第28話

 ウィントン大公アレサンドは悩んでいた。

 元々は自分の考えを簡単に変えるような性格ではない。

 だが、カチュアにお願いされて、簡単に考えが変わってしまった。

 常人、いや、常虎獣人離れした胆力を持つアレサンドは、政務に関してはつがいの影響を排除しなければいけないという思いが、心の片隅にあった。


 これがわずかでもカチュアを傷つけるモノだったら、直情的に反応していた。

 だが今回の場合は、将来的に傷つけるモノだった。

 だから少し考えてしまったのだが、直ぐに将来的にであろうと、カチュアを傷つけるモノは許さないという考えに至った。

 そこで新しい後継者選定ルールを作らせることにした。


 自分が作るよりも、側近忠臣重臣達に色々な策を提案させ、討論させてから決めた方が、カチュアが悪く言われないと考えたのだ。

 アレサンドは徐々に策略を考えるようになっていた。

 カチュアを護るためには、強さに任せて強権発動するよりも、策略の方がいいと判断し、今迄では考えられなかった解決方法を選ぶようになっていた。


「なにをなされておられますの、アレサンド?

 一緒にお唄を歌う時間でございますよ」


「おお、そうであったな。

 では一緒にまいろうか?」


「はい、アレサンド」


 アレサンドは天にも昇る気持ちだった。

 カチュアは自分から手を繋いでくれるのだ。

 アレサンドは、カチュアが願いを聞き入れて呼び捨てにしてくれた日を忘れないし、手を繋いでくれるようになった日も忘れない。

 今でもその日の事を鮮明に思い出せる。


 それでも、まだ、自分からは手を繋ぎに行けない。

 出会った頃の方が積極的に行動できたのに、親しくなればなるほど、自分からカチュアにアプローチできなくなったしまった。

 何事もカチュアから先に行動してくれるのを待ってしまう。

 カチュアが許してくれないと何もできなくなってきた。


 最初は多少抵抗感も疑問もあったのだが、今では何の抵抗感も疑問もない。

 ただ頭と心の片隅に、これを家臣に知られてはいけないという思いは残っていて、全て鷹揚に構えているように演技していた。

 内心では尻尾まで振りそうだったのだが。

 まあ、最近は、虎獣人族を見てもカチュアが恐れ居竦む事がなくなっていて、いつも天真爛漫に振舞ってくれる。

 手を繋いでくれるし、時に抱きついてくれる。


 まあ、どうしてもレオという邪魔者がいるが、気にしなければいいと割り切れるようになってからは、心の中は二人きりだ。

 いや、口には出さないし、心に浮かんでも直ぐに打ち消すのだが、レオがいてくれるからこそ、カチュアが心身の健康を取り戻し、天真爛漫に振舞えるのだと分かっていた。


 そんレオが、またカチュアとアレサンドの関係を一歩進めてくれた。

 

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