駆け落ち計画中


 「……てか、どうやって駆け落ちすればいいんだ?」


 駆け落ちをすると決めてから翌日。今日は休日であるため一日中家にいることができるため計画を立てるには絶好の機会なんだけど……一向に話がまとまらない。


 今お嬢様がいる別荘の場所はわかるんだけど……あそこに行くには車がないと何かと不便だ。いや、気合いで走っていくことも可能だが、お嬢様に負担をかけてしまうかもしれない。


 となると車が欲しいところだが……免許取れる年齢じゃないし。じゃあ……あ、チャリで行けばいいんじゃないか! そしたらお嬢様後ろに乗せていくこともできるし。


 「よし、チャリを注文しよう!」


 悩んでいる暇はない。早速俺はアマゾ●で自転車を注文した。これであとはチャリが来たらお嬢様がいる別荘まで行けば……俺はそこで……。


 「……なんだか、意外とあっさり吹っ切れるものなんだな」


 駆け落ちすると決めてから、俺はお嬢様への好意を誤魔化すのをやめた。いや……その前、お嬢様の前で好きと行ってしまった時から、もうどうにでもなれと思えるようになったんだろう。


 確かに俺とお嬢様には圧倒的な身分差がある。本来だったら、出会うことすらなかったはずだ。だけど、それでも俺は運命的にお嬢様と出会うことができて、これまでも長く一緒にいることができた。


 ……どうせこれ以上自分に嘘をついたって、何の意味もないし。当たって砕けろとも言うんだから……。


 「よし、チャリこぐために練習しないと……え?」


 そんなわけで俺は長距離チャリをこぐための準備をするため、トレーニングをしようと思ったんだけど……何やら部屋のインターホンが鳴る。何だろうと思って出てみると……。


 「ちわーお届けものでーす」


 アマゾ●の宅配だった。あれ、もう来たのか? さっき頼んだばっかりだってのに……最近の技術はすごいんだなあ。


 「ありがとうございます」


 何だかやけにごつい宅配員から俺は来た宅配を受け取る。ん? チャリってこんなに重いのか。いやでもそれは俺がチャリをあんまり乗ったりしないからか……。さて、早速開けてみる……。


 「サプライズやー!」


 「……ぎゃあああああああ! で、でたあああああああああ!?」


 ダンボールを開けようとした矢先、なぜか先にダンボールがパカって開いて、そこから現れたのはすごーく見覚えのある……柚様だった。俺は驚きのあまり思いっきり悲鳴をあげてしまう……いや、仕方ないだろ!


 「へ、へ!? ど、どうしてここに!? て、てか何でダンボールに!? そ、そもそも何で東京に!?」


 「いややわー純くん。うちがあれしきのことで諦めると思っとったらあかんで。あまあまやなー純くん、そんなところが可愛いんやけど」


 いや、普通の人間はこんなことしないし予期しないと思うが。……でもこの方は色々ネジがぶっ飛んでるから何が起こってもしょうがないか……。


 「さて純くん。うちと結婚しよう」


 何の躊躇もなく柚様がそう言ってきた。……俺もこれぐらいの度胸があればなあとは思いつつ、部屋の端に移動して断る。


 「嫌です! 俺は……ノアお嬢様を愛しているんです!」


 「い、いけずやなあ……。ええやん、うち大阪に強制送還されてからわざわざメイドに頼んで純くんの住まい探して、分かったら箱の中ずっと入って、しかもプレゼント風に頭にリボンまでつけてきたんやで。この努力に免じて結婚してくれや」


 「努力の方向性間違ってますから! それに絶対しません! 俺は……ノアお嬢様だけ愛してるんです!」


 「せやけどそのノアとはあれから会っとらんのやろ?」


 「う……」


 「あんなかっこええこと言っておいて何も返事がないっちゅーことは……やっぱ脈なしなんとちゃうか?」


 柚様は隅っこに逃げる俺を追い詰めて、耳元でそう囁く。……そう言われてしまったら、お嬢様は別に俺のことを好きではないのかと思ってしまう。


 「でもうちは純くんのこと愛しとるで。こんな寂しい思いさせたりはせん、とことん愛して愛して愛し尽くしたるから……うちの婿になりや、純くん」


 柚様はことば巧みに俺の心の中に入ってこようとする。それだけ俺のことを好きでいてくれているのかもしれない。だけど……俺は……。


 「それは無理です。俺はノアお嬢様のことだけしか見れませんから」


 その信念だけは絶対揺るがない。


 「……はあ。しゃーない、なら……無理やりキスして純潔奪ったるわ。そないことすれば、純くんノアに顔向けできなくなるやろうし」


 「い、嫌です! 離れてください!」


 柚様が一方的に俺に迫ってくるが、俺は何とかそれを回避して家から出ようとする。な、なんてしつこさだ……ここまでだとは思ってなかったよ。


 「逃げても無駄やで! ちゃーんと外に梅ちゃん待機させとるからなあ!」


 「マジかよ……」


 あの化け物とまた戦うのは正直無理だぞ……あの時は何とか勝てたけど、あれはほぼ相打ちみたいなものだったし。くそっ、どうしたら……、で、でも外に出るしかもうない! 


 「……さ、佐野さん!」


 「げ!」


 「……はあ。純を迎えに来てみれば……また六条家のバカがやってくれたなあ」


 外に出てみると、そこには佐野さんがいて、六条家のメイド長を拘束していた。な、なんていいタイミングなんだ……。


 「さっさと純を連れて行きたいが……先にこっちだな。柚様、今度もこしょこしょしましょーねー」


 「い、いやあああああああ!」


 それから数十分後。柚様たちの身柄を他の執事たちに渡して、何とかことの始末はついた。……住所バレたし、引越ししないとなあ。


 「あ、ありがとうございます佐野さん」


 「いいってことよ。んじゃ行くぞ」


 佐野さんは俺の手を引っ張って、初心者マークがついた高級車に俺を乗せた。


 「え? 行くってどこに?」


 「そんなの決まってんだろ? ノアお嬢様のところだよ」


  ――――――――――――

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