第326話 毬萌と腹痛
今日は久しぶりに生徒会が大忙し。
午前中に来月の予算やらの概算を出して、昼休みの今、それを書類の形にすべく、全員で購買部のサンドイッチ片手にパソコンをカタカタターン。
当然、その程度ならば忙しいの
鬼瓦くんが前に一歩踏み出し、「ここは僕一人で充分です」と、四天王の
悪の四天王は何故だか最初に弱いヤツを出すハウスルールがあるけども、うちはもうガチであるからして、先鋒で全てを片づける。
では、何が忙しいかと言えば、今日中に来週予定されている遠足と、来月上旬に予定されている文化祭についても予算を纏めなければならない。
遠足なんて行きたくもないけども、「予算出せ」と言われたら「嫌だね」とは言えぬのが辛いところ。
さらに、文化祭は学園生活においても一大イベント。
ついこの間、体育祭をやったじゃないかと思うけども、秋ってヤツはイベントの多さにかけて他の季節に先頭を譲るつもりはないらしい。
それらの仕事に加えて、午後からは全校集会が行われる。
ここまで色々と集中されてしまっては、さすがに忙しいと弱音を吐きたくもなる。
「桐島先輩。こちら、遠足の資料です」
「ちくしょう! なんで高校生にもなって遠足なんかに行かにゃならんのだ!!」
「お気持ちは分かりますが、先輩、お仕事です」
「だって、鬼瓦くん! なんで10キロも歩かにゃならんのよ!?」
「桐島先輩。公私混同はいけません。そして、片道10キロです」
鬼瓦くんの穏やかな正論の連撃が
鬼神スターバーストストリーム。
「花梨! すまんけど、文化祭関連の資料集めてくれるか?」
「分かりました! でも、正直あたしの手には余りそうなんですけど……」
「おう! 大丈夫! 俺の手にもバッチリ余るぜ!!」
「えー!? ダメダメじゃないですかぁー」
「はっはっは! 大丈夫、こういう時に頼りになるのが……」
我らが生徒会長! と言おうと思ったものの、いささか違和感。
そう言えば、さっきから毬萌のヤツ、やけに静かだな。
普段だったら、こういう修羅場状態の時ほど、場の空気を和ませてくれるのに、思い返せば昼休みに入ってから声を聴いていないような気がする。
「おーい、毬萌?」
「みゃ、みゃーっ……」
生徒会長の椅子に座った毬萌は、腹を抱えて丸くなっていた。
「なに猫みたいになってんだ、お前は柴犬だろうが」とツッコミを入れようとしたところで、ようやく異変に気付く。
毬萌の顔色は悪く、額には汗をかいていた。
「おい!? どうした、毬萌!?」
「う、うん。んっとね、ちょっとだけ、お腹痛いかも、なのだ……」
ちょっとだけとはとても思えないその表情。
ま、まさか、
「お、おい、おい!? どうする、まずは、ええと、きゅ、救急車か!?」
落ち着け、俺が慌ててどうする。
こんな時こそ冷静な思考を持たなければ。
有事の際に会長を補佐するのが副官たる俺の役目。
「大丈夫ですか、毬萌先輩? ……少し呼吸が荒いですね」
「お、おおお、鬼瓦きゅん!! おち、おち、おちけつ!!」
「冴木さん、誰かに保健室から担架を持って来てもらえるかな?」
「分かりました! 松井ちゃんにお願いします! 多分、風紀委員の人たちで連携してくれると思うので!!」
「よし来た! 俺ぁ、ひとっ走り担架受け取ってくらぁ!!」
「桐島先輩、
「はあああああん! では、俺ぁ何をしたら!? やっぱり救急車呼ぶか!?」
「毬萌先輩に付いていてあげて下さい。僕が担架を受け取って来ます!」
そう言って、鬼瓦くんは「ゔぁぁあぁぁぁっ!!」と走って行った。
廊下は走るな? 緊急事態なんだから、いっそ飛んでくれても良いよ!!
「おい、毬萌! 大丈夫か!? どうした、何があったんだ!? ええ!? 俺に出来る事ぁなんかないか!? 水飲むか!? ああ、いや、
「みゃ、みゃーっ……」
アタフタしていると、鬼瓦救急隊が到着。
傍らには、かつて体育祭で俺の騎馬を務めた、ラグビー部の堀内くん。
「僕と堀内くんで担架を担当します! 桐島先輩は、毬萌先輩の手を握ってあげて下さい!!」
「お、おう! そうか、そうだな!! 毬萌よぉぉぉ!! 俺ぁここに居るぞ!!」
「先輩! あたしは生徒会室に残りますね! 心配ですけど、ここを空けておく訳にもいきませんし!!」
鬼瓦くんはがっちり。
花梨も冷静。
俺はどうしたって?
慌て散らかしているよ!!
冷静さをつかさどる脳の回路が焼き切れてるんだよ!!
俺の大切な幼馴染が、玉のような汗流して苦しんでんだぞ!?
そんな状況で冷静になれって!? 無茶言うな!!
俺にとって、毬萌が、毬萌がどれほどの存在か……!!
そして保健室に到着。
保健の先生である大下先生は、なんと医師免許を持っており、かつては大学病院の内科に勤務していたガチの女医さんである。
なにゆえ花祭学園に勤務する事になったのかは謎だが、謎はこの際置いておく。
「大下先生!! 毬萌、毬萌は大丈夫ですか!? 救急車呼びます!?」
「あー、はいはい。桐島くん、気持ちは分かるけど、神野さんは女子なんだから、一回部屋から出てくれる? ほかの男子もよー」
追い出された俺と鬼瓦くんと堀内くん。
1分が10分に感じられ、10分が1時間に思える待機時間。
そして、保健室のドアが開いた。
「せ、先生!! どうなんですか!? 救急車呼びますか!?」
「あー、うん。神野さん、自分で言える?」
「みゃーっ……。はい、言えます……」
「ばっか、お前! そんな、座ったりして大丈夫なのか!? 楽な姿勢で、楽な姿勢!!」
「……食べ過ぎちゃった」
おう。なんつった?
「……みゃーっ。あのね、お昼の前に、生徒会室でチョコパイ見つけてね」
「お、おう。そういやぁ、先週俺がひと箱買っといたな」
「……1個だけのつもりだったんだけど」
「えっ!? 全部食ったの!? チョコパイを!? お前、その後、普通にサンドイッチ食ってたよね!?」
「……にへへっ」
——こんのぉぉぉぉぉ、アホの子がぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!
可愛く笑って許されるラインってもんがあるだろう!?
俺が、俺がどれだけ心配したと思ってやがる!?
「薬が効いてるから、もう大丈夫だけど、一応放課後までは保健室で面倒
そこで気付く、大盤振る舞いでご披露してきた、俺の尋常ではない取り乱し方。
既に学園内を「会長が産気づいて、副会長が泣きながら
俺は、生徒会室へ戻る道中「違うんだ!」と、何度も言った。
100回までは数えていたが、それ以降は分からない。
「公平先輩!! あの、毬萌先輩、大丈夫でしたか!? 早退して病院ですか!?」
「おう。あのね、違うの、聞いて花梨さん。そしてさっきの俺を忘れて」
事の顛末を彼女にも説明。
「もぉー! すっごく心配したんですよぉー! 先輩があんなに慌てるから!!」
「いや、もう、マジで面目ねぇ。穴があったら入りたい。そしてその上から
毬萌が無事なのは、まあ少々納得のいかない部分もあるが、大事に至らないで笑い話で済ませられる点、これは良かった。
しかし、俺にとって本当の試練が始まるのは、この瞬間からであった。
これは非常に良くないね。
セクシーじゃないね。
「あの……。桐島先輩」
「おう。どうした、鬼瓦くん」
「全校集会まで、あと15分しかありませんが、どうされますか?」
どうするって。
……どうしようか。
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