第389話 悪い虫と万引き犯 ~特に活躍しない公平~
「ねえねえ、お姉さん! 可愛いねー! ちょっとさ、写真撮っても良いかな? お菓子いっぱい買うからさ!!」
降って湧くのが悪い虫。
かつて、毬萌と一緒にここでアルバイトした時にもこの手の
それほどまでにリトルラビットの制服が可愛らしく、それを着こなす花梨の魅力も留まるところを知らないのは結構である。
が、うちの大事な後輩にちょっかいを出すのはご遠慮願いたい。
「はいはい! ごめんなさいよー! 通りますからねー!!」
「うお!? おい、危ないだろう!? ここにお客がいるってのにさぁ!!」
悪い虫、領有権を主張。
何と言う厚かましさか。恥と言うものを知るべきと思われた。
………………。
あれ? おかしいな。
そろそろ鬼瓦くんが「ゔぁあぁあぁあっ!」って叫びながら突進してくる頃合い。
もしくは、パパ瓦さんが「ぶるぅあぁぁぁぁあぁっ!!」と雄たけびを上げて、気合一閃、悪い虫を店外に吹き飛ばすパターンのはずである。
………………。
あ、あれ?
タケちゃーん? パパ瓦さーん?
「ゔぁあらららららららららららららららいっ!!」
「ぷぅるぁあぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」
二人は、いやさ、二匹の鬼神は、厨房で暗殺拳を振るうのに忙しく、店内のトラブルに気付いていない様子。
改めて悪い虫を見てみよう。
なんでも鑑定団のナレーション風に言ってみて、現実が甘くならないか試してみたが、てんでダメ。
俺、銀河万丈さんじゃないもの。
「なあ、ここじゃ狭いから、外でお話ししようぜ?」
「困ります! ……先輩、こういう場合って、いきなり目潰ししたりしても、正当防衛になりますよね?」
花梨さん、まさかの自己防衛。
しかも発想が過激!
ちょっと待ったってー。お店の迷惑になるかもしれんからぁー。
「あの店の売り子は客に目潰しをした」って事実だけが残ったら、迷惑どころの騒ぎじゃないからー。
とりあえず俺には妙案が浮かばず。
かと言って、花梨と悪い虫を接触させるわけにもいかず。
とりあえず、二人の間を何度も通過すると言う愚策に打って出た。
「お前さっきから邪魔だよ! なに!? クリボーか何かなの!?」
悪い虫、意外と
「先輩のこと悪く言わないで下さい!!」
そして花梨さん、一歩も引かず。
そうだよね、初めてのアルバイトだもんな。
文化祭で接客が秀でていたとは言え、あれはあくまでも自分たちの庭での話。
場所が変われば状況も変わる。
このままでは、花梨が悪い虫の目を潰してしまう。
俺に出来る事は、クリボーの、あるいはノコノコのように、壁と壁の間を横歩きすることくらい。
ちくしょう。せめてリトルラビットが自動スクロールするステージだったら、ワンチャンスあったのに!!
ヘイ、ゴッド。「ない」って即答するのはヤメて?
神が人の子の可能性をいの一番に潰さないで?
すると、予想外の鬼がご降臨あそばされた。
「あら、花梨ちゃん! 手が止まっているわよ! お客様、お店の中で立ち止まられてのお話は、他の方のご迷惑になりますので」
ママ瓦さん、参戦。
「うっせ! ババアは引っ込んですぁぁぁぁぁぁぁい」
「あら、ヤダ。クッキングバットがお客様に! ごめんなさいね! でも、そこで倒れられると困りますから、外に出ましょうねー」
ママ瓦さん、悪い虫を瞬殺。
死骸を外に引きずって行ってしまわれた。
「ぶるぅあぁぁあぁぁぁっ! ごめんなさいぃねぇい! こちら、マシュマロ、試食だぁよぅ! みんな、食べてちょうだぁぁいよぅ!!」
そして、
これまで、勝手に鬼瓦家は、男子が戦闘スキル、女子は家事スキルにパラメーター振ってるのかと思っていたが、そんな事はなかった。
全員が鬼の一族だった。
俺の視力が捉えていた。
ママ瓦さん、クッキングバットで、悪い虫の顔を8回叩いていたもの。
あれ、きっと何かの技だ。絶対そうだ。
「桐島先輩。あれは天空破岩拳セピアです」
なに、その昔一世を
「天空破岩拳は大きく分けて、本流と、3つの分流がありまして、うちの母が使うのは、その中でも暗器術に特化したものなのです。その歴史は——」
鬼瓦くんが語る、情報ソースが民明書房かと疑いたくなる割とどうでもいい暗殺拳の歴史。
その話が本当にどうでもよくなる瞬間が訪れた。
「ちょっと、お兄さん! あのおじさん、山ほどお菓子抱えて外に出ちゃったよ!! 万引きじゃないのかい!?」
なんですと!?
慌てて振り返ると、小太りのおっさんが袋一杯にお菓子抱えて逃走中。
これはいかん。
鬼瓦くん、出動だ。
「暗器を扱う特性から、女性にも伝承しやすい点が長所なのですが、反面、暗器に頼り過ぎるきらいがあり、基礎武術の習得が前提になる事が短所ですね」
いつまでやってんだ!! 今、君んちが窃盗の被害に遭ってんだぞ!?
「公平先輩、追いかけましょう! あたし、多分追いつけます!!」
「ばっ! 花梨、ダメだって! 危ないでしょうが!!」
「でも、公平先輩じゃ絶対に追いつけませんよ?」
現実ってのは、悲しいね。
「鬼瓦くん! ……ダメだ!! パパ瓦さん!! ……ああ! ご年配の方に囲まれている!!」
ママ瓦さんはさっきの悪い虫の駆除をまだ行っている。
泣きながら謝る悪い虫。多分来世は綺麗な虫に生まれ変わるだろう。
「ええい! 仕方がねぇ! 花梨、一緒に追いかけよう!!」
「はい! 先輩、多分すぐに遅れると思うので、ゆっくり来てくださいね!!」
「……おう。花梨、これ持ってって! 指にはめて、おっさんの首筋とかに当たったら、グッと押し込むようにするとスイッチ入るから!」
「え? え!? な、なんですか、これ!?」
「ビリビリコウちゃん2号だよ」
お忘れの方に説明しよう。
ビリビリコウちゃん1号とは、毬萌が気まぐれに作った、触れると電流が走る凶器である。
そして、それに改良を加えて、護身用グッズに転生したのが、ビリビリコウちゃん2号。
誰の護身用かって?
ヘイ、ゴッド。そいつは愚問だね。
俺のだよ。
毬萌が「年末は色々と物騒だから、これあげるねっ!」ってくれたんだけど!?
「あー。分かりました! だいたい分かりました!! 毬萌先輩の発明品ですね! それなら、きっと大丈夫です!! じゃあ、行きますね!!」
「はひぃ、はひぃ、おふぅ! き、気を、付けて! 危ないと、思ったら、すぐに、ひぎぃ、引き返して……!!」
「分かってます!!」
そして花梨はグングン加速。
瞬く間に万引きおじさんに追いついて、ビリビリコウちゃん2号のスイッチオン。
ものすごい勢いで稲光が走った。
おじさん生きてる?
バリバリバリバリバリって音、初めて直で聞いたんだけど。
そして俺も威力を把握せずに渡したから、ちょっと罪悪感があるんだけど。
「はひぃ、うふぇ……。か、花梨、無事か?」
「あたしは全然平気です!」
「おう。……おっさん、生きてる? もしもーし、大丈夫ですかー?」
「……ゔぁるすぅ」
滅びの呪文言えるくらいなら、多分平気だろう。
うむ。脈もあるし、多分健康!
それにしても、凄まじい発光だった。
ゴッド・エネルかな?
……ビリビリコウちゃん2号も封印だな。俺の手には余る。
「いやぁ、すぅまないねぇい! まさかぁ、バイトの二人にぃ、万引き犯をぅ、捕まえてもらっちゃうなぁんてぇねぃ! おじさん、面目ないよぉう!!」
「僕もです。すみません、先輩。冴木さん。危険な事をさせてしまって」
「本当にごめんなさいね! 万引きしたお客様は、派出所のおまわりさんに預けて来たから! さあ、お赤飯を食べて!!」
その日は鬼瓦家で豪華な晩御飯が振舞われ、花梨も初バイトを終えて満足気であった。
それから、2日ほど朝と放課後みっちり働かせてもらった俺は、無事にお給料を頂くことに成功。
これでどうにか年を越せる。
「せんぱーい! 見て下さい! リトルラビットの制服でツーショット写真ですよ! 日が暮れてから撮ったので、先輩がとってもステキです!!」
「おう。また来てくれって、鬼瓦家の皆さんも言ってたぞ」
「先輩も、またあたしにバイトして欲しいんじゃないですかぁ?」
「おう?」
「あたしの胸、結構見てたの知ってますよー? せんぱーい?」
「……Oh」
しばらくはアルバイトしなくても済むように、所持金のご利用は計画的に。
もうバイト回は見飽きた?
俺もだよ。ヘイ、ゴッド。
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