第116話 合宿最後の夜は更けて
「たっだいまーっ! 帰ったよーっ!」
「あ、お帰りなさーい! 待ってましたよー!」
「……桐島先輩、ご無事ですか?」
「おう。なんとかな。まあ、二人とも予定がむちゃくちゃじゃなくて良かったよ」
「よし、寝るか」
「えーっ!? まだ11時だよーっ?」
「そうですよー! せっかくの最後の夜なんですから、遊びましょう!」
正直、疲労困憊であるが、そんなキラキラした瞳で訴えられると無下にできない。
「公平先輩、UNO持って行くって言ってませんでしたっけ?」
「おう。持って来てるぞ」
「おおーっ! じゃあ、みんなでやろうよーっ!!」
「仕方ねぇなぁ。まあ、軽く揉んでやるか」
ところで鬼瓦くんどこ行った。
「ん? そういやぁ、なんか良い匂いがするな」
「あっ、それなら武三くんだよーっ」
「えっ、鬼瓦くん、ついに体から美味そうな匂い出すようになったの!?」
「ええ……。あたし、それはちょっと生理的に無理かもです……」
「酷いなあ、冴木さん」
鬼瓦くんの帰還である。
「おう。鬼瓦くん、何してたんだ?」
「いえ、皆さんを待っているだけでは時間を持て余してしまいまして。コテージに備え付けの調理場と、少量の食材があったので、一品作ってみました」
そして差し出された魅惑の皿には。
「ジャーマンポテトです。お口に合えば良いのですが」
手が油で汚れないようにフォークまで持ってくる周到っぷり。
鬼神カンペキ。
「わぁーっ! ちょうどお腹が空いてたんだよぉーっ!」
「おう。確かに腹減ったな。散々動き回ったことだし」
「それは良かったです。どうぞ、熱いうちにお召し上がりください」
ジャーマンポテトをフォークでブスり。
そしてお口でパクリ。
「うっま! ほくほくしてるし、なんつーか、辛みが効いててクセになるな!」
「ホントだーっ! ほっくほくだねぇー。武三くん、凄いっ!」
「お褒めに預かり光栄です。ちょうど粒マスタードがありまして」
「いやぁー。さすがだなぁ、鬼瓦くん。いくらでも食えるぞ、これ!」
「コウちゃーん! ジュース持って来たぁ!」
「おっ、ナイス毬萌。味がしっかりしてるから、飲み物にも絶対合うぞ!」
おや。そう言えば、花梨はどうした。
見ると、ベッドに潜り込んでプルプル震えている。
「おーい、花梨! 食べねぇのか? めちゃくちゃ美味いぞ!」
「冴木さん、ジャガイモ、嫌いだったかなあ?」
プルプル花梨さんが、ジョーズみたいにガバッと布団から飛び出した。
「し、知ってますよ! それ、絶対美味しいヤツじゃないですか!」
「お、おう。なら、一緒に食おうぜ?」
「もぉー! なんでみなさん、こんな時間に平気で夜食食べられるんですか!?」
「おう。と言うと?」
「絶対に太るじゃないですかー! ただでさえ合宿では食べすぎてるのにぃ!!」
「いやー。俺ぁ食っても食っても肉がつかねぇ体質だからなぁ」
「わたしもいくら食べても太らないから平気だよーっ」
「僕はトレーニングでカロリーコントロールをしていますので」
「もぉー!! なんなんですか、みんなしてぇ!! ズルいです!! 反則です!!」
プルプル震えるからプリプリ怒る花梨さんに進化。
「食べますよ! 食べればいいんですよね!? ……あむ」
「冴木さんのお口に合うと良いのだけど」
「合うに決まってるでしょう!? 深夜にこんな美味しいもの作って! 鬼瓦くん、バカなんじゃないですか!?」
「酷いなあ。まだお昼の事を怒っているのかい?」
「もう怒ってないですよ! 今は、この魅惑の料理に怒っているんです!!」
「はは! 鬼瓦くん、結局怒られてやんの!」
そして、ちゃんと平常運転で失言をするのは俺。
「花梨はもっと肉付けた方が良いって! 無理なダイエットは良くねぇぞ?」
「せんぱーい? 女子が日々、どれだけ努力して体型維持してるのか、知らないんですか? 知りませんよね? 知ってたらそんな事言えませんもんね?」
圧が半端じゃない。
鬼瓦くん、助けてー。
「……僕はちょっと、お花を摘みに」
だいたい予想は付いていたよ。
それから、芋をモリモリ食べる花梨に『女子の太りやすさ』についてお叱りを受け、お叱りを受けている間に、その花梨がジャーマンポテトを完食していた。
「やはり量が少なかったですね。こちら、先ほど仕込んでおいた、じゃがバターです。お口に合えば良いのですが」
鬼神おかわり。
「うめぇぇっ!! 鬼瓦くん、さてはまたアレンジを加えたな!?」
「待って武三くんっ! 当てるからっ! えっとね、明太子と、むむむっ」
「さすがは毬萌先輩。ご明察です。こちら、明太子と粉チーズでアクセントを」
あれ、花梨どこ行った。
再びベッド中に
「ぐぬぬっ、なんなんですか! ホントになんなんですかぁ!!」
顔だけを出して抗議しながらも、体は正直。
気付けば布団ごとじゃがバターに吸い寄せられていた。
「もぉー! なんでこんなに美味しいんですか! いい加減にしてください!!」
「冴木さん、マヨネーズをかけると味の変化が楽しめるよ」
「……鬼瓦くん。あたしが太ったら、絶対に許しませんからね?」
「ゔぁ、ゔぁあぁぁぁっ」
ああ、これ、絶対に許されないパターンだ。
その後行われた、生徒会・夜のUNO大会は熱戦であった。
主に、鬼瓦くんが花梨のドローフォーの餌食になり、鬼の鳴き声がこだました。
そして、日も変わってしばらく。ようやくお開きとなった。
とにかく今日は疲れた。
ぐっすりと寝かせてもらおう。
俺は自分のベッドにダイブ。
「せーんぱい! 今日はこっち向いて寝て下さいねー!」
右を向くのはまずいと、反転。
「コウちゃんは、やっぱりわたしの寝顔を見たいようだねっ!」
左を向くのも断念。
と言うか二人とも、なんか近くない?
ねえ、俺の安眠は?
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