第81話 バーベキューと宴 その1
全ての準備は完璧に整った。
全員に皿と箸が行き渡り、いわゆるキャンプ椅子に座った全員がソワソワしている。
炭から火を起こすのには苦戦したが、鬼瓦くんとの男の子タッグでどうにか炎を召喚する事に成功。
いやはや、大変な仕事であった。
よもや、着火剤の置き方を間違えていたとは。
俺も鬼瓦くんもそこに気付かず、彼の必殺技の一つである
キャンプファイヤーにはまだ早かったねと二人で反省。
その後、おじさんによるレクチャーを受け、無事にコンロに火がともった。
ガスのコンロは実に親切な造りをしており、ちょいとつまみを捻ったら火が付いた。
グリルやら鍋やら、所狭しと並んでいる。
果たしてこの量を食べきれるのか。
愚問である。
「みんな、準備は良いか!?」
この合宿で楽しみにしていたメインイベントの開幕を、俺が宣言する。
「あー、全員、準備を一生懸命やってくれてありがとう。お疲れさん。それでは、これより生徒会合宿初日の夜を祝して、ささやかながらも盛大なバーベキュ」
「コウちゃん、話長いっ!」
「いや、でもお前、こういうのはちゃんとしな」
「せーのっ! いただきまーすっ!!」
俺の宣言などなかった。
「キャンプ場が近いだけあって、肉は種類が多かったわよ! 鬼瓦武三、説明してあげなさい!!」
「ゔぁい! 左のお皿から順番に、カルビ、ロース、ホルモン、ハラミ、牛タン、鶏ももであります! なお、カルビとホルモン、鶏ももはタレに漬けてあります!!」
「あ、あの、こ、これ! 桐島先輩が、好きだって、武三さん、が!」
現れたのはロブスターであった。
「えっ!? 俺、こんなデカいザリガニみたいなの知らねぇけど!?」
「すみません、先輩。先輩が常々言っておられた伊勢海老がスーパーになくて、代わりになりそうなものを探したところ、ロブスターしかありませんでした」
「あ、そう言う事か。気ぃ遣わせちまって悪いな」
それはそうとして、このデカいザリガニみたいなヤツ、直火で炙られてるけど、これ正しい調理法なの?
ねぇ、誰か分かる人いないの?
なんで俺の前にグリル置いて、ロブスター1匹載せて鬼瓦くんは去って行くの!?
ごめん、俺もお肉食べたい!! ねえ、みんな!!
「あっ、公平先輩! この子、そろそろ食べごろですよ!!」
「えっ!? そうなの!?」
「はい! 色がオレンジから赤っぽくなったらイイ感じです!!」
「そうなのか……。ん!? それで、どうやって食えばいいんだ!?」
「あはは、先輩テンパり過ぎですよー! さっき鬼瓦くんに下処理してもらっているので、甲羅を引っ張ったら綺麗に剥けるはずです!」
「なんだ、そいつを早く言ってくれよ。よーし、早そぁあああぁあいっ」
ロブスターの甲羅が
「だ、大丈夫ですか、先輩!?」
「うん。すっげぇ熱かったけど、大丈夫」
「ほらほら、これで身を摘まんで、食べてみて下さい!」
花梨がトングを渡してくれる。
「……このっ、こいつ、よっ、はっ! ああああああいっ!!」
残った甲羅が
「……ぷっ。あはは! 先輩、カワイイです! あはははっ」
「くぅぅっ! こんにゃろ、もうこのまま食ってやる。おらぁ!」
思えば、合宿の話を聞いてから、俺はバーベキューで伊勢海老を焼きたいと周囲に散々語って来た。
結果、俺のイメージしていた伊勢海老はどこかに行って、目の前にはデカいザリガニみたいなヤツが、シューティングゲームの中ボスみたいに甲羅を飛ばしてくる。
しかし、普段食べられないものと言う点では、俺の希望は叶えられた。
そのために鬼瓦くんがわざわざ用意してくれて、花梨が食い方までレクチャーしてくれたのだ。
その宿願を果たすべく、俺は熱いロブスターをパクリとやって、モグモグ。
どうしよう。思ったほど美味しくないよ?
微妙に、と言うか、結構な勢いで身が固い。
おばあちゃんなら入れ歯持って行かれるレベル。
これ、もしかして俺がモタモタしてる間に火が通り過ぎてやしないか?
それとも、俺の味覚がおかしいのか。
「あたしも一口もらいまーす! あーむっ! ……うわぁ、美味しくないです」
「だよねっ!?」
良かった、俺がおかしい訳じゃなかった。
いや、良くない!
俺の思い描いていた野望の一つが、今この瞬間崩れ去ったのだ。
ちくしょう。
こんなことなら、アマゾンで伊勢海老買っときゃ良かった!!
「これ、多分スーパーの店員さんが何もしてないんだと思います。普通は、一度蒸した後に焼くんですけど、この子、明らかに蒸された形跡がないです」
「……そうだったのか」
俺しょんぼり。
「あ、あー! 先輩、あっちでお肉食べましょ!? 伊勢海老だったら、今度あたしのうちでご馳走しますから!」
花梨の気遣いがロブスターのショックから俺を救う。
「コウちゃん! ザリガニどうだった? 美味しかった?」
「ザリガニじゃないもん! ロブスターだもん!」
男が口を尖らせて語尾に「だもん」を付けて、需要があるのか。
あるのかもしれないが、俺はいらない。
「毬萌先輩、ちょっと! …………と言う訳です」
「ありゃー、残念だったね、コウちゃん。うむ、わたしの育てたカルビをあげようっ!」
毬萌は網の端で良い感じに焼けていたカルビを二枚摘まんで、俺の口に寄こす。
「はーいっ」
「おう」
「どうだぁー! わたしのカルビは美味しいでしょー?」
「うん。美味い」
ロブスターの2000倍美味い。
一応ロブスターの名誉のために付言しておくが、ちゃんと調理されたロブスターは舌がとろける程の美味しさらしい。
お嬢様の花梨が言うのだから、間違いないだろう。
俺が食ったヤツ?
ああ、ありゃ、多分デカいザリガニだよ。
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