第33話 苦闘の結末

 日曜の朝、父と母、妹とともに投票に出かけた。

 投票所となっている近くの公民館の前には今も、候補者の顔写真の貼られた掲示板が立っている。投票所に座る市役所の職員や、すれ違う人の目が気になる。

 そして、今まで選挙に行ったことがなかった僕が、生まれて初めて票を入れたのは、自分自身だった。

 その夜八時から、開票作業が始まった。家族は自宅に待機していた。親戚や地区の支持者は選挙事務所に集まり、開票所にいる運動員からの連絡を待っていた。得票数が高い候補者は、早い時間に当選確実が出る。連絡は遅れていた。

 十一時過ぎに事務所から自宅に連絡が入った。

 落選だった。

 父の従兄である事務局長が「事務所には来なくていいから」と、事後処理を請け負った。何を言われるか分からないことへの配慮もあったのだろう。

 得票数六三八票、次点で落選した。今回は最低ラインが低かったようだ。トップの二人が、それぞれ千六百票、千五百票という圧倒的な票を取ったからだ。

 一位は木島組という建設会社の息子で、二十五歳の史上最年少であった。佐久ちゃんが応援した候補である。

 二位は竹山という農業を営む五十代の男性で、父親は昔、市長をしていた。学校や公民館などの建設で赤字を重ね、星野川市を財政再建団体にした市長である。最下位は、七三二票で当選した隣町の藤元だった。横領で起訴猶予になり辞職勧告を受けたことについても、最下位当選の記事とともに触れられていた。

 雨や雪の中、車から身を乗り出し、ずぶ濡れになりながら一週間手を振り続けた。体力の限界を気力で支えていたため、落選の翌日は朝から三十九度の熱が出て倒れてしまった。

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