第331話 恋バナとふくれっ面の毬萌さん
「そこでな! 土井くんが一輪の薔薇を持って、下駄箱で待ち構えていたのだ! そして、膝をついて私に交際を迫るのだから、あれは驚いた!!」
「えっ!? 土井先輩から告白されたんですか!?」
「ああ! 私も大概には神経の太い方だと思ってはいたのだが、がらにもなくときめいてしまったよ! はっはっは!!」
現在、天海・土井の両先輩と談笑中。
フレンチトースト2つも貰った上に、むちゃくちゃレアな話にお花がパッカーン。
まさか、お二人の
「おやめ下さいませ。わたくしとて、羞恥心は人並みに持ち合わせております。まったく、天海さんはお意地が悪い」
「いやぁ! すまん、すまん! ただ、嬉しい話と言うのは、誰かに話したくなるものではないか! その相手が敬愛する後輩ともなれば、格別!!」
「ははあ。まさか、お二人は一年の時にゃ、もうお付き合いしていたとは」
驚愕の新事実である。
「うむ! より正確を期すと、一年生の5月には、だな!!」
「マジっすか!? 早いっすね!! あの、土井先輩、よろしければ、天海先輩のどこに惹かれたのか聞いてもいいっすか!?」
毬萌と花梨がやたらと人の恋時に頭から突っ込んでいく姿を見て、いつもやれやれと達観した風に手を挙げていたが、ごめんね、二人とも。
これは頭から突っ込むわ。突っ込まなきゃ嘘だ。
「おやおや。まさか、味方だと思っていた桐島くんにも裏切られてしまうとは。これは困りましたね」
「良いじゃないか! 別に減るものでもない! 言ってあげてくれ!!」
「そうですね。全て、でしょうか。顔も態度も性格も、理念も主義主張も。わたくしが力になれたらなんとステキだろう……と、思ってしまったのです」
あ、甘ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!! さっき食ったフレンチトーストより甘い!!
土井先輩にこんな事言われたら、そりゃあ天海先輩も恋に落ちるさ。
ステキを通り越して、いっそセクシーだもの。
「それに、5月と言うものは、何か気持ちを解放するのに向いている時期なのかもしれません。……桐島くんもそうでしたよね?」
「えっ!?」
「ああ! そうだな!! 君が大胆な行動に打って出たのも、思えば5月のオリエンテーリングの時だったか! まったく、副会長は5月になると元気になるな!!」
「えっ!? ええっ!?」
少しお待ち頂きたい。
5月のアレって言うのは、アレかい?
俺が毬萌に向かって良くないハッスルをした件で合っているのかな?
違っていて欲しいな。
「あの時は見るに見かねて、よっぽど私が二人を取り持とうかと考えてものだ!」
「それを止めたのがわたくしです。差し出口を挟むのはお
アレだね!!
なんでアレが
花梨や鬼瓦くんですら事の詳細は知らないはずなのに!!
「あ、あの、どちらでその話を!?」
すると、二人が揃ってウインク。
「こう見えて、わたくし学園の情報通を自負しておりますので」
「はっはっは! 恋人の知っている事を私が知っていても不思議ではなかろう?」
事情はサッパリ分からんが、この二人に勝てないことと、隠し事ができないことはよく分かった。
俺が「は、ははは」と呆気に取られていると、「そろそろ行かねばなるまい! 桐島くん、楽しい時間だった!」と、天海先輩が立ち上がる。
「帰りの道中もお気を付けて。ご無理はいけませんよ?」と、土井先輩は柔らかスマイルでサヨナラの挨拶。
「あーっ! コウちゃん、どこ行ってたの!?」
俺も尻についた砂を払って、皆のところへと帰って来た。
「おう。ちょいと天海先輩と土井先輩に会ってな。話し込んじまってた」
「みゃーっ……」
すると、ジト目の毬萌さん。
花梨のジト目はよく見るけども、毬萌のそれは珍しい。
「どうしたんだよ、毬萌。あ、まだ腹減ってんのか?」
「ちーがーうっ!! どうしてコウちゃん、天海先輩とお話してたのかなっ!?」
「どうしてって、偶然?」
昼ご飯を恵んでもらっていたからだよ。
「みゃーっ……。何の話してたの?」
「ゔぁっ!?」
「お前に告白まがいの事をした話」とは言えない!!
「いや、まあ、世間話だよ。ちょっとした、おう、他愛のないヤツ!」
「ふぅーん? ……コウちゃん、そろそろ出発するから、色々手伝って!!」
「お、おう。……なあ、なんか怒ってる?」
「ふーん。怒ってないもんっ! わたしを怒らせたらたいしたものだよっ!!」
怒ってる。毬萌が、なんか知らんが怒ってる。
「あー! おい! ……行っちまった。何だってんだ、一体」
「おやおや。どうやら、ヤキモチを焼かれてしまったようですね」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあん!?」
急に背後から土井先輩の声がして、心臓が2回ほど止まった。
「おや、これは失礼いたしました。桐島くんに
「あ、はい。こいつぁ、お心遣い、すんません」
「先ほどの神野さんの態度ですが、恐らくあなたが天海と密会していた、と
なるほど、やっぱりまだ天海先輩にゃ苦手意識があるからか。
「それは違います」
最近、俺の周りの人がナチュラルに心の中を読んできて困る。
土井先輩は咳払いを一つして、出来の悪い後輩へアドバイスする。
「女子と言うものは、意中の男子が
だが、この案件に関しては俺にも反論がある。
「でも、俺が花梨と話をしてても、毬萌のヤツぁ特に何も言いませんよ?」
「おやおや……」
そこで言葉を一度区切り、首を振る柔らか鉄仮面様。
「そこについては、桐島くんの宿題ですね。わたくしが答えを授けるべきではないと思います。差し当たって、一つだけ。神野さんには優しくしてあげると良いですよ」
そう言うと、土井先輩は音もなく姿を消す。
いつも光の射す方を的確に教えてくれる土井先輩。
しかし、今回はよく分からん事の方が多かった。
「おーい、毬萌! 毬萌よぉー!!」
「……みゃーっ。なにかな、コウちゃん? わたし、忙しいんだけど」
それでも、土井先輩の言う事はいつも正しい。
「おう、いや、毬萌が今日は、なんつーか、可愛いって言うか、な! アレだよ、やっぱお前は体操服似合うよな! 俺ぁ、つい見惚れちまったよ!!」
「みゃっ!? みゃっ!?」
「巡回するんなら、俺も一緒に行くぞ? 二人の方が捗るだろ?」
「う、うんっ! なんだかコウちゃん、優しいねっ! にははっ、なんだー、コウちゃんってば、やっぱり私のコウちゃんなんだっ! にへへーっ」
毬萌のヤキモチは綺麗に消滅。
むしろ、前よりも上機嫌になっており、俺が「乙女心に関しては土井先輩を師事しよう」と思い至るには充分な結果であった。
「コウちゃん、コウちゃん!」
「おう。どうした? 毬萌」
「帰りも同じ距離だけど、頑張ろーっ!! 疲れたら、肩貸したげるねっ!!」
「……Oh」
この場所と、このイベントをすっかり失念していた俺である。
ここは
えっちらおっちら歩いて来たからには、同じだけ歩かなければ帰れない。
さあ、地獄のカーニバルが始まるぞ。
俺は、
そうか、お前たち、命が短いって知ってるから、あんな必死に鳴くんだな……。
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