エピローグ
最果ての空
「遠い空はどうだった? ケイ」
スレイプニルのラウンジ。相も変わらず缶コーヒーを飲みながら、
「父さんの遺言の事、聞いたわ」
「別に博士の遺言だからってだけで、
「――あー、はい。ほんと
缶コーヒーを杯代わりに。やや投げやり気味、しかし敬意も込めて、ぶっつけ本番の弾道ミサイルの太陽投下ミッションをやり遂げた、新時代の飛行士を称えた。
「まあ、それで許してあげるよ。無茶苦茶言い過ぎだからね君……ハハ」
一度不満そうな顔を作ってから、ケイははにかんだ。
「しかし、何でまた核弾頭を太陽へ向かう軌道に乗せたんだ?」
「それね……――ヤーン・ヴァレリィって名乗ったじゃない?」
「
「そう、ヴァレリィ。ちょっと思い当たることがあって調べてみたの」
「うん」
「ユーリィ・ヴァレリィ……彼の祖父、グラードの宇宙飛行士だったわ」
「……俺が言った、あのミサイルが元々は打ち上げロケットだったって話も、あながち外れてないのかも……しれないのか」
ユーリィ・ヴァレリィ。確かに聞いたことの有る名だ。
しかし、宇宙開発事業が廃れ、その原因となった粒子センサネットワークを専攻している
「――でも、彼の出自が、核弾頭を投げ飛ばすのと、どう繋がるんだ?」
「私も、君やみんなが居なかったら、ああなってたのかな? って」
「それで?」
「そんな事考えてたら、なんか腹が立ってきて……勢いでやった」
ブホッ、とむせ返した音がラウンジに響く。
「いや、そんなに驚く事?」
「いや、驚くだろ……いつも効率とか合理性とか気にするお前がそんなこと言ったら。博士だってコーヒー吹いてるぞ絶対」
「吹かないわよ」
「いや、そんなことはない。たぶん大喜びしてるぞ。ケイが受け身過ぎるのを心配してたからな……あっはっは」
その間、ケイはおとなしくその隣で座っていた。自分は変われただろうか? 遠く及ばないと思っていた父と
そんなことを考えていると、笑い終わった
「ところで……お前、しれっとスレイプニルに帰って来てるけど、
と話題を変えた。
「良いんじゃない? Ver2.00開発の出向扱いだったし、それに
「後の事は
「そういう事。そういうのは専門家に任せておけばいいのよ……ん?」
「そうだな。コレからも頼むよ、専門家さん」
「あー……今の無しで」
詭弁気味に揚げ足を取られて、ガックリとする。
「とりあえず……お帰り、で良いのか?」
一度は振り払ってしまった筈のその手が、まだ自分の前にあった。それを暫く不思議そうに見つめてから、ケイはその手を取った。
「……ただいま。
握手をして、見つめ合って、丁度三秒。二人の心が少し揺れた――ところで、
「あー、こんなところに居たよ、
「あ、居た居た。ヨーコちゃんナイス。お姉ちゃん、月ニイ、社長が呼んでるよー」
その後ろに続いているのは
呼びに来た二人を見つめて、
今はまだその距離で、ぶつかり合って行こう。
*
ケイが核弾頭を太陽へ投げ飛ばしてしまったことで、
現在は停戦協定に基づき、事務手続きでのVer2.00の情報開示を打診中。
大陸間弾道ミサイルの発射は
結局、世界はなにも変わることはなく、電子戦闘空域が各地で起こり、不毛な限定戦争が繰り広げられ続けていた。
それでも――
と、
ニール博士の敷いたレールはまだ続いているし、そのレールの先も、少しづつ観えてきた。
A.S.F.はやがて戦闘機ではなくなるだろう。その時にはなんと呼ばれているだろうか?
きっと自分も、ニール博士と同じように、最後まで見届けることはなく、次代に何かを託すだろう。
その時の為に、いろいろとやっておきたいことは出来た。
ケイや
遠い――高く遠い最果ての空まで、行けると思うのだ。
電子戦闘空域 中村雨 @takatouhiziri
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