第274話 勅使河原さんと鬼狩り
俺のたちの作る最高のアルバムは、何も生徒会役員だけのものではない。
関わりのある人たちは全て収録すると言う欲張りセット。
まだまだ序盤で、生徒会メンバーがメインになるのは致し方ない。
しかし、その選定委員が生徒会である必要もない。
「はいっ! これが、わたしが武三くんを追跡していたときの写真だよっ!」
山のように出てくる鬼瓦くんの写真。
鬼神やまもり。
「ゔぁあぁっ! ひどいじゃないですか、毬萌先輩! こんな僕のプライベートなところまで!」
「にははっ、ごめんねっ! 武三くんがどんな人か調べてたんだよぉー」
毬萌のチートスキルが発揮されると、こうなる。
毬萌は天才スイッチが入る際、元々高い知能に周到な用意がドッキングする事があり、この時の彼女は完全無欠。
手が付けられないとも言う。
しかし、鬼瓦くんが自転車で車を追い抜くシーンの動画まで撮影済みとは。
「お前、これをどうやって集めたんだよ?」
「ほえ? んっとね、お父さんがいらないって言うドローンを改造して、お父さんがいらないって言った高性能のカメラを付けたんだよっ!」
おじさん、ドローンにまで手を出していたのか。
毬萌の親父さんは発明が大好き。既知の事実である。
そして毬萌の親父さんに天才的な発想や閃きはない。
これもまた既知だろう。
その結果、大量の不用品が発生し、それは毬萌にとっては宝の山となる。
時折、ドクター毬萌のラボが作られ、そこで不用品は再生を遂げる。
「なるほどなぁ。この盗撮カメラで、鬼瓦くんの素行調査してたのか」
「むーっ! そんな酷い名前じゃないもんっ! 覗き見コウちゃん二号だもんっ!」
「なにその名前!? すっげぇ嫌なんだけど!!」
「んっとねー、速度と安定飛行に問題があった覗き見コウちゃん一号を改良したのが、覗き見コウちゃん二号だよっ!」
「や・め・ろ!! 俺が覗き見してるみたいに聞こえるから! つーか、そうとしか聞こえないから!!」
「あ、あの、せ、先輩、方! や、ヤメて、下さ、い!」
勅使河原さんが俺たちの不毛な争いに待ったをかける。
今回の写真選定委員のゲストは勅使河原さん。
理由は言うまでもないだろう。
鬼瓦くんマイスターの彼女であるからして、きっと良いものを選んでくれる。
「ったく、勅使河原さんに免じて、今回は見逃してやらぁ」
「わぁーいっ! ありがとー、真奈ちゃん! この武三くんの動画、いる?」
いや、お前、勅使河原さんは常識と良識を持ち合わせた女子だぞ。
そんな不埒な発明品で撮られた動画なんて。
「下さい! ぜひ!!」
要るよね。知ってた。
もう、発言に淀みがないもの。
久しぶりの登場なんだから、「勅使河原さんってこんなハキハキ喋ったっけ?」って事案が発生するよ。
キャラをブレさせないで頂きたい。
……いや、ブレていないからこそか。
ああ、恋する乙女は面倒くせぇ。
ちなみに、花梨は現在仕事を片付けている。
理由は「あたし先輩以外の男の人は見たくないので!」とのこと。
俺は喜んだら良いのか。
とりあえず鬼瓦くんは
鬼神しくしく。
「鬼瓦くん、全然選定作業が進んでねぇじゃないか」
「自分の写真を自分で選ぶなんてできませんよ。桐島先輩はできますか?」
「おう。ごめんな。できねぇや。しゃあねぇから、有識者呼ぼうな」
毬萌の秘密の動画が入ったSDカードを手に入れてニコニコの勅使河原さん。
そんな彼女を呼ぶ。
「鬼瓦くんの良い写真をいくつかピックアップしておくれやす」と頼んだ。
「全部、じゃ、ダメ、ですか?」
俺は恋する乙女の盲目っぷりを計算に入れていなかった事を恥じた。
彼女にオーダーを通し直す。
「この中から、そうだな、5枚! 5枚だけ厳選した鬼瓦くんをピックアップしてくれるか? もちろん、タダとは言わねぇ。その写真、ラミネート加工して君にあげるから」
「やります!!」
そう言って、勅使河原さんは制服の上着を脱いだ。
ゾーンに入るようである。
「まず、この、リトルラビット、で、働いているカットは、絶対で、す!」
「そうかなぁ。普通の僕だと思うけど」
「ち、違う、よ? いつもの、武三さん、より、腕の筋肉が、引き締まって、る!」
勅使河原さん、ついに鬼瓦くんの筋肉の状態にまで詳しくなったか。
「あと、こっち、の! 生徒会に、入った、次の日のヤツも、です!」
「この写真は緊張していたから、ちょっと恥ずかしいなぁ」
「こんな、表情、滅多に見れない、から!」
「うーん。真奈さんが言うなら、そうしようか」
それから次々にベストオブ鬼瓦くんをチョイスしていく勅使河原さん。
そんな彼女と鬼瓦くんを見て、俺は思った事がある。
「なんか結婚式前のカップル見てるみてぇでむず痒いんだけど!?」
新郎新婦の馴れ初めに使うスライドショーの編集作業にしか見えん!
……俺も花梨の仕事、手伝いに行こうかな。
「見て、コウちゃーん!」
「おう。どうした? ……Oh」
「これがね、覗き見コウちゃん二号だよーっ! 見て、この安定した飛行!!」
「毬萌さんよぉ。なんでカメラの周りに俺の顔が付いてんの?」
「ほえ? だって、この写真がないと、覗き見コウちゃん二号じゃなくなっちゃうじゃん! にははーっ、バカだなぁ、コウちゃんってば!」
天才スイッチが入ったままアホの子のスイッチも入るとこうなる。
と言うか、毬萌の集中力は高くないので、基本的にこうなる。
そして、被害を受けるのはいつも俺である。
俺の分身が俺の知らないところで盗撮を繰り返していたとは。
「そいつ、廃棄処分にしよう」
「みゃーっ!? ヤダ、ヤダぁー! なんでぇー!? 一生懸命作ったのにぃー!!」
「その一生懸命で俺の肖像権が侵害されているんだよ!!」
「それならヘーキだよっ! コウちゃんと、えと、ね……。け、結婚して、お嫁さんになったら、その、旦那様の顔だから、へ、平気じゃん!!」
平気じゃねぇよ!!
なんで照れながら可愛い声でそんな恐ろしい事言うの?
あと、断っておくけど、夫婦になっても旦那の肖像権は奪えないから。
「せ、先輩、方! え、選べ、ました!」
俺が毬萌とアホな言い合いしていると、勅使河原さんが控えめに俺たちを呼ぶ。
その手にはラミネーター。
なるほど、お持ち帰りの準備もバッチリ、と。
こうして、鬼瓦くんのページが完成。
彼の顔の周りには、無数の星たちがこれでもかとデコっていた。
鬼瓦くん、君は多分、将来は尻に敷かれると思うな。
なに? お前が言うな?
ははは、俺ぁ平気だよ、ヘイ、ゴッド。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます