第130話 生徒会とプール掃除

 美化委員会に、風邪が流行った。

 委員長の渡辺さんを筆頭に、ほとんどの生徒が欠席。

 折しも、今日はプール掃除が予定されていたにも関わらず、である。



 かつて、美化委員にインフルエンザが流行った事がある。

 まだ、鬼瓦くんが加入して間もない頃だったろうか。

 その点から考えると、少々自己管理が甘いと言わざるを得ない。

 そして、学園の委員会の顔役である、彼女が生徒会室へやって来た。


「と言う訳だから、生徒会にも協力をお願いできないかしら」

 氷野さんである。


「あー。それで今朝、水着持ってこいってラインが来たのか」

「そう。人数は足りてるんだけど、指示を出せる人が圧倒的に少ないのよ」

「生き残りの美化委員と、風紀委員に俺たちか。おう。事情は分かったよ」

「……あんたに最近借りを作ってばっかなのはしゃくだけど。……頼むわよ」

 俺に協力を要請してくるなんて、氷野さんも随分丸くなったものだ。

 「そういえば氷野さんも風邪引いたよね」といらん事を付言したら、尻を思いっきり蹴られたものの、それもご愛嬌。


「ほんじゃ、みんな、行くか。プール掃除」

 生徒が困れば我らの出番。

 生徒会、出動である。



「コウちゃーん! 見てーっ! じゃーんっ!!」

「おう。早かったな」

「むーっ。感想はー? 可愛い幼馴染の水着姿だよっ!」

「おーおー。似合ってる、似合ってる」

 本当に、体操服と言い、学校系の衣装は大概似合うな、お前は。


「毬萌先輩、あまーいです! 公平先輩には、これくらいしなきゃ! えいっ!」

「おうっ」

 花梨が俺の腕に柔らかいものを押し当てて来た。

 ラッキースケベ? はは、愉快なことを言うなぁ。

 その反動でくっそ汚ねぇプールに落ちたとしても、同じことを言えるのか?

 ええ? 何とか言えよ、ヘイ、ゴッド!

 あと誰か助けてー。


「ゔぁああぁっ! ぜんばぁぁぁいっ!! ゔぁぁあぁぁっ!!」

「お、おふう。鬼瓦くん、助かったぜ」

「ゔぁい! ご無事で何よりです!!」

 みんなTシャツを着ているのに、彼は一人だけ水着のみである。

 鬼神がっちり。


「あ、あはは……。先輩、ごめんなさい」

「おう。平気、平気」

 Tシャツ越しでも、柔らかかったぜ。とは口が裂けても言わないのが紳士。


「何をしているの! ふざけたら危ないでしょう! 桐島公平!」

「心外だぜ、氷野さん」

「ちょ、ちょっと! 今、私の胸を見たでしょう!? いやらしい!!」

「えっ? そんなに目を凝らしてはいねぇよぁぁぁぁぁぁぁぁい」

 再びくっそ汚ねぇプールにダイブ。

 氷野さんのローキックは強烈だった。


「ゔぁあぁぁぁっ! ぜんばぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

 再び鬼瓦くんに救われる俺。

 彼はライフセーバーになったら良いかもしれないなぁと思う。

 その後「さっきのは良い意味で起伏が少ないって事だよ」と氷野さんに釈明して、俺が三度みたびプールにドボンする一幕がありつつ、全員が集合。


 ちなみに、勅使河原さんも今日は病欠。

 鬼瓦くんが帰りにお見舞いに行くそうなので、きっとすぐに元気になるだろう。



「全員、整列しなさい!」

 美化委員と風紀委員が駆け足で列を形成。

 もはや氷野さんの威光は一年生にも知れ渡っているらしいく、実にスムーズ。


「これより、生徒会長からありがたいお言葉を頂くわ! よく聞きなさい!!」

「氷野さん、一応ここに拡声器あるんだけど」

「遅いのよ! 桐島公平! まるで私が声大きいみたいじゃない!!」

 その通りだよと言ったら、また俺がプールに落ちることになる。

 まだ七月の頭なのに、エンドレスエイトはごめんだ。


「やーっ。みんな、お疲れ様ーっ!」

「……毬萌。逆だ。拡声器の向き」

「みゃあっ!? に、にははーっ。これはみなさん、失礼しましたぁー」

 氷野さんの軍事演習スタイルから、毬萌のモフッとスタイルに転換。

 場の空気が一気に和らいだ。


「えーっと、今、水がほとんど抜かれているので、そこをみんなでお掃除します!」

 驚くべき事に、学園のプールには排水用のポンプが何台も備え付けられている。

 あっと言う間に水がなくなった。

 その無駄な設備費用で清掃業者を雇え。


「大変だと思うけど、終わった後は自由に泳いで良いって許可をもらったから、みんなでがんばろーっ!!」

 場が一気に湧き上がる。

 そんな一気に水が貯まらないでしょと思うだろう。

 俺だってそう思う。

 しかし、学園のプールは隣にある貯水タンクから凄まじい勢いで水が移せるらしく、具体的には30分くらいで満水になるとか。

 本当に、その無駄なハイテク施設の費用で業者を呼んで。


 また現場責任者は生徒会だが、水場が舞台であるゆえ、有事の際に対応できるように、生徒指導の浅村先生が脇にスタンバイ。

 先生も掃除して下さい。


「じゃあ、コウちゃん! 注意事項よろしくーっ!」

「おう。あー、みんな、分かってると思うが、足元がかなり滑る。転んで怪我しねぇように。それから、指示は風紀委員長が出すからなー」

 チラリと氷野さんを見ると、満足そうに頷く。

 俺はその合図を受け取って、締めの言葉につなげる。


「風紀委員長はマジで怖いから、言うこと聞かねぇと蹴り飛ばされるぞー。なんせ、手足が長い上に体は身軽だから、蹴りの精度が高いぁぁぁぁいぁぁぁいっ」


 よく滑るプールの底を、カーリングのストーンよろしく滑っていくのは俺。

 口を滑らしたのも俺。蹴り飛ばされたのも俺。



 でも、良いんだよ。

 これで、みんなも危機意識を高めて作業に集中できるなら、ね。

 さあ、仕事の時間だ。

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