アンノウン・ワールド〜異世界転移探査員はじめました〜

松田詩依

0/ 序章

00/ プロローグ 

 自分がこの世に生まれてきた理由を解っている人間は恐らく存在しない。


 生涯の中で自分が全身全霊で取り組めることを見つけられる人間は恐らく半数いるかいないかくらいで。

 残りの半数はやりたいことを模索し続けても中々見つからないか、ある程度のところできっとこれが自分のやりたかったことだと必死に己を説得し、現状が最適解だと足を止めてしまうのか。


 そのどれもが悪いことだとは思わない。

 だって自分自身の人生だ。正解も不正解もあるわけがない。

 やりたいことを見つけたから幸福というわけでも、見つけられないから不幸だというわけではないのだから。

 

 何百億という人類の中で、この世界に自身の生きた証−−痕跡を残せる人間はほんの一握り。

 それも自身の死後何年、何十年、何百年と語り継がれ、人々の記憶に残り続ける者はさらに少ないだろう。



 この世に生を受けたとき。まだ右も左も分からないくらい幼い頃。

 自分はなんでもでき、何者にでもなれると思っていた。


 たとえば、正義のヒーロー。

 たとえば、魔法使い。

 たとえば、宇宙飛行士。

 たとえば、たとえば、たとえば−−。


 だが。

 成長するにつれヒーローや魔法使いは物語の住人なのだとわかるときがきてしまうだろう。

 自分は選ばれた天才ではなく凡人なのではないかと気づいてしまうときがくるだろう。


 気づくと目の前に無限に広がっていたはずの道は途端に細く狭まっていて、沢山あったはずの分かれ道も数えるほどになってしまう。


 己の人生において、主人公は紛れもなく自分自身ではあるけれど。それは決して物語の主人公になれるということではない。 


 ただ、それはあくまでも自分自身の思い込みなのかもしれない。

 自分は何者にもなれないと、諦めてしまった時点で自分が進める道を自身の手で狭めてしまっているのかもしれない。



 ある少年にとっては、家族四人で暮らす我が家が。毎日通う高校の教室が。暮らしている小さな街が、世界の全てだった。

 運動も学力も人並みで。飛び抜けて優れた特技もなく。クラスの人気者にはなれないけれど、仲の良い友人は傍にいて。

 面白みもない平々凡々な日常が、少年にとっての当たり前だった。

 自分も知らない遠くの地へ旅立ってみたいと思いつつ、この居心地の良い狭い世界から飛び出す勇気もない。

 大きな地球から見たらあまりにも小さい、この日本という国で一生過ごすものだと思い込んでいた。

 


 ある少女にとっては、生まれた時から過ごしている広大な施設が。自室の窓から見える景色が世界の全てだった。

 外に出ることを禁じられていたが、周囲の人間は皆親切にしてくれた。両親はいないけれど、心を許せる人間が。家族と呼べる存在が傍にいた。

 テレビで見る美味しそうな食べ物、沢山の人が歩く交差点−−。色々なものに憧れを抱いていた。

 だが外にでる勇気もなく、一生出られるはずもないと諦めきっていた。

 このまま誰にも知られることなく、狭い世界の中でひっそりと生涯を終えるものだと思い込んでいた。



 まだ互いに顔も名前も知らず、接点もない。

 交わるはずのなかった二人の道は、互いの知らないところで少しずつ少しずつ近づいていく。



 様々な世界を巡る果てしない旅の始まり。

 二人の世界が少しずつ動きはじめたきっかけは、ある男子高校生に届いた一通の封書だった。

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