バレンタイン
これは遠い未来の話
「はい、チョコレート」
「あざっす」
「……なんかさ、もうちょいリアクションないの?」
「いや朝に『ごめんチョコ家に置いてきちゃったから講義終わったら持って行くね』とか言われてるんで、何をどう反応すれば。いえ嬉しいですけど」
「まあ確かに。それじゃあお邪魔しまーす」
「今日は帰りましょう? これから雪の予報っすよ?」
「大丈夫大丈夫、まだ降ってないし、映画一本見るぐらいで電車止まるほど降らないって」
「まあ、そりゃそうですけど」
「エアコン付けても、地味に寒いっすね。冷えるというか、冷たいと言うか」
「こんな事もあろうかと、キミの部屋から毛布を持ってきました」
「普段自分が使ってるのを持ってくればいいのに」
「だめ?」
「いいっすけど」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「何当たり前のように俺の膝に座るかな?」
「こうやってくっついて、毛布に包まれば2人で温まるでしょ」
「雪山で遭難したような状況っすね」
「表現。もうちょっと、こう、いい感じの表現できないかなあ」
「センパイも語彙力低いっすよ。なんすか、いい感じの表現って」
「バレンタインという日に雪の予定。そんな中2人きり、しかも密着状態。ロマンチックな事が言えないのかね」
「そうっすねえ。特には」
「冷たい。冷たいのは廊下だけにしてくれる?」
「嬉しいには嬉しいけど、毎年貰ってるし。朝いきなり『持ってくるの忘れた』っすよ」
「そこは、はい。全面的に私の失態です」
「まあ、でも嬉しいのはほんとですよ。食べてもいいっすか?」
「もちろん。あ、食べさせてあげようか?」
「この体勢で?」
「……がんばれば」
「チョコで毛布汚さないでくださいよ」
「うん、無理かもしれない」
「ご納得いただけたようで。おお、今年はトリュフですか」
「食べやすさ重視! 一口で食べられるほうがいいかなって」
「……あーんしたかっただけでしょ」
「ばれた?」
「まあ、コテコテのハート型よりマシっすね」
「どういうことだ。私のハートを何だと思っていた!?」
「いやあ、本当にこんなチョコ作る人いるんだあって。純でも貰った事ないって言ってましたよ」
「おいこら。当たり前のように私の渾身作を話のネタにしないで?」
「どう食べようか悩んで、とりあえず食べやすいように小さく割ろうとしたら思いっきり真っ二つになりましたよ」
「やめて! 聞きたくなかった!」
「とまあ、からかうのはこれぐらいにして。いただきます」
「……どう?」
「美味いっす。その、こういい感じな表現が思いつかなくて本当に申し訳ないんですけど、美味いっす」
「そ、よかった。シンプルに喜んでもらえるのが一番かもね」
「センパイもいります?」
「味見で飽きるほど食べたからいいよ。あ、でも……、んっ」
「――。不意打ち禁止令作ってもいいっすか」
「ダメ。それと、チョコレート味のキミの唇、ご馳走様でした」
「センパイ、今日は泊まって行ってください」
「どうした急に」
「どうしたもこうしたも。すげえ雪降ってます。まだ電車は動いてそうですけど、この雪の中センパイを外に放り込みたくないっす。クローゼットの鍵、持って来てますよね」
「キーケースに付けてるから大丈夫」
「じゃあ着替えとか大丈夫そうっすね。今日は泊まってください」
「キミがどうしてもって言うなら、仕方ないなあ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます