チンピラ勇者

ダークナイトに扮し、

魔族以外の種族を扇動しようと

奔走する勇者。


言うなれば彼らは

いくさに敗れ、魔王の軍門に降った

外様大名のようなものであり、

そちらの内部工作は順調に進んでいる。


後は、魔族や魔物と言った

譜代大名をどう攻略していくか、

勇者はそれを思案していた。


やはり内部で骨肉の争いとなると

跡目相続や後継者騒動、

派閥による権力闘争というのが

望ましいところ。


いっそ魔王軍の要人を一人殺害し、

その者に成りすまし

仕掛けてみるかとも思うが、

それはそれでボロが出て

尻尾を捕まれバレそうでもある。



潜入した際に入手した情報では、

魔王はあの暗殺未遂以来

表に全く出て来なくなり、

魔王側近の者ですら

会うことがないらしい。


ドラゴンとの交戦も

今はすべて部下に任せている

ということだろう。


それならそれで

反魔王勢力、派閥を増長させることは

それ程難しくないようにも思われる。



まずは手始めに

敵内部を撹乱しておきたい。


どうも秩序と規律がある

魔王軍というのは違和感が拭えない、

ここは魔族らしく混沌としてもらおうではないか。


そう思っていた勇者は

ちょうどそういうことに向いていそうな

ゆるくて手頃な馬鹿を

あらかじめ見つけてあった。


-


「大人しくしろ、

そうすりゃ命まではとらない」


まるで強盗のような台詞だが、

これを言っているのは

間違いなく勇者である。


奥深い人気のない森に

女が一人でいるのを確認した勇者は、

いきなり背後から

女の口を押さえてそう言った。


これだけ聞くと

完全にヤバイ犯罪なのだが、

だいたい合っているので仕方ない。


唐突に口を塞がれ

訳もわからず暴れようとする女。


「いいか、今俺の能力で

お前の体内に爆弾を仕掛けた、

黙って俺の言うことを聞け」


ヤバイ犯罪以上に

事実はもっとヤバかった。


「!」


女は恐ろしくなって

ワナワナ震え大人しくなる。


ダークナイトは紳士なのに、

何故勇者はこんなにも酷いのか。


-


女というのはサキュバスであり、

サキュバスの魅了、誘惑を使って

魔王軍内部の者を操り

まずは撹乱させたいと言うのが

勇者の狙い。


ここでも勇者は

自らの顔がバレないように注意し、

顔にモザイクがかかる能力をつくり、

今は顔にモザイクがかかった状態である。


テレビの再現VTRで

顔にモザイクが掛けてある人を

リアルに再現したみたいな感じだ。


「なんでお前

顔にモザイク掛かってるんだ?

お前の顔、十八禁なのか?」


ゆるいサキュバスは

勇者の顔を見て驚いた、

まぁそれは誰でも驚く。


「さてはお前、

あたしにエロいことする気だな!?

それでモザイクなんだな?」


「しねーよ!」


さすがに勇者が見込んだ

ゆるーいサキュバス、

この状況にあっても

緊迫感がまるでない。


-


「お前の体に爆弾を仕掛けた、

死にたくなかったら、

これから俺の言うことを聞いてもらう」


「エロいことだな!?」


「しつけーよ!」


勇者はわからせるために、

森にいた無害そうな野ウサギに

転移贈答で爆弾を仕掛け、

爆発させて見せる。


「お前も、

ああなりたくなかったら、

諦めて俺の言うことを聞くんだな」


「ひぇぇぇ」


サキュバス自身の命を

人質に取って脅迫、

脅しを掛けるという

性質たちの悪いチンピラみたいなことですら

平気で実行する下衆で卑劣な勇者。


爆弾が本当に仕掛けられているかは

定かではないが、この男なら

やっていても不思議ではない。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る