第26話

 ウィントン大公アレサンドと側近忠臣達の交渉は激しかった。

 アレサンドは元々賢明な支配者だ。

 つがいの呪縛の恐れがなければ、アレサンドが強く推し進める政策は、家臣達よりも先見の明があると判断され、最終的に認められてきた。

 だが今は側近忠臣達といえども簡単には認められなかった。

 懐疑的な有力貴族達はそれ以上に不安に思っていた。


「大公殿下。

 ならばこのような相手はどうでしょう。

 殿下とカチュア様がつがいであり、最優先の関係である事を認め、それの上で正室となり、王国と大公国を継承できる純血種の虎獣人族の後継者を生むという目的意識を持った女性です。

 そのような女性なら、正室に迎えてもいいのではありませんか?」


 アレサンドに強く諌言ができる、元傅役で股肱之臣、シャノン侯爵エリック卿が、みなの気持ちを代弁して訴える。


「駄目だ!

 絶対に駄目だ!

 カチュアの正室は絶対に譲れん!」


「では、正室が二人ではどうでしょう?

 確かに、獣人がつがいを側室にするというのは、とてもおかしな話です。

 ですから、王家大公家の後継者を生む正室と、愛する正室の二人制にするのです」


「うむむむむ。

 それではカチュアの心を傷つけてしまうのではないか……」


「それは、率直にお話ししていただくしかありません。

 カチュア様も公爵家の令嬢でございます。

 身代わりとはいえ、政略結婚で殿下に嫁がれたのです。

 話せば納得していただけると思います」


 ここでアレサンドがニンマリと笑った。

 勝利を確信した笑いだった。


「言ったな。

 身代わりとはいえ、正式に私に嫁いできたと言ったな。

 反対派の連中にもそう言って聞かせよ。

 身代わりでもマクリンナット公爵家の令嬢だ。

 リングストン王国侵攻の際にもそれを理由にしたではないか。

 ある意味カチュアは王国併合の功労者だぞ。

 それを今更側室だ愛妾だと言うなとな!」


 こっれで勝負が決まった。

 カチュアの正室反対を、誰も表立って言えなくなった。

 それでなくてもつがいという事で結婚自体を反対できなかったのだ。

 だがエリック卿も粘りに粘った。

 アレサンドと一緒に後宮に行って、カチュアに説明することになった。


 交渉内容は、カチュアが正室で、後継者を生む虎獣人族の令嬢は、側室や愛妾として迎えるという事だった。

 そしてエリック卿の心の中では、すでに側室候補の女性が決まっていた。

 カチュアが安心できて、アレサンドも嫌わない相手だ。

 そうでなければ、後継者をもうけるなど不可能だ。


 本当はエリック卿も虎獣人族の令嬢を側室や愛妾に迎えたいわけではない。

 つがいの関係に邪魔をするなど、獣人の恥だとも思っている。

 だが、虎獣人族の未来を考えれば。

 実の子供のように愛し慈しみ厳しく育てたアレサンドと、何の罪もないカチュアの子供が、将来皆殺しになるかもしれないと思えば、言いたくないことも口にしなければいけなくなる。

 そのような惨劇を事前に防ぐために、苦い薬を飲む心境で、つがい以外のパートナーをアレサンドに勧めていた。

 

 

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