第3話

「舐めるな小僧!

 いや、これは失礼。

 あまりに非常識な言動に、マテオ王子の言葉とは思えなかったので、つい声を荒げてしまいました。

 どこぞの愚者が、マテオ王子の声色を真似たのかと思いましてな」


「いや、構わん。

 人族と虎獣人族では色々常識が違うのであろう。

 私が気がつかずに、虎獣人族には非常識な事を口にしたのだろう。

 いったい何が非常識なのか教えてくれないか」


「はて?

 これは人族の間では非礼無礼非常識ではないのですかな?

 では逆にお聞きしますが、貴国ならどうなのです。

 隣国との友好のために正妻を迎えようとしたのに、話と違う偽者が送られてきたら、貴国は笑って許せるのですかな?

 王侯貴族の決婚は政略結婚です。

 露骨に言えば、人質です。

 いったん約束していながら、偽者を人質に送る。

 これほどの背信はございますまい。

 この話を聞けば、同じ人族の隣国も、貴国の味方はしないでしょう。

 まあ、するようなら、侵攻併合のいい口実になります。

 我が国にとっては万々歳ですな。

 なんといっても一国の民を皆殺しにした後です。

 農地も家屋敷も有り余っておりますからな。

 ワッハハハハ!」


 国王と王太子はガタガタと震えていた。

 歯の根もあわないほどの激しい震えで、上下の歯がカチカチとなっていた。

 ガタ、という大きなお音ともに、数人の廷臣が気を失って倒れた。

 なんとも情けない話だ。

 このような廷臣しかいなくて、勇猛果敢なうえに、必要なら隠忍自重して暗殺さえ行う虎獣人族に、勝てるはずがないのだ。


 今詫びればまだ間に合ったかもしれない。

 恥も外聞もかなぐり捨てて、国王と王太子が地に頭をつけて謝れば、それこそマクリンナット公爵の取り潰しと一族一門の皆殺しと領地の割譲で、問題を鎮静化できたかもしれない。


 だがそれは不可能だった。

 不可能になるように、大使が睨みを利かせていた。

 殺意の籠った眼力で、人族が動けないように金縛りにしていたのだ。

 大使はこれを絶好の機会だととらえていた、

 実際に皆殺しにするかどうかは別にして、リングストン王国を侵攻併合する絶好の機会だと考えたのだ。


 最終的に決断するのは虎獣人族の大公だ。

 もしかしたら、領地の割譲と賠償金ですませるかもしれない。

 一切の人的損害と戦費なしに、領地と賠償金が手に入るのなら、そちらを優先させる可能性もあるからだ。

 大使を任されるほど有能で、忠誠心に溢れた家臣なら、主君があらゆる決断を下せるように、下準備を整えておくのが役目なのだ。


「さて、では我が国にご案内しましょう。

 マクリンナット公爵令嬢アメリア様」

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