第263話 最後の目的地と清水寺

 甘いもので体力を補給した俺たちは、再び観光に戻る。

 道中、八坂庚申堂やさかしんこうどう、またの名を金剛寺に立ち寄り、「欲望を抑えると願いが叶うお守り」として有名なくくり猿を高橋に買わせた。

 そののち「あんたも買いなさいよ」と氷野さんに小突かれる。

 「コウちゃんの欲望がこれ以上淡白になるのやだぁー!」と毬萌には泣きつかれる。

 君たちは俺を何だと思っているのか。


 それからさらにしばらく歩くと、本日最後にして一番楽しみにしていた目的地へと到着を果たす。

 京都を代表するお寺であり、修学旅行生として絶対に外せない場所。



 清水寺のお目見えである。



 おおよそ1キロと少しの参道がまずお出迎え。

 土産物屋が軒を連ねる。

 俺たちと同様に、制服姿の観光客も多く見られ、なんだか少し親近感。

 道中、高橋がみたらし団子の誘惑に負ける。

 お前の欲はくくり猿に委ねたのではなかったのか。

 しかし、あまりにも刺激的な食欲をくすぐる香りに毬萌が白旗。

 結局全員でみたらし団子を食べる。

 実に美味であった。


 そして俺たちは、ついに本堂へ。

 清水の舞台としても有名な、あの場所である。

 俺が来たかった念願の場所でもある。ついに思いを遂げる。


「みゃーっ! すごいね、コウちゃんっ!」

「ホントにな! いやぁ、もう少しすれば、紅葉のシーズンど真ん中だったんだが。……それはなくとも、絶景だ」

 毬萌と眺める本堂からの眺めは、まさに格別。


「なあ、桐島。お前の事だから、ここについても何か知ってるんじゃないか?」

「そうね。あんたの出番じゃない」

「ヒュー! 公平ちゃん、解説シクヨロだぜぇー! ヒュー!」

 なんだよ、面倒くせぇなぁ。

 せっかく景色に見とれていると言うのに。

 でも、聞きたいのか? 聞きたいのなら仕方がないじゃないか。

 それじゃあ語ってやろう。もう、本当に嫌々で、仕方なくだけども。本当に。


「まずな、この有名な清水の舞台は、懸造かけづくりって言って、釘を一本も使用しない手法で作られてるんだ。海外でもものすごく評価されてる」

「へぇー。そうなんだぁー」

「そっちの石段を下りると、音羽おとわたきって言う、この清水寺の由来になった水が、三本のかけいから流れてるな。名水だぞ」

「ねね、そのお水、飲めるの?」

「おう。もちろん飲めるぞ。3つの滝のどの水を飲むかで、叶う願い事が違うんだ。だからって、全部飲むのはルール違反だな。欲張っちゃいけねぇ」

「なるほどぉー」


「ちなみに、清水の舞台から飛び降りるってのは、昔あった景気づけらしくてな。何かの書物によると、生存率は85%くらいだったらしい」

「みゃっ、意外とみんな元気なんだねっ!?」

「まあ、あくまでも生存率っつー話だからな。怪我一つしてねぇとも思えんが」

「にははっ、そっかー」

「おい、お前らも、質問がありゃあいくらでも聞いていいんだ……ぞ?」



 あいつらどこ行きやがった。



「あ、コウちゃん、コウちゃん。3人なら、先にお水飲みに行くから、二人はごゆっくり、だってーっ!」

「あんにゃろうども! 俺に解説求めといて、割と最初の辺で抜けやがったな!?」

「んーん。えっとね、釘を使わないでって話の頃にはみんないなかったね!」



 最初も最初じゃねぇか! ちくしょう!!

 なんだよあいつら! 罰当たりどもめ!!



「ねね、コウちゃん、写真撮ろーっ?」

「……おう。なんか、いや、かなりイラっとしたが、そうだな。国宝だからな。記念写真くらいは撮ってしかるべきだな」

「じゃあ、わたしのスマホで撮るね! はい、コウちゃん、こっち来てーっ」

「おう。待て待て、そこは角度が悪ぃ。こっちにしよう」

「にへへっ、コウちゃん、細かいなぁー」

「だってお前! 次いつ来れるか分からんのだぞ!? 毬萌だって国宝はベストな角度で撮りてぇだろう?」


「わたしは、コウちゃんと写真撮れたら、それで良いよっ!」



 お前、その顔とセリフは反則だろうが。



 俺はそのあと、ベストショットの場所探しを中止した。

 別に、毬萌に配慮したわけではない。

 ただ、反則切符を切った手前、待たせるのも可哀想だと思わないでもない。


「せーのっ、はい、チーズ!」


 そして例によって、俺の元からしょっぱい顔が、残念な感じで記録される。

 今回ばかりは「これで良い」と言う毬萌に食い下がって、三度みたび撮影を試みた。

 結果として、しょっぱい写真が三枚と、毬萌の笑顔が三つ増えただけであった。


 それから俺たちも石段をくだり、音羽の滝の水を飲む。

 毬萌がどうしても「恋愛成就のお水飲みたいっ!」と言うので、一緒に並んでやる。

 凄まじい行列であり、坂上田村麻呂さかのうえのたむらまろもさぞかしお空の上で鼻が高いだろう。

 そして、毬萌が水を飲んだのち、俺はややご年配の方の多い列へと向かう。


 何の祈願をしたかって?

 バカだなぁ、ゴッド、決まっているじゃないか。



 延命長寿だよ!!

 むしろ、俺が願うべきはそこしかないでしょうが!

 はあ? 恋愛成就?

 あのなぁ、恋愛が叶って早死にしたら意味がないだろ、ヘイ、ゴッド。



「さて、どうしたもんか。あいつらはどこ行ったんだ」

 茂木と高橋は分かるが、氷野さんまで単独行動とは。

 鉄壁の風紀委員長の名が泣いている。


「コウちゃん、わたし、行きたいとこがあるんだけど、良いかなぁ?」

「おう。まあ、合流はもう少ししてからで良かろう。で、どこだ? トイレか?」

「違うよっ! コウちゃん、わたしに何回それを言うのかなっ!?」

「そうだなぁ。まあ、俺らも付き合い長いからなぁ……」

「にへへーっ、そうだよねぇー。……って、そうじゃないよぉっ!!」

 毬萌がノリツッコミとは、これまた珍しい。



 毬萌に連れられて移動開始。

 これまた、やけに女性が多くなってくる。

 何だろうか、美肌の神様って清水寺にもまつられていただろうか。


「ここだよっ! コウちゃん、早く、早くっ!」

「おいおい、走ると転ぶぞ。石段なんだから、マジで気を付けあぁぁぁいっ」

 俺の手を引く毬萌。つま先で思い切り石段を蹴飛ばす俺。

 石との対戦結果? それ、俺の悲鳴を聞いた後で聞く必要ある?



 たどり着いたのは地主神社じしゅじんじゃ

 大国主命おおくにぬしのみことまつったったやしろである。

 そして、恋する乙女が集う、全国屈指のパワースポットと言う。

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