第40話 志学館の懇親会で
志学館ツーリズム学科は、星野川市役所の社会教育課が主催する事業だ。
一年間、隔月の第一日曜に、全国の観光名所の活動家を招いて、観光についての講義が行われる。その次の一年は、学科生による実践活動へと移り、そこから自主的に町興しの運動が生まれてくることを役所は望んでいる。地域活性化のためのリーダー作りが、主たる目的である。
第一回の講義のあと、教育長の家で懇親会が開かれた。幹事は女性係長の田村さんと、市長が話していた平山さんである。選挙の翌日、うちへ来た青年会議所の西條さんも参加していた。
西條さんは、途中からひどく酔っていた。
「こんな若いやつが立候補するっていう言うでな、期待してたんや。地区の反発もあったやろうし、大変やったと思うたから、落選した翌日に、今回で諦めてしまわんように言おうと思って、家に行ったら、風邪ひいて寝てるって言われて会われんかったんや」
周りにも聞こえるような大きな声で、しつこく絡んでくる。そこへお酌に回ってきた平山さんに、苦笑いしながら助けを求めた。
「なんとかしてくださいよ。さっきから酔っ払って、ずっとこんな調子なんです」
「西條さんの話を、じっくり聞いてあげてください。西條さんは、倉知さんに会えて嬉しいんですから」
僕の肩を叩いて嬉しそうに笑うと、残りわずかになったビール瓶を持って立ち上がった。平山さんの後を追うように、僕もそっと腰を上げた。
「おぅ、お前までどこ行くんや」
酔っ払いとは思えぬ速さで、僕の腕をつかんだ。酒が回るほどに、腕力も強まり、言葉も容赦なくなってきている。
「なんで負けたと思う」
赤く縁取られた目を細めながら、鋭く言い放った。
「足を引っ張られたからじゃないですか」
平静を装いながら突き放すように答えると、さらに畳み掛けるように質問を返してきた。
「なんで足引っ張られたか分かるか」
そして、僕の返答を待たずに、自ら答えた。
「妬みや」
冷たい言葉とは裏腹に、西條さんの表情には、どこか悔しさが滲んでいた。
西條さんは四十歳にしてお寺の住職であり、寺が運営している老人ホームの専務でもある。たくさんの檀家を回ることで、さまざまな情報を仕入れている。それによると、若い僕が議員に立候補することが、町内の人にとって妬ましく、反発を買って落選させられたということだった。
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