第56話 武神

「全ての悪夢の根絶……」


「恐らく、悪夢の中でも特に力を持った存在……夢魔さえ全滅させれば、この世界は維持できない……そう考えています」


悪夢は尽きない。


この世界は、人々?が見る夢の集合体。

だが、人類が共通の夢を見るなど不可能。

どうしても異分子は存在する。


その異分子が、悪夢と化す。

夢の、異端排除システム。

その際に、新しい夢魔が生まれる事もあるとか。

その前に……夢魔を全滅させなければ。


「私は、恐ろしい……私自身、いつ悪夢と……下手をすれば夢魔となるか……」


クローバー姫が、目を伏せる。


「クローバー姫よ。アーサー王は……?」


「分かりません。お父様も、お母様方も、お姉様方も、お兄様方も……王族で確認できたのは、私だけ」


「ならば、悪夢か……夢魔となった可能性も高いと言う事であるな」


キース君が、険しい声で言う。


こくり


クローバー姫が頷く。


「さて、皆様。『夜』にまた協力を願いますが……それまでは、ご自由になさって下さい。昼食は用意させます。是非、ご一緒頂ければ」


クローバー姫は、微笑を浮かべると、そう告げた。


--


豪華な食事。

宿屋で出た、豪華ではあるが、不可思議な物では無い。

まともな食事。


「このパンは飛ばないんだな」


「食事くらいゆっくり頂きたいですからね。しめてあります──大丈夫です、鮮度は抜群ですから」


クローバー姫が苦笑する。

しめてから時間が経つと、味が劣化するのだろうか?


クローバー姫に促され、席に着く。

クローバー姫が椅子に座ろうとし──頭を振ると、座ろうとしていた隣の椅子に座る。


……?


「く……お座り頂けないのか……!」


「レオネッサ将軍……危ないところでした」


「「レオネッサ将軍?!」」


エメラルドとキース君が叫ぶ。

知り合い?


「ええ。すっかり座られる事に味をしめてしまって……こうやって、手を変え品を変え、私に座らせようとしてくるんです」


あれ、家具とかって、全部、元人?

いや、そうでも無さそうだが。


「あの武神レオネッサ将軍が……かつての武勇が泣くな」


キース君が呻く。

昔は真面目な人だったのか、本性が出ただけか。


「レオネッサ将軍と言えば、クローバー姫の憧れの人だった筈ですが……ある意味幸せな状況なのでしょうか?」


エメラルドが困惑した様に言う。

憧れの人でも、椅子になってしまえばなあ……

というか、強いなら『夜』に戦ってくれるんだろうな?


豪華な食事を堪能し。

クローバー姫に、一旦、別れを告げ。


街の散策。

ショッピングを楽しみ。


エメラルドを着飾らせたり……

俺が着飾させられたり……


買い食いを楽しんだり……


そして、宿の露天風呂。

混浴だけど、あまり嬉しくは無い。


エメラルドは愛しくはあるのだが……猫だしなあ。

まあ、普通に猫としても可愛いのだけど。


夜。


12時までは、まだ時間がある。


エメラルドのもふもふを堪能しつつ……


「ふわ……む……ふわ……」


エメラルドの声が色っぽい。


「……やたらと艶めかしい声が出ているが、撫でている場所は大丈夫なのか?」


「問題は無い筈だが……」


キース君の問いに、答える。

そう言えば、昔から動物を撫でるのは得意だった気がする。


「ホダカ……らめぇ……もう……もう、駄目です……」


はたり


エメラルドが、俺に覆い被さる。

おおお……?


「エメラルド……」


俺は、そっとエメラルドに手を伸ばし。

頭の後ろに手を回すと──

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