第384話 公平と毬萌とカバディ

「おっし! ちょっと行ってくるか!」


「みゃっ!?」

「あひゅん」


 生徒会室から一人「行ってきます」と出発したところ、出会い頭に毬萌と衝突。

 食パン咥えていたら完璧? それは甘いよ、ヘイ、ゴッド。


 尻もちついて倒れこんだのは俺だからね!

 なんだい? 俺のパンチラでも見たかったのかい?


「にははーっ! ごめんね、コウちゃん! 気が小さすぎて察知できなかったよっ!」

「なんでドラゴンボール風に言うの!? あとナチュラルにディスってんじゃねぇ!! せめて戦闘力って言えよ!!」

「たったの5? でも、あれって銃を持ったおじさんだから、コウちゃんは1じゃないかなぁ?」


 中学の時にドラゴンポールを全巻貸してやったのが、ここに来てブーメランとなり俺を襲うとは……。

 いくらなんでも遅効性ちこうせいが過ぎやしませんか。


「それで、コウちゃんはどこ行くの? わたしを置き去りにして! どうせ別の女の子のところでしょっ!?」

「言い方!! 仕方ねぇだろ、今日は1年生が進路指導で遅いんだから! どうしても俺たち二人になるわい! そして、俺が行くのは体育館だ!」

「体操服の女子見に行くんだ! コウちゃん、やらしー!!」


 毬萌が花梨からラーニングしたスキル『からかう』を完全消去できない。

 調子の良い時は、ちょいちょい俺をからかうようになってしまった。

 サンダルを庭に隠すようになった柴犬のようである。


 そして、サンダルを庭に埋める柴犬は、たいそう可愛らしい。

 強く叱れないのはもう、どうしようもないのである。


「カバディ同好会の視察だよ! 文化祭で部員ゲットして部に昇格するための申請書類を教室で茂木から受け取ったからな。お仕事なの!」

「じゃあ、わたしも行くーっ!!」

「お前は自分の仕事をしなさい」

「今日はちょっとしかないもんっ! コウちゃん、わたしを置いていくなら、先週本屋さんで買った雑誌のこと、花梨ちゃんに言うから!!」



「ほら、さっさと行くぞ! 一人ぼっちは寂しいもんな!!」



 なにゆえ俺がわざわざ隣町まで行って買った雑誌が、少しだけ刺激的な雑誌が、毬萌にバレているのか。

 数秒ほど考えたところ、ついこの前うちで晩飯食ったとき、俺の部屋に毬萌を一人残した時間が5分ほどあった。


 ……江戸川コナンかよ。


「コウちゃん、待ってぇー! 今、体操服履くから!」

「おう? ばぁぁぁっ!! ばっ!! お前、いきなりスカートたくし上げんな!!」

「平気だよぉ! パンツ見えないように着替えるの得意だもんっ!」


「そういう問題じゃねぇんだよ!! ああ、もう、ちくしょう!! 色々ちくしょう!!」


 とりあえず、パンチラ防止策を取った毬萌と一緒に、一路体育館へ。

 こいつ、カバディに興じる気満々である。



「おー! やってんなぁ、茂木! 約束通り、視察に来たぞー」


 体育館の隅で柔軟体操をしているカバディ同好会。

 もうカバディ部で良いや。こっちの方が呼びやすいし。

 どうせ部に昇格するんだし。


「ヒュー! 公平ちゃんは優雅にデートかい? 砂糖入れ過ぎたレモネードみたいに甘い空気が漂うぜ! ヒュー!!」

「うっせぇ! お前も後輩が出来たんだから、もっとしっかりしろよ!」

「ヒュー! オレっちがしっかりしたら、皆がサボれなくなって困るぜ? ヒュー!」


 意外と上手い切り返しである。

 査定ポイントに加点しといてやるか。


「今日はオレと高橋だけなんだよ、男子部員。ただ、新入部員の女子は5人ちゃんといるから、練習は見学してもらえるぜ」

「おう。新入部員は、2年が1人、1年が4人だっけか」



「みんな茂木くんファンなんだぁー! 憧れの先輩って良いよねーっ!!」

「はい! ウチら茂木先輩の部活を知らなかったので、今回入部できてラッキーでした! ね、みんな?」

「うん!」「それな!」「今、みんなでルール覚えてます!」



 毬萌さん、既にカバディ部に溶け込む。

 かつて4月の予算編成の時に文芸部を訪ねた時も、一瞬で仲良くなっていたなぁ。

 そのカリスマ性はまったく稀有けうな才能である。


「お待たせー! 更衣室のカギ閉めて来たよー。あれ? 桐島くん?」

「おう? おお、堀さん! あれ、二年生の新入部員って、堀さん!?」


「ヒュー! 堀っちは期待の新人だぜぇー! なにせ、体が良いからな! ママの次に魅力的だぜぇー! ヒュー!!」

 高橋、お前、そんなセクハラ発言を。

 知らんのか、堀さん、瓦割れるんだぞ?


「も、もう! 高橋くんってば、ヤメてよね!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」


 この前も言ったけど、照れ隠しで体をペシッって叩いて来る女子、良いよね。

 堀さんのそれも、まさに照れ隠しだったのだけども、ペシッではなかった。



 ゴッ! って音がしたよ!

 そして、なにゆえ俺が照れ隠しでしばかれたのかな?



「あ、ごめんね、桐島くん! 私ったら、つい!!」

「お、おう。平気、平気。主に氷野さんから日常的に喰らってるから」


「堀さーん! 見に来たよーっ!」

「毬萌ちゃん! あ、思い出した! 勝負下着、買った!?」



 堀さん。俺も思い出したよ。その件で話がある。



「堀さんも買った? 高橋くんに見せるんだよねっ!」

「ちょ、ちょっと、毬萌ちゃん! もう! 何言ってんの!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」



 堀さん、照れ隠しのボディタッチ、俺が耐えられるのは多分あと一回。



「にははーっ! 大丈夫だよ、コウちゃん体はフニャフニャだけど、口は堅いから!」

「お、おう。まさか、茂木じゃなくて高橋を好いているとは、堀さんも変わってんなぁ。でも、大丈夫。競争率はほぼゼロだよ」


 文化祭が終わると、あっちこっちで恋の炎が燃え上がると土井先輩が言っていたが、やはりあのお方の言う事はいつも正しい。

 こんなところでも恋のボヤ騒ぎが。


「おい、桐島! せっかくだから、体験していかないか?」

 茂木がやって来た。

 キャプテンらしく、一年生女子をしっかり指導している姿は堀さんにしばかれながらも観察済み。

 加点しておこう。


「カバディって、俺でもできんの?」

「誰でもできるさ! 手軽で安全でしかも奥が深い! 体験しない手はないぞ!」

「うーん。そこまで言うなら、ちょっとだけ」


 カバディとは、ものすごくザックリ言うと、ドッジボールと鬼ごっこを足したような競技である。

 細かいルールについてまで言及すると今日が終わるので、興味のある者はグーグル先生に聞いてみて欲しい。

 この場では、「カバディ、カバディ」と連呼しながら、敵陣に侵入して選手にタッチし、自陣に帰還すると点が入る、とだけご理解頂ければ充分である。


「カバディ、カバディ、カバディ! みゃーっ!! やった、3人に触ったよーっ!」

 そして一足早く体験している毬萌さん。

 スカートがひらついているが、下は体操服の安心設計。


「あんな感じだ。これなら、体力のない桐島だって楽しめそうだろう?」

「おう。そうだな。確かに見てる分だと、俺にもできそうな気がしてくる」


「ヒュー! 次は公平ちゃん入れよ! オレっちと堀っちが相手するぜぇー!」

「えっ!? 私も!?」

「堀っちは筋が良いから、オレが直々に指導するぜぇー! ヒュー!!」

「う、うん! 分かった! よろしくね、高橋くん!」


 ちなみに、攻撃側を自陣で引きずり倒すと守備側に得点が入るのだが、その情報を教えてくれなかった茂木は厳罰に処したい。

 オチが分かった? ヘイ、ゴッド、奇遇だね。俺もだよ。


 茂木さ、安全って言ったじゃん?


「おーし! んじゃ、やってみるか! カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」


 俺は心許ない肺活量を信じて、敵陣に突撃。

 狙いは高橋。と言うか、女子にタッチするのはちょっと抵抗があるもの。


「ヒュー! 触られちまったぜぇー! 堀っち! 逃がしちゃダメだぜ! 恋とカバディは駆け引きなし、勢いのまま動くんだぜ! ヒュー!!」

「は、はい! そぉぉぉぉいっ!!」



「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」



 体育館の床に後頭部を打ちつけた俺である。

 堀さんのガチったパワーに対抗できるはずもなく、高橋が恋とか言うものだから、彼女も手加減をすると言う選択肢はなかった模様。


「みゃーっ! こ、コウちゃん、大丈夫!?」

「……おう。ああ、お前、体操服履いて来て、正解だったな」


 何故ならば、見上げれば毬萌のスカートの中がモロ見えだからである。



 その後、保健室で借りた氷嚢ひょうのうを頭に乗っけながら、俺は生徒会室で「部活申請、承認」と書類へ記載し、毬萌に決裁印を押させた。


 翌年、女子カバディ部は無類の強さで、県大会優勝を果たすのだが、それはまだ未来のお話。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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目次 またの名をお品書き

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