第44話 本当の気持ち
幼稚園に香山さんを訪ねた二週間後の週末、今度は彼女が店に来た。園長先生から僕に教育に関する講演会のチラシを渡してくるように頼まれたという。
いろいろ商品を手に取って見ながら、「私は、友達と約束があって、その日は行けないんだけど…」と話す彼女の口振りは、その友達が恋人であることを想像させた。
なぜだろう。
「彼氏」という表現は、どこにもなかった。
ただ、態度や言葉に表れる微妙なニュアンスが、それを伝えていた。選挙運動の勘が働いたのかもしれない。
急に胸が詰まり、苦しくなる。石を飲み込んだかのように、気分が重く沈んだ。
僕の顔色には、明らかに気落ちした様子が表れていたはずだ。チラシを渡して帰る彼女の顔には、逆に安心したような穏やかな笑みが浮かんでいた。
いつのまにか、自然と香山さんに魅かれていたのだろう。胸の苦しさが僕にそれを認めさせた。落ち込む表情から、彼女に気があることを感じとったようだ。
彼女の微笑みは、そう語っていた。
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