成りすまし魔王

成りすますにあたって

まず魔王の姿を思い出そうとする勇者。


魔王の姿は、あの決起集会で

僅かな瞬間見ただけであり、

あの時魔王はマントをしていたので、

細部を思い出すことが出来ない、

というかよくわからない。


いっそ転移強奪で、

魔王の鎧と兜、仮面を

強奪してやろうかとも思ったが、

それでは相手にこれから

成りすましますと言っているようなものだ。


脳内に残っているビジョン、

視覚の記憶を

アウトプット出来る能力をつくり

持っていた携帯の写メに映し出す勇者。


マントの下はやはりよくわからないが、

マントを着て成りすませば

それ程問題はないだろう。


しかし、ボロが出ないように

短時間で指示だけ出して

引き上げるに越したことはない。


-


アンデッド軍団を率いるリッチの前に

姿を現す成りすまし魔王。


「魔王様!

お戻りになられたのですか!?」


「うむ、軍内部に

何やら不穏な動きがあってな、

しばし身を隠していたのだ」


「よいか、

これからする命令は

決して誰にも話してはならん、

トップシークレットの極秘作戦となる。


ここには勇者の内通者が

多数おるからな、

そ奴らに知らる訳にはいかんのだ」


おそらく勘のいい者であれば、

この作戦が怪しいと思うだろう、

そこには戦術性も何もない。


しかし成りすまし魔王が

事前にこう言っておくことで、

誰かに確認を取るということが出来なくなる。


確認を取る相手が

敵の内通者である可能性を

懸念しなくてはならないからだ。


「勇者の弱点はアンデッドである。

奴はアンデッドに対して

未だ何ら有効な策を持っておらん」


これは半分は本当のことだが、

やはりアンデッドのみを集める理由は

何かしら必要であろう。


「ようやく、

勇者どもが根城としている

場所の位置が判明したのだ。


ここをアンデッド軍団で

総攻撃を掛ける」


もちろん勇者が

根城にしている場所などないのだが、

そう言ってアンデッド達を

一箇所に集める作戦なのだ。


そして『ども』とも言っていた。


成りすまし魔王は

リッチにその位置を伝える。


「今すぐにでも

アンデッド軍団を連れて出立するがよい、

勇者が根城を引き払う前に」


「かしこまりました」


「いいか、このことは

決して他言無用ぞ」


成りすまし魔王は

最後に再び念を押す。


-


成りすまし魔王は

これを魔王軍すべての

リッチやネクロマンサー、

アンデッド軍団の指揮官に対して

直接命令を伝えていった。


アンデッド軍団を指揮する者達の情報は

『ビッチーズ』に予め集めさせている。


こういう時に

規律正しい魔王軍というのは

楽ではあった。


魔族の癖に

根が真面目であったりもするのだから、

律儀に秘密を守ったり、

約束の場所をきちんと訪れる。



そしてこれは

ゆるーい時間との戦いでもあった。


アンデッド達のゆるーい進軍で

設定されている目的地まで何日かかるか、

成りすまし魔王の偽の指示が

発覚するまでに何日かかるか、

どちらが早いかというゆるーい時間の。


本物の魔王不在であり

内部が混乱している今、

そしてこの中世レベルの

通信伝達網から推測するに

まず二、三日はバレることはないだろうと

勇者は考えていた。






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