第82話 バーベキューと宴 その2

 前回までのあらすじ。

 ロブスター、デカいザリガニ。

 お肉、すごく美味い。



 毬萌が分け与えてくれたカルビは、それはもう無類の味であった。

 世界中にカルビが行き渡れば、争いなんかなくなるのにと思った。

 そうだ、このあと、国連事務総長あてに手紙を書こう。


「毬萌先輩だけズルいですよー! あたしも、やりたいです!」

「ぬっふっふー。花梨ちゃん、甘いのだっ! この辺一帯のお肉は全部食べちゃったから、しばらくは無理だよー!」

「ぐぬぬ、毬萌先輩のイジワルー! あっ、ここに良いヤツがあるじゃないですか!」

 花梨が反対側の網の端に避けてあったハラミをゲット。

「冴木さん、それは僕の……」

「早い者勝ちです! バーベキューと恋は戦争なんですよ!!」

「ゔぁぁぁああっ」

「はい、せーんぱい! どうぞ! 食べさせてあげます!!」


 鬼瓦くんが忍びなくてもの凄く食い辛いんだけど。


「ほらほら、先輩! まさか、あたしのお肉は食べられないって言うんですか!?」

 それ、鬼瓦くんのお肉じゃないか。

 そう主張したいものの、花梨のパワハラめいた圧力からは逃れられない。

「い、いただきます」

「えへへー。早く素直になっちゃえば良いんですよー! 美味しいですか?」

「うん。美味い。絶妙な焼き加減だ」

 ごめんね、鬼瓦くん。


「た、たた、武三さん……! こ、これ、ほ、ホタテが、焼けまし、た!」

 なんだよ、鬼瓦くんもちゃんと良い思いをしているじゃないか。

 鬼神ちゃっかり。

「毬萌先輩、見て下さい! 真奈ちゃんってば、大胆ですよー!」

「ホントだぁ! あ、武三くん、ちゃんと真奈ちゃんの高さに合わせて屈んであげてるっ!」

「むぅー。意外とヤリますね、あの鬼も」

「にははー。紳士だねぇー」


 鬼瓦くんと勅使河原さんに興味が移ったようだし、この隙に俺はもっと肉を食おう。

 どれも普段俺が食っている肉とは見た目からして違う。

 うちの食卓に並ぶ肉は、いつも顔色からして悪いし、歯ごたえがあると言えば聞こえも良いが、いつまでたっても噛み千切れず、最終的には飲み込むことになる。

 それに比べて先ほどのカルビはどうか。

 口の中でとろけて、すぐになくなってしまった。

 ハラミは噛むほどに味わい深く、これが本当の歯ごたえだと知った。

 知ってしまったからにはもう戻れない。

 俺は焼き肉の修羅となる。


「よしよし、まだ結構残ってんな。まずは、牛タンは外せねぇ。ロースに、ホルモンも良いな。ふふふ、ここに俺の居城を築こう!」

 ご機嫌で肉を並べ立てていると、心菜ちゃんがトウモロコシを相手に苦戦していた。


「はわわー。食べにくいのですー」

 今にも皿から落としそうで、見ていられない。

「ちょい待ち! こいつを使うと良い。貸してごらん」

「はわー。公平兄さま!」

 鉄串を輪切りにされたトウモロコシにグサり。

 ふふ、俺も容赦のない男よ。

「ほら、この串を持って食べてみようか。これなら落とす心配もない」

「ありがとうですー!」

 うん。可愛い。

「他に食べたいものはあるかい?」

「えっとー、あのおっきいお肉、食べてみたいです!」

 サイコロ状にカットされたステーキ肉がそこには居た。

「おっ、心菜ちゃん、攻めるなぁ! よし、こいつも串に刺しておいてあげよう」

「あーんっ。んむんむ、おいしーのです!!」

 うん。可愛い。


 さて、俺の肉たちは育ったかしら。

「あら、桐島公平。何してるのよ」

「いや、何って。この辺にあった肉は?」

「ああ、美味しかったわよ」

 俺は肉の所在を聞いたのに、彼女の口からは味の感想が飛び出して、全てを理解。

「そうか……。いや、良かったよ」

「なによ、あんた。まるで私が肉泥棒みたいじゃない!」

 うん。だいたい合ってる。

「良いんだよ。肉はまた焼けば良いんだから」

「……ふん。これだけ取っておいてやったわ! 感謝しなさい!」

「これは?」


 人体練成に失敗したあとかな?


「ホルモンよ! 内臓系は良く焼けって習わなかったの!?」

「ああ、うん。そうだね」

「食べなさいよ!」


 人体練成に失敗したものを!?


 しかも、なんでちょっと照れてるんだろう、氷野さんは。

 もうこれ、俺が食べなかったら叩かれる空気じゃないか。

「……うん。はい」

 普通に苦かった。



 その後、俺もようやく肉に野菜とありつける僥倖に預かり、「そろそろご飯も食べたいな」と思ったところ、鬼瓦くんがおにぎりを作ってくれるサプライズ。


「なにこれ、うっま! めっちゃ美味いぞ!!」


 おにぎりの中に、じっくり炙った鶏ももと、梅肉に塩昆布が入っており、お口の中がオーケストラになった。

 この会食が始まって最大のリアクションを見て、毬萌と花梨が再び俺の口に残った肉をつつき込み合戦がスタートすると言う嬉しくないサプライズも発生。

 俺は動物園にある触れ合いどうぶつコーナーの無限に餌を与えられ続けるヤギの気持ちが分かった。

 食事は適量与えましょう。



「いやー! もう腹いっぱいだ! もー食えねぇ!!」

「コウちゃん、満足できた?」

「おう! 豪華バーベキュー……夢が一つ叶っちまったぜ」

「にははっ、良かったねぇー!」


 何はともあれ、終わってみれば大満足。

 俺の腹は物理的に満たされ、胸は心情的に満たされた。

 みんなで「ごちそうさま」を言ったら、面倒になる前に全員総出でお片付け。



 立つ鳥跡を濁さず。

 その点から見ても、俺たちは完璧であった。

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