第4話
「アレサンド大公殿下。
マクリンナット公爵家令嬢アメリア様をどういたしましょう?」
ウィントン大公アレサンドは、アメリア、いや、カチュアと会う前に、リングストン王国派遣大使サムベルと事前相談していた。
「ふん!
偽者か!
だが、マクリンナット公爵家の血を受け継いでいるのは確かだな」
「はい、さようでございます」
カチュアがマクリンナット公爵家の血を受け継いでいるのは大切な事だった。
血を流さず戦費も使わず、莫大な賠償金と領地を手に入れるのが一番だ。
そのためには、リングストン王国にマクリンナット公爵家を討伐させ、内乱で国内を疲弊させてから、リングストン王国に攻め込む方がいいのだ。
攻め込まないまでも、マクリンナット公爵領はカチュアが正当に継承する領地で、賠償領地にならないから、他の領地を割譲しろともいえるのだ。
「証拠は集まっているか?」
「マクリンナット公爵家の家臣とリングストン王国の廷臣を拉致し、証言させることは可能でございます」
明らかに偽者なのだが、人族は獣人族の伸張を極端に恐れていた。
明々白々な嘘であっても、リングストン王国の隣国は信じたフリをする。
信じたフリをして、連合してウィントン大公国に抵抗する。
これくらいの事は大公にも大使にも見えていた。
「それでは難癖をつけられるな。
カチュアに証言させらるか?」
「……それが、舌を切り取られております」
「なんだと?!
なんと下劣な連中だ!
やはり人族は滅ぼさねばならん。
その性、残虐非道。
我らが人族をこの世界から滅ぼさねば、多くの種族が滅ぼされてしまうぞ」
ウィントン大公アレサンドは激怒していた。
彼の基準では、このように人質に送られてくるのは、忠誠無比の家臣だ。
どのようが拷問を受けようと、主君のために黙秘を続けられる忠臣だ。
場合によったら、自害して証人にさせられることを防いだり、ウィントン大公国が謀殺したと難癖をつけるために自害するような、選び抜かれた忠臣だった。
だがリングストン王国は違った。
ウィントン大公アレサンドの倫理観と全く違っていた。
事もあろうに、年若い令嬢の舌を切り取って、証言させないようにしたのだ。
このような残虐非道な行為は、若き大公には絶対許せない行為だった。
その場で人族を罵り荒れ狂う大公に、大使はカチュアの生い立ちを話した。
大使サムベルは、マクリンナット公爵家の事を事細かに調べ上げていた。
アレサンド大公が政策判断を謝らないように、配下の大使館職員を使い、虎獣人族の隠密力を生かし、全ての事情を詳細に調査し、分かりやすい報告書を作っていた。
それを読んだ大公は、今迄人質としか思っていたかったカチュアに、深く同情することになった。
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