四国攻め顛末

 時は半年以上遡る。

 三月末の佐和山会談にて大幅減封が決まった秀吉は一か八かの四国攻めに打って出ることを決意した。


 四国の長宗我部と織田家の関係については複雑だ。元々畿内の三好に対抗するため信長は三好氏の本拠である阿波の背後にいる長宗我部氏と友好関係にあった。

 しかし三好氏が傘下に入ると徐々に態度は変化し、本能寺の直前には織田信孝・丹羽長秀に四国攻めを命じ、長宗我部氏と親しかった明智光秀謀反の一因となったとも言われている。

 その後元親は織田家の内乱の隙に宿敵であった十河氏を破って土佐に加えて阿波もほぼ平定した。柴田勝家と羽柴秀吉が対立したとき勝家は元親と結んだが、元親が具体的に行動を起こす前に秀吉は敗れている。


 そのため勝家は秀吉の四国攻めに先立って元親に土佐一国と阿波半国を安堵して降伏するよう伝えた。この条件は信長が元親に突き付けて拒否された条件と同じで、勝家は律儀に信長の遺志を尊重したと言える。

 しかし、その時よりも勢力を伸ばしていた元親はこれを拒否。こうして秀吉は三好康長、十河存保らを支援する形で四国攻めの準備を始めたのである。


 この時勝家ら大方の者は秀吉が四国攻めにおいて負けるとは言わずとも苦戦を強いられると考えていたし、それが勝家の狙いではないかと邪推する者もいた。

 秀吉の兵力は三万ほどだったが、敗戦による逃亡・討死、減封により播磨や摂津の兵力が減ったことで手元に残ったのは一万余。池田恒興は勝家に従って摂津に残ったが、高山右近や中川秀政(清秀の嫡男)らは秀吉に付き従った。それに三好・十河を合わせて一万五千に届くかどうかという兵力である上に敗戦直後で勢いもない。

 一方の長宗我部氏は四国平定を目前として勢いに乗っていた。讃岐に残る十河氏の城や、伊予の河野氏を攻めて四国統一を成し遂げようとしており、勢いの差は明らかだった。


 が、ここで秀吉は毛利輝元を四国攻めに誘うことに成功する。勝家と秀吉の戦いにおいて毛利氏は中立を貫き、織田家からすると同盟も敵対もしていない勢力であり、現在は秀吉に対して領地の広さでは逆転しており、毛利氏が秀吉に従うことはないと思われていた。

 しかし毛利氏は元々伊予河野氏を支援して長宗我部氏と戦う構えを見せており、秀吉の四国攻めの誘いに乗っかる形となった。ただ表向きはあくまでも時期を被せただけで秀吉の四国攻めとは無関係という形をとっている。


 勝家も予想外のことだったが、ここで四国攻めに文句をつければそれこそ毛利氏の反感を招きかねない。毛利は織田家に従属してはおらず、勝家が何かを命令することは出来なかった。


 そして六月ごろ、秀吉率いる一万五千の軍勢と毛利軍三万が時を同じくして四国に上陸した。これに対し元親は主力を率いて四国の中心である阿波白地城に入り、各地の城に兵力を置いて迎え撃った。


 羽柴軍は讃岐・阿波から上陸し四国における旧三好家臣たちを糾合しながら戦うものの、兵力の少なさゆえに苦戦した。元親は城攻めに苦戦する羽柴軍の背後を白地城の主力で襲うという作戦を立てており、実行されていれば元親が勝利した可能性もあった。が、実際には伊予から上陸した毛利軍が背後を牽制したため動けないでいた。


 伊予では金子元宅らが長宗我部方として奮戦したものの、このころ長宗我部方はあまり伊予に勢力を伸ばせておらず、孤軍となってしまっていた。七月の中旬ごろ、金子氏の主だった城が落城し、伊予はほぼ毛利氏の元に降った。


 その間に秀吉方も阿波の木津城・牛岐城を落とし、一宮城を囲んだ。一宮城は抵抗を続けたものの、毛利氏による伊予平定を聞いて開城。城将谷忠澄は白地城に向かい、元親に降伏を勧めた。

 阿波では岩倉城・脇城などが抵抗を続けており元親の本隊も健在であったため元親は抗戦を主張したという。しかし毛利軍の先鋒が土佐西部への侵入を目指したという知らせを聞いて、八月に入り元親はようやく降伏を決意した。この時元親は「猿と一対一であればわしが勝った」と嘆いたという。


 その後交渉の結果、伊予は毛利氏の小早川隆景に与えられ、讃岐・阿波は秀吉に、長宗我部元親は土佐一国の安堵となった。長宗我部元親は勝家に人質を送り、織田政権に臣従する形となった。

 秀吉は四国攻めの発端となった三好康長や十河存保に讃岐の一部を与え、残りを播磨の本領を失った黒田官兵衛に与えた。阿波は中川秀政・高山右近他先の戦いで領地を失っても秀吉に従った者たちに分配した。


 こうして秀吉は大幅に所領を減らした後も何とか求心力を繋ぎとめたのである。また、織田家と敵対せずに伊予一国を手にした毛利家は不気味に勢力を伸ばした。

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