第23話 獅子身中の虫

 ゆっくりと車を走らせていると、支持者はスピーカーが繰り返す名前を聞き、ある人は窓から顔を出し、ある人は外へ出て、手を振ってくれる。手を振る人を見かけると、車を降りて駆け寄り、「よろしくお願いします」と握手をする。「がんばっての。応援してるで」という言葉に、「ありがとうございます」と頭を下げる。その繰り返しである。

 雪に埋もれた田畑を抜ける道を走っていると、向こうに女の人が数人集まって、手を振るのが見えた。五十メートルくらいあるだろうか。長靴では少し時間が掛かるが、車を降りて走ろうかと思った。

 すると、車はその手前の二股に分かれる道で、その人たちが待つ道と逆のほうへ曲がった。運転手は、いつも事務所に集まっていた町内会の一人である。痩せて背の高い男は、苦虫を噛み潰したような表情で運転を続けた。町内会はすでに、後援会として機能していないようだ。

 昼近くになり、選挙事務所に戻る。午後の運転は、母の弟である健二おじさんに代わってもらった。この人は市長選の運動員を務めたこともあり、選挙の仕方をよく知っている。支持者を見ればすぐにそこへ車を向かわせ、運転席から愛想よく「おんちゃん、頼むでの」と声をかけた。

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