第7話

「殺してくれてありがとう。

 これで生き恥を晒さずに済んだ」


 フレッドはバーツに斬りかかり、あっけなく殺されました。

 眷属だったころとは雲泥の差の、とても鈍い動きでした。

 殺されたくて、バーツに斬りかかったのでしょう。

 フレッドにはこれ以外に道がなかったのでしょう。

 でも私は、婚約者が自殺同然に殺され、心の整理がつきませんでした。


「このまま城に攻め込む。

 いったん引くと逃がしてしまうかもしれない。

 逃がせば災厄をこの世に放つことになる。

 カチュアはどうする?」


「私も行きます。

 父上と母上の敵を討ちます」


 まだ心の整理はついていませんが、行くしかありません。

 父母の敵を他人任せにはできません。

 何もできないのは分かっています。

 いえ、何もできないどころか、足手まといでしょう。

 それでも、ついていきたいのです。


「だったらこれを首にかけろ。

 太陽神と月神の加護が得られる。

 それと、この剣を持て。

 これには太陽神の加護が付与されている」


 バーツは替え馬に括り付けていた荷物をほどくと、私に護符と剣を渡しました。

 バーツ自身は、大きく破損した板金鎧と鎖帷子を外し、予備の板金鎧と鎖帷子を装備しました。

 そして軍馬と替え馬と支配下に置いた軍馬を率いてハザム城に乗り込まれました。

 私は替え馬に乗せてもらっての入城です。


「いと高き天空におわす聖なる神よ、我に加護を与えたまえ」


「地の奥深くにおわす闇の神よ、我に加護を与えたまえ」


 バーツ様は最高神に加護を願われ、義母上、いえ、アメリアは闇の神に加護を願い、共に神の力を得て熾烈な戦いをされました。

 私は遠く離れて身をひそめるしかありませんでした。

 アメリアの眷属や配下も、二人の戦いに介入する事はできませんでした。

 武器を討ち合うたびに飛び散る神力を受けて、眷属は雲散霧消してしまいます。

 死力を尽くした二人の戦いは一進一退で、どちらが勝つとも明言できない均衡した状態が続きました。


 ギャァァアァ!


 戦いに見入っていた私は、斬り結びを解いて互いに一歩引き、ひと息ついたところを、ハクの攻撃を受けて仰け反るアメリアの背中に気がつきました。

 無意識でした。

 無意識に剣を持って突っ込んでいました。

 アメリアの心臓を正確に貫いていました。


 ギャァァアァ!


 一生忘れられない増悪と怨念の籠った表情でした。

 視線だけで私の心臓は止まりそうでした。

 ですがここでもハクに助けられました。

 ハクが死力を尽くして魔法を放ってくれました。


「お見事!

 仇討ち本懐をとげられたな!」


 バーツは褒めてくれますが、とても喜ぶことなどできません。

 これからの事を考えれば、不安でいっぱいです。

 ですが、父上と母上のためにも、責任を放棄して逃げ出すわけにはいきません。

 ここはバーツに助けてもらいましょう。

 なんといっても戦友なのですから。

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