ホワイトデー

これは遠い未来の話



「これ、あげる」


「はあ……なんすか、この封筒」


「気にしない。そしてそれを私にちょうだい?」


「? 何のおまじないというか、儀式っすか」


「ある意味儀式かな。中身はこれ『一晩キミを好きにしていい権利』」


「子供だって『肩叩き権』なんて作らないっすよ」


「でもー、私ー、キミからこれもらったしー」


「というか一晩ってのが微妙にヘタレっすよね。一日でも一週間でもよかったのに」


「ダメ。……今晩だけだから、意味あるの」


「ホワイトデーのプレゼント、用意したのに」


「それはそれ、これはこれ。機会と切っ掛けの問題」


「という事で、一応俺のプレゼントはそれとして受け取ってください」


「毎年ありがと。ふふ、キミの選んでくれるアクセサリはほんと私好みだから好き」


「中身見てないのに、何故わかったんすか」


「包装、思いっきり私たちの好きなブランドだから」


「……次、気をつけます」


「別にいいよ。結局何貰っても嬉しいし」


「んで、その『好きにしていい権利』でしたっけ。何をどうしたんですか」


「まず『断らない事』」


「いやっすけど」


「アウトー。今晩『権利に反する行為』を行う度にペナルティが課せられます。まず1つ目」


「……。続けてください」


「お姫様抱っこして」


「まあ、それは別に問題ないっすけど」


「そのままキミの部屋……ううん、ベッドまで運んで」


「…………」


「長時間の無言とお願いを叶えてくれない行為はペナルティとします。現在2つ目です」


「…………はあ」


「溜息! ペナルティってほどじゃないけど、『これから私がキミにして欲しい事』わかったでしょ? その『仕方なく』って雰囲気ださないで!?」


「なんでもっと普通に頼めないのかなこの人」


「誰の所為だ誰の。いいからベッドへゴー!」




「俺、今避妊具持ってないっすよ」


「大丈夫、私も持ってないから!」


「……買ってきますね」


「さすがにそのつもりだし、危ない日なら持って来てるし。今日は大丈夫な日だから」


「いくらペナルティ加算されてもいいので、俺がコンビニへ往復するぐらいの時間は我慢してください」


「……真面目君か。嘘だよ、持ってるから」


「でしょうね。センパイだって真面目ですから」


「違いますー。君の生真面目が発動してぐだぐだしたら嫌だからの保険ですー。ほんとは」


「うっさい」


「んっ……。強引なのに、キミのキスはいつも優しいから好き」


「センパイに嫌われるような事は、基本的にしたくないんで」


「そんなキミに命令を一つ『私を好きにして』 いつもみたいに私の事を一番に考えるんじゃなくて、キミが思うように私の事を愛して欲しい」


「……」


「え、なんでそこで渋い顔するの? 喜べとは言わないけど、そんな顔されるのなんで?」


「なんかそれ、普段センパイを抱く時遠慮してるみたいな言い方じゃないっすか。いつもそんな風に思ってたんですか? 怒っていいですか?」


「ちがっ、そんなつもりじゃ」


「いいっすよ? 命令どおり『センパイを好きに抱きます』」


「ひゃっ、いきなり耳は……、んっっ、そのまま首筋を舐めないで……」


「いつも通りですけど? あと『好きにしていい』って言ったのセンパイっすよ?」


「そうだけど、そうだけど!」


「センパイ、少し口空けて」


「……ちゅっ、んんっ…………。はあっ、んんっ!!」


 ベッドに寝転んでいるセンパイに覆いかぶさるように抱きつき、片手で自身の体重を支え、片手でセンパイの頬を撫でる。

 そしてそのまま口を開けたセンパイの口に舌を潜り込ませ、まずは唇の裏側を味わう。

 センパイが痺れを切らす頃に一呼吸置き、今度はお互いの舌を絡み合わせた。


「どうしよ、スイッチ? みたいなの入っちゃったかも」


「いつも通りですけどね。センパイ、何されても顔が惚けるというか」


「そんなことないし?」


「そう、じゃあ――」


「キミっていつの間にか服脱がせるの上手くなったよね」


「センパイってブラウス好きですもんね。ボタンを解くのは得意になったといえばなりました」


 片手でちゃちゃっとセンパイの白いブラウスのボタンを解いた。


「……馬鹿なの?」


「今日はそのつもりだったので!」


 ノーブラだった。

 うん、この人、やっぱ馬鹿だ。

 

「流石にうちの中だけだよ? キミが帰ってくる前に脱いだだけだから」


「じゃあいい、のか?」

 

「いいんじゃない? 最近キミによく揉んで貰ってるからブラの下着が合わなくて窮屈なんだよね」


「恥かしいの我慢するから、付いていくから。新しいの買いましょ?」


「言質取ったぞ?」


「……センパイのさ、そういうところなんとかなりません? 雰囲気出てきたところで、こういう謎の仕込みをされると逆に萎えるというか」


「ほほう。キミはブラも自分で脱がせたい派か」


「派閥があるのかは知りませんけど、純粋に『ほんと残念で可愛いなあ』としか」


「次から気をつけます。確かに雰囲気がいきなりコミカルになってる」


「誰の所為だ、誰の。……じゃあ、センパイ。俺なりの『センパイを好きにする』です。俺の事、好きにしてください」


「いいの!?」


「目、キラッキラしてる。そう言えば誘われることばかりとはいえ、結果的いつも俺がセンパイを抱いてるし。それこそ『センパイが俺の事を好きにしたら』どうなるかなって」


「避妊しなくていい?」


「そういう所だぞ?」


「いえ、わりと真面目に。安全日なのは確実。避妊したって危険はあるしね、そこはちゃんと生理の周期は気にしてるし。そうは言っても、愛だけじゃ満足できないって気持ち、わからない?」


「……それはきっと俺がきちんと責任を負える身か、もしくは本当にセンパイとの子供が欲しいと思ったときですね。後者は、まんざらでもないですが、前者は該当しないんで」


「実はって程でもないけど、キミのそういう真面目なところが大好き。きちんと男性だけど、男じゃないって思える。安心できる。そんなキミに私との子供が欲しいって気持ちがちょっとでもあるの、凄く嬉しい」


 そういうとセンパイは俺の頬に口付けし、そのまま舌を這わせる。

 俺もセンパイによくするけど、好きな人に舐められるのってめっちゃ気持ちいい。

 単純な刺激じゃなくて、目の前に愛する人がいて、その人の体温や吐息を感じられるのが背筋がぞくぞくする。


「……男の人って、口とか胸でされると嬉しいのってほんと?」


「されたことないんでわからないっす」


「じゃあ試してみる?」


「『センパイの好きなようにして』」


「うん、いきなりは厳しいかな! 気持ちよくできるかわからないし、覚悟もできてないし!!」


 そういうと上半身は俺の手で脱がされているが、スカートはそのままのセンパイはそのスカートを脱ぐではなくたくし上げた。

 ……この前一緒に買いに行って選ばされた下着を穿いていた。

 確かに俺の好みで選んだものだ。

 しかし、いざって時に着られると、なんというか……、いやそういうつもりで選んだんじゃないんだけどなあって。

 似合うのと、身に付けてて興奮するのってそれはそれで別ものじゃない?


「……反省してまーす」


「せめてブラもしてれば選んだ甲斐もあったんですけどね!」


「ええい、うっさい。キミも脱げ、てか脱がす!」


 上体を起こし、カジュアル用ワイシャツとインナーを脱がされる。

 3月中旬とはいえ、まだ肌寒いがセンパイはそのままぎゅっと抱きついてきた。

 お互い半裸の状態での抱擁、布越しとは違う肌と肌が触れ合う暖かさを感じあう。


「ほんと、こうやってくっついてるだけなのに、お互い布なしってだけでこんなのに心地よさが違うのなんでだろ」


「俺は……センパイの感触がいつもより柔らかくて、それが心地いいって思います」


「あっ、それ私も。布越しだとキミは硬いって感じだけど、直接触れると、硬いけど柔らかいなって。この感触知ってるの、私だけって思うと、むらむらする」


「そこはどきどきって言って? そういう所だぞ?」


「同じでしょ? 私はキミに欲情してる。それは紛れもない事実だもの」


「まあ俺もですけど」


「胸、触って?」


 センパイの半端にはだけたブラウスの中に俺の手を無理矢理突っ込まれた。

 

「……」


「瞑想しない。素直に喜びなさい。じゃないとこのままキスするよ?」


「やめて、俺の、俺の理性が!」


「そういう理性ってのをなくして抱いて欲しいんだけども」


「……結婚して子供欲しくなったらな」


「それ、いいね。人生の楽しみが沢山増えていく」


「センパイの乳揉みながら人生設計立てるのどうかと思うけど。俺もセンパイと結婚して、子供もできて、できれば長生きして孫の顔見れたら生きてて良かったなって思いますね」


「うん、胸揉まれながら、なんかちょっといい感じの話されても。困らなくはないけど、いつになっても雰囲気が」


「大丈夫? と言っていいかわからないですが、俺の下半身はさっきからやばいので」


「ほう、ならばよし。最近、キミにゴムを付けるの癖になってるんだよねえ」


 さくっとスラックスと下着を脱がされる。

 雰囲気が艶やかになったりコミカルになったりしても、センパイの魅力の前では衰えない我が分身はさすがだと思う。

 ……なんだかんだ、毎回こんな感じだからかなあ。


「……舐めていい?」


「『センパイの好きなようにして』」


「じゃあ……。ちゅっ――。苦い無理」


「好奇心は猫を殺すぞ? センパイは猫なんだから自重しろ?」


「うっさい警察犬! 物は試しってあるでしょ?」


「よく考えると、俺の性器に触れた唇されるの気色悪いんで、今日はノーキスで」


「ペナルティ1消費。その提案は受け入れられない」


 そういうと、センパイはちゅっと軽く唇を触れ合わせた。


「どう? やっぱイヤ?」


「気にならない、というか、やっぱキスするの嬉しいんで、多分オッケーです」


「よかった。今日はもっとキミとキスするんだから」


 言いながらも、未開封のコンドームの箱から一つ取り出し封を切る。

 全然慣れていないから、センパイはどっちが表か裏かをきちんと確認し、両手で恐る恐る俺の先端に添える。

 そして片手で俺のを握り支えつつ、ゆっくりとコンドームを身に付けさせてくれた。


「では、いただきます!」


「ほんと、そういうところ。両手を合わせないで」


 センパイはあえてなのか無意識なのか下着を脱がずに大事な部分だけずらして晒し、俺にまたがりゆっくりと腰を下ろしてきた。


「はあ……、幸せ……」

 

 ろくに愛撫もしてなかったし、いきなりの挿入で大丈夫か? でも「センパイの好きないように」って言ったし、なんて思っていたが、センパイは十分ほぐれており優しく柔らかくそして深くまで繋がった。


「ッッ!! ――んん」


 そしてそのままセンパイは体を細かく痙攣させ、気を失った。


「めっちゃ可愛い」


 センパイが感じやすいことは十分承知だ。

 なので、センパイのペースで事を進めたらこうなることは予想ができていた。

 完全に脱力し、俺に体を預けているセンパイを片手で抱きしめ、もう片手で頭を撫でた。


「おやすみ、センパイ」




「普通、そこで終わらせる!? 私がイって気を失っただけじゃんか! キミは!? ねえせめて気を失ってる私を好き放題した、とか言って? 嘘でもいいから」


「俺、センパイの嫌がることしないですよ?」


「むしろそっちのほうが嫌がらせだわ! なによ、そんなに私魅力ないの?」


「魅力ない相手を好きになりません。その、下半身も反応しません。でもまあ強いて言うなら……可愛いセンパイが悪い」


「何それ、嬉しいけど嬉しくない。これなら期間を一日にしておけばよかった」

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知らない間に彼女がいることになっていた 番外編集 狐雨夜眼 @kosameyome

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