み進めていく。


 ノエル・ウィリアムズ。米国在住の十四歳。

 両親は共にアメリカのORDA研究員。その影響で彼も幼い頃から異世界に触れてきた。

 IQが非常に高く、既に名門大学を卒業しており探査帰還後は大学院に進学するという。


 まさに僕たちとは住む世界がまるで違う、雲の上の人間だ。


「ORDAって宇宙センターみたいに世界中にあるんだろ? そもそも日本から新しい探査員が選ばれると決まったわけじゃないし……選ばれるとしても、きっとこういう特別な子が異世界に行くんだよ」

「でもさぁ……あの局長さんは、俺らの中から選ばれるかもっていってたじゃん……」


 スマホを返すと杉本はがっかりしたように肩を落とし、ちびちびと焼きそばパンを齧る。少しいじめすぎたかもしれない。


「まぁ、可能性はゼロじゃないとは思うけど……」

「だよな! そうだよな! まだ望みはゼロじゃないよな!」


 杉本は落ち込みやすいが物凄く切り替えが早い。

 瞬間瞬間で感情がコロコロと変わっていく。分かりやすいが、そこが面白く、また底抜けに良いヤツなのだ。


「でも……その前に中間試験が待ってる」

「…………うっ」


 僕の言葉に杉浦が再び固まった。


「赤点とった転移探査員……別の意味で注目されそうだな」


 僕も人のことをいえるほど優等生ではないが、赤点を取るほどの成績でもなかった。

 杉本はすっかり力なく項垂れてしまう。今度こそ流石にいいすぎたかもしれない。


「……ごめん。いいすぎたよ。そんなに落ち込まなくても−−」

「たまごやきいただきっ!」


 その瞬間、僕の弁当から卵焼きを一切れかっさらわれた。

 最後に食べようととっておいたそれは、抵抗する間もなく杉本の口の中へと放り込まれていく。


「僕の……たまごやき…………」


 ぽっかりと開いた弁当を見つめ、僕は呆然と固まる。


「俺の傷付いたガラスのハートはたまごやきじゃないと治らねーの!」

「ずいぶんと都合のいいハートだな! 代わりにそのチョコスティックパン一本寄越せ!」


 互いの昼食を奪い合い、ふざけ合いながらも楽しい昼休みの時間は流れていく。

 朝起きて、学校に通い、授業を受け、友人と戯れる、平凡な日々。

 これが僕、広瀬優にとっての日常なのだ。

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