第31話

 カチュアの安全と独占欲の影響で、セントウィン王国国王に戴冠したアレサンドは、戴冠式の後で直ぐにウィントン大公領に戻っていた。

 当然カチュアと共にだ。

 王国の首都にあるセントウィン城は、周辺を敵対的な人族の国々に囲まれ、王都や王城の防御力も信じられないので、使い慣れて安心できるウィントン城の後宮でカチュアを護りたい一心だ。

 カチュアに出会う前のアレサンドなら、セントウィン城に居を定め、虎視眈々と周辺の人族王国を狙っていただろう。


 何人もの女性画家が後宮に集められていた。

 今迄は肖像画になど興味がなく、戴冠や戦勝記念に一幅仕方なく描かせる程度だったのに、今はカチュアの姿を記録したくて、多くの女性画家を召し抱えていた。

 特に今日は、戴冠式の手繋ぎを再現するために、また堂々を手繋ぎできる。

 皆の前で、特に人族の前で、カチュアが自分の妻だとアピールすることは、何ともいえない快感がある。


 カチュアとも甘い秘め事も、色に落ちそうなくらい快楽が激しいのだが、それとはまた違う天にも昇る快楽がある。

 それに、カチュアとの秘め事は、後宮の仕来りとは言え、二人きりになれない。

 検分役がいて、全てを記録してしまう。

 時間も回数もだ、秘め事が秘め事でなくなってしまう。


 アレサンドも頭では必要だと分かっているのだ。

 不義密通による王家乗っ取りや、側室や愛妾による過度な政務介入を防ぐため、一言一句記録し、表の側近忠臣重臣に披露しなければいけないのは。

 だが、カチュアに恋してから、二人の秘め事を公開することに、何ともいえない苛立ち、怒りを感じてしまうのだ。


 それに、検分役が余計な事を言うのだ。

「それ以上はカチュア様にご負担でございます」と!

 まあ、確かに、つがいの呪縛に囚われたアレサンドは、盛りのついた犬状態ではあるのだが、カチュアが拒否しないならいいではないかと思ってしまうのだ。


 だが、その不満を補って余りあるのが、カチュアと一緒に女性画家の前に出ることで、名誉欲というのか承認欲というのか分からない、欲を満足させてくれるのだ。

 そしてこの日は、政務で後宮に来れない間に、カチュアとレオが肖像画をかかせたと聞いてしまっていた。


 まだ下書きの状態で、鉛筆による線描写でしかないのだが、レオがカチュアの膝に抱かれていて、アレサンドは激しく嫉妬していた。

 その所為だろうか。

 アレサンドは突然カチュアを抱き上げ、お姫様抱っこをした。


「よいか!

 余とカチュアのこの姿を描き残すのだ!

 レオとカチュアの絵に劣るようなら、お前達の首を刎ねてやるぞ!」


「アレサンド。

 そのような事を言っては嫌です。

 皆で仲良く暮らすと言ったではありませんか。

 あの約束は嘘だったのですか?

 アレサンドは嘘つきなのですか?」


「いや、その、違うのだ。

 ちょっと画家達に喝を入れただけで、本気ではなのだ。

 首など刎ねない。

 絶対に刎ねない。

 むしろよく描けた画家には褒美をやろうと思っていたのだ。

 だからそんな哀しそうな顔をしないでくれ」


 何かあれば直ぐにカチュアが助ける事が増えていた。

 いつの間にかカチュアを頼る者達が周囲に集まって来ていた。

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