勇者とダークエルフ

森と共に生きる者

奥深い森の上空を飛んで行く影。

いつもの煩わしい機械音、

その音を聞く度に神経が

逆撫でされるような気分になる。


「ちっ、また来やがった」


森の木陰から

空を飛ぶ航空機を見上げる女。


尖った耳を持ち

褐色の肌に赤色の瞳

ダークエルフであり、

名をストヤと言う。



勇者の環境破壊は

今尚定期的に行われていた。


航空機からは

ナパーム弾が投下され、

森が延々と焼かれ続け、

ドローンからは

枯葉剤が散布される。


枯葉剤が付着した木々は

やがて生気を失い枯れていく。



「ストヤ、ここはもうダメだ、

早く逃げよう」


こちらに向かって走って来た

ストヤの双子の弟であるソトヤ、

他にも三人の仲間の姿が見える。


こうして森を追われるのも

これが初めてことではない。


ストヤ達ダークエルフは

もう何度も森を追われ、

次々と森から森へと

渡り歩いて来ていたのだ。


「ちっ、クソっ、

ここはいい精霊がいる森だったのに」


ストヤは他の仲間達と共に、

森林を走って消えて行く、

勇者の魔の手が届かない

安住の地を探し求めて。


燃え尽き、枯れた森は

いずれ砂漠化していくだけだろう。


-


辛うじて難を逃れたダークエルフ達は、

大陸の西北にある森林地帯を

住処としており、今は一応

魔王軍の配下ということになっている。


先代の勇者だった頃は、

共に魔王軍と戦ったこともあったが、

先代勇者が死に、敗れ、

魔王の軍門に降っていた。


とは言え、魔王に

心底忠誠を誓っている訳ではなく、

他の種族同様に生きる為に仕方なく、

魔王の恐怖政治に

従っているというのが現状。



「なんでも、ここ最近

森を燃やしたりしているのは

すべて新しい勇者の仕業らしいな」


ダークエルフの仲間の一人が

仕入れて来た情報をみなに共有する。


「何処でそんな話を?」


ストヤは釈然としない顔だ。


「昨日、エルフのおさが、

エルフ達に話をしているのを聞いたんだ。


他にもミンシュシュギとか

何とか言っていたが、

俺には何のことやらさっぱりだったな」


仲間の話を聞き憤るストヤ。


「新しい勇者の野郎、

とんでもねえことしてくれるじゃねえか、

このままじゃ、

森に住む者達がみんな死んじまう」


双子でありながら

姉のストヤは男勝りの性格で、

対して弟のソトヤは

少し弱々しいところがあった。


「仕方ないよ、彼等人間から見れば、

僕等もまた魔王の手下、

魔王軍てことになるんだから」


ソトヤのまるで

擁護するかのような言い分に

姉のストヤは突っかかる。


「人間とか魔王軍とか以前に、

やっていいことと悪いことがあるだろうさ。


これはどう考えてやっちゃいけないことの

一線を越えちまってるんじゃないのかい?」


「クソッ、なんとかして

勇者に森を燃やすことを

止めさせる方法はないのかい?」


ストヤの憤りは

一向に収まる気配がない。


「そういや、なんでも新しい勇者は

普段人間エリアにはいないって話だな。


あそこは年寄りと子供ばかりだからな、

俺達五人でも占拠出来そうだし、

人間を人質にして、

勇者を脅すってのはどうだい?」


ある意味、

一番勇者に効かない作戦なのだが、

そんなことを知らないダークエルフ達は

人間達を人質にして

勇者を脅迫することに決めた。






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