第351話 入場門を作ろう! ~戦力外、クビを宣告された公平~

 花祭学園の文化祭は、私立らしく独特である。

 オモシロ学園長がテッペンに鎮座している生態系なので、それも当然かもしれないが、何が独特なのかを少し語ろうと思う。


 まず、うちは文化祭において『クラス単位の出し物』が存在しない。

 聞いた話によると10年前くらいまでは存在してたらしいのだが、ある時学園長が「もうヤメよっか」と言って、本当にヤメたらしい。

 理由が「だってクラスで強制的に何かさせても全員は盛り上がらないでしょ?」と言う、意外と否定し辛いものなのが、学園長っぽい。


 その代わり『部活単位での出し物』に重きを置くようになり、それは大層盛り上がりを見せ、ついには場所の関係上、全部活動が参加できない状態になってしまった。


 ならば弾かれた部活と、そもそも帰宅部の生徒は何もしないのか。

 そこでまた、オモシロアイデア大好きおじさんこと、学園長考えた。


 「余剰の人員は、文化祭本体の準備をしてもらおうか」と彼は言った。

 「それではただ奉仕する生徒から不満が出ますよねぇ」と教頭が応戦。

 すると学園長はこう言ったらしい。


「それじゃあ、準備に貢献した生徒には、準備ポイントを配りましょう。ポイントに応じて、文化祭で使える金券をボクが配りますよ。ポケットマネーで」


 懐に余裕のあるおっさんの優雅な提案に、懐と髪の毛に余裕がなく、中性脂肪に至ってはもう手遅れな教頭は黙ったらしい。


 こうして、現在の文化祭のシステムが出来上がった。



「そんじゃあ、怪我のないように、これから組み立てていくんで! 皆さん、ひとつよろしく頼んます!」


 そして現在。


 俺は校門の脇で、文化祭の入場ゲートを作っている。

 このゲート作り、さぞかし人気のない役だろうと思われる事なかれ。

 前述した準備ポイントの振り分けが多く、また、全学年の生徒で一つのものを作ると言う一体感に惹かれる者も多く、意外と人気がある。


「副会長、今日は冴木さんと神野先輩、いらっしゃらないんですね!」

「おう、松井さん! あの二人はな、今、大事な仕事に当たらせてるんだ」

 風紀委員の松井さんはハテナ顔。


 そもそもうちのメシマズシスターズがメシマズである事自体がトップシークレットなので、いくら顔見知りの松井さんでも内容は話せない。

 今頃は冴木邸で、フライドポテトを量産しているだろう。

 冴木邸では、パパ上を筆頭にシェフと使用人が総動員で三食ポテトを食べる毎日らしい。

 第一三共胃腸薬プラスエリクサーを差し入れに行かなければなるまい。


「桐島先輩。大工作業班、道具が行き渡りました」

「おう。鬼瓦くん、ご苦労さん。そんじゃ、やっていくか!」

「あの、装飾班の担当ってどなたがされるんですか?」


 松井さんの発言が事の真理を貫いた。



 いっけね、生徒会役員、二人しかいねぇのに!



 鬼瓦くんを大工作業に回して、お前が装飾の担当をしろ?

 ゴッド、ヘイ、ゴッド。それは甘いよ、ミルキーくらい甘い。

 俺の芸術性を甘く見ない方が良い。こっちは甘くない。


 俺の一学期の通知表、見る?

 美術、ペーパー試験満点だったのに、2だよ?

 もちろん、5段階評価の2。

 酷いよね、絵の上手い下手って主観じゃんね。


「とりあえず、鬼瓦くん、装飾班に回ってもらえる?」

「ゔぁい!」


 当然と言うか、やっぱりと言うか、この時点でミステイク。

 きっとみんなが知っている。

 なぜなら俺だって知っていたから。



「副会長! 先日のハロウィンパーティーでは部長たちがご迷惑をおかけしました!」

「おう。足立くん」

 彼は相撲部の良心、足立くん。

 体育祭で俺の騎馬になってくれた、相撲部きっての善良なごっつぁん。


「先輩から頂いた金の衣装! 神棚に飾ってあります!!」

「そ、そうか。……それ、バチ当たったりしねぇかな?」

「部長もあの日から急に語尾にごわすが付いて、部員の士気も上がりっぱなしです!」

「部長、大結おおむすびくんだっけか。語尾キャラとして生きていく道を選んだんだ」

「とにかく、自分、今日は相撲部代表として、頑張ります!!」


 風の噂だと、相撲部は文化祭当日に向けて、ちゃんこの準備に余念がないとか。

 足立くんは「自分、料理はからっきしなので、戦力外っす」と爽やかに笑う。

 うん、一年生らしく、フレッシュな心意気は見ていてとても気持ちが良いね。


「おっし。頑張ろう、足立くん。釘打ち込む場所にはマークがされてるらしいから、怪我にだけは気を付けてな!」

「押忍!」



 それから15分が経った。


「副会長! 全然釘が埋まってないですけど、金槌かなづちが不良品ですか!?」

「うん。そうね。おう」

 爽やかな一年生に爽やかな視線を向けられ、爽やかに声を掛けられた俺の瞳は死んだ魚のように濁っていた。



 不良品なのは、俺の腕かな!



 もしくは、俺の担当している部分だけ、木じゃなくて鉄で出来ているか。

 そちらの可能性に賭けたところ、足立くんが「ほっ!」と気合一つで、つま先立ちしていた俺の釘を叩きこんだ。

 将来、絶対にギャンブルはしない。

 だって、自分に賭けても裏切られるのに、ギャンブルで勝てるはずがないもの。


「お、鬼瓦くぅぅぅぅぅぅん!! ちょっとー! ちょっと来ておくんなましー!!」


 俺は、速やかに配置転換を行った。

 2トントラックの積載物せきさいぶつを自転車の荷台に乗せるくらい、俺には荷が重かった。

 せめて軽自動車くらいの馬力があれば、ワンチャンス。

 え? ない? ……ゴッド、ちょっと冷たいね。



「おう。やっとるかね?」

 そして、さも一仕事終えて来たような顔で、恥知らずにも装飾班の作業の進捗を見に行くことにした俺である。


「副会長! 見て下さい! どうですか、このお花!」

「おう。松井さん! ……Oh」


 花祭学園は、名前に花が付くくらいなので、しばしば花をあしらったデザインが施される。

 夏休み前の集会の時にはひまわりが咲いたプリントを配ったし、修学旅行のしおりにはコスモスがいろどりを加えていた。


 そして松井さんの前には、真っ赤な彼岸花が咲いていた。

 さらによく見てみると、目と口が真っ黒な子供が、ひょっこりはんみたいに彼岸花の隙間から顔を出している。



 怖いよ!! なんでそんなホラーなタッチなの!?

 ………………。


 そうだ、この子の、写生大会でホラーな絵を描いて賞もらってたな!!



 俺は、現場監督として、彼女に注意するべきだと思われた。

 何故ならば、周りで花の絵を描いている女子たちは、マリーゴールドや金木犀などのパステルカラーで目に優しい仕様。

 対して、松井さんの前だけ、目にガツンと入って来る真っ赤!


 鬼滅の刃のエンディングみたいだよ!!


 しかし、俺には言えない。

 「せめてその呪怨じゅおんに出てきた子供だけでも消そうか」とすら言えない。

 頑張っている女子に対して、そんな事は言えないのだ。


 俺は、速やかに電話をかけた。

「もしもし? はい。あの、申し訳ねぇんだけど。はい。ごめんなさい」


 2分後に彼女が来た。大げさな荷物は持って来ず。

「どうしてあんたは、困ったら私を呼ぶのよ! 私だって今、風紀委員会の会議が変わったばかりなのに!!」


 困った時の氷野さん。

 さすがはねえさん、そして義姉ねえさん。頼りになる。


 彼女は、速やかに松井さんワールド全開のスペースを、改良し始めた。

 それも、口調こそ厳しいが、松井さんを傷つけないように言葉を選んで。

 さすがだなぁ、と俺はため息をついた。


「ったく! 桐島公平、あんた、邪魔!」

「そんなぁ、マルえもん!」

「変な呼び方するな! もう、ここは私が受け持つから、あんた、端っこで邪魔になんないように座ってなさい! ほら、これあげるから!」



 適材適所。

 鬼瓦くんと氷野さんの奮闘により、入場ゲートは無事完成。

 それを眺めていたのは俺。


 氷野さんがくれた飲みかけのレモンティーは、なんだかやけに酸っぱかった。


 その後、生徒会室で事務仕事を頑張ったから、実質引き分けだろう。

 だったら最初からそうしてろ?

 祭は準備こそ楽しいのに、それに参加しないって言う選択肢は俺にはないな!!


 ちなみに、翌日の各所に設置する看板作りに俺は呼ばれなかった。

 と言うか、そんな作業が行われていた事を知ったのは、後日になってからである。



 秋の風は、時折ビックリするくらい冷たいね。

 俺は独り、深まる季節を感じながら、今日も事務仕事に励む。




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