第38話 意外な来客

 株主の手続きをしてから二週間が過ぎた頃、店の前の駐車場に車が入ってくる重く鈍い音がした。窓から見下ろすと、大きな黒塗りの高級車が止まっている。普段のお客さんには見かけない車だった。

 不思議に思いながら二階から店に降りると、可愛らしい生活雑貨には似合わないスーツ姿の男性が入ってきた。

「こんにちはー」という甲高い声が店に響く。

 浅田市長だった。

 遊びに行くという言葉が社交辞令ではなかったことに少し驚くとともに、誰かに誇りたくなるような嬉しさを感じていた。市長から商品について感想や質問を聞き、いろいろ説明したあとで、事務所に案内した。

 話は、星野川市が開く『志学館』の講座に参加してもらいたいということであった。

「担当がな、去年テレビ局を辞めて入庁した平山という若い人でな。倉知さんの一つ上になるんかな。なかなか面白いやろ。志学館に入って、協力してやってほしいんや。それに選挙運動のためにも、そういうところへ出て仲間を作ったほうがいいしな」

『志学館』とは江戸時代の星野川藩の藩校であり、今その名を借りて星野川市が市民講座を開いている。すでに環境学科とまちづくり学科という二つの講座があり、この夏からは観光について学ぶツーリズム学科が始まるという。

 今朝の新聞にも受講生募集の告知が出ており、ちょうど申し込もうと考えていたところだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る