瞳の観測者
「そろそろ予定地点に着くよ」
グラードの飛行隊が突然出現した地点から、
「そのまま『ハッブルの瞳』での観測を開始してくれ」
「了解。トリス、対象地点周辺を『ハッブルの瞳』で光学走査」
【了解しました
トリスがシークエンスを告げるとスレイプニルの艦橋にも、大海原を映し出した映像データが送信されてきた。
「これって、
映像としては、
しかし、その映像は人間の生来の『眼』が映し出す視界に近いせいか、ただの海原の映像にも拘らず、独特の華やかさが感じられた。
補正や加工のしやすさから、粒子センサネットワークを使ったカメラや映像作品が世界中に溢れる中、レンズカメラを愛好する写真家や映像家が、未だにプロアマ問わず相当数居るのも納得だ。
『ハッブルの瞳』の制作自体、カドクラ情報大学の光画部に相談し、今もカメラレンズを製造している町工場を紹介してもらっている。
すこしの間、そんな美しい大海原の映像が流れ――
【想定対象物を発見】
流れていた映像が止まると、彼方の海の一点を淀みなくズーム。黒い点が見えて、それはみるみる内に、見慣れた船型の船になった。
【種別は空母です】
「
作戦前に
しかし、それとは別にグラードがワームホールのようなモノの開発に成功した可能性も夢想したが、そちらでなくて少し残念に思う感情もある。
「でも、どうするの月ニイ、領海侵犯船だけど、
「手は出さなくて良いわよ
「了解……ってもどうすればいいの?」
「ああ、それなら――トリス、周辺映像から空母の排水量を計測できるか?」
【可能です】
「
「あのグラードの軽空母の? 旧式艦だし、多分フェザントのデータバンクにあるんじゃないか? ――あったぞ」
「それ、トリスに送ってくれ――トリス、排水量のデータを比較。A.S.F.が積まれている可能性を出してくれ」
空中に表示したデータのウィンドウを、
「送った」
【カタログの排水量と対象の排水量は艤装、物資、乗組員を含めて、試算の誤差範囲内です。A.S.F.の予備機が搭載されている可能性はありません】
「月ニイすごい……」
「戦闘の役には立たないから、このくらいはな」
「あ、マズいわね」
後ろでエレインが急にそんなことを言った。
「どうしました?」
「
エレインが
「確かにマズいですね、ソレ。
「もう一機落とされたら、さすがのケイちゃんでもどうしようも無くなりそうだし、
スレイプニルの最終決定権は
「よし、
「まって社長、なにかマズい」
「今度は何がマズいんだ?」
機先を制された
【戦闘車両のようなモノが、甲板に搬出されています。データベースに該当形状の車両は無し。
見ると、トリスの言う通り戦闘機用のエレベーターを使って、甲板に戦車が姿を現していた。
トリスが『戦闘車両のようなモノ』と曖昧な表現をする通り、左右八個の大型タイヤを履いた装甲車両のような車体の上に、レンズの付いた箱状の物が乗っている。
「判断を請いますって言われても、何だこれ……レンズが付いてるってことは、光学式の何かか?」
「車体は多分グラード軍の装甲車両の流用として、上に乗ってるの……アレ、どっかで見た気が……」
「このタイミングで甲板に意味のないもん出す軍隊は無いでしょう。何か意味があるはずだ。思い出してください
「うーーーん。何で見たんだったかなー……」
「ああ……アレだ。レーザー目標指示装置。爆撃指示とか、ミサイル誘導に使う。アレに似てるんですよ。大きさが全然違いますけど」
横で見ていた
「ああーー! ソレだ
それを見た
「
「今は天候に左右されない
「ん?
「甲板に出てるけど
恐らくコックピット内の表示を切り替えてみたのだろう。一瞬間を空けて答えた。
「でも変だな……そのレーザー目標誘導装置ってのは、爆撃機とかミサイルを誘導するのに使うんだろう? 見た感じ、甲板に爆撃機もミサイルもないぞ?」
それで、艦橋に居た残りの全員が気付いた。
「……社長、それは……」
「爆撃機とかにも
「
「……いやまてまてまて
【少々時間がかかりますが】
「構わない。大至急でやってくれ」
【了解、観測開始。少々お待ちください】
その時間を、
「月ニイ、あの戦闘車両、なんか動いてる。レンズを
「やっぱり何かを誘導しているのか?
見逃すわけにはいかないが――
【観測完了。該当機無し】
「見えない爆撃機は居ない……良いのか悪いのか……」
表面上は良い報告だが、現実的には悪い報告だ。
単純に見えない爆撃機が飛んで居てくれれば、
「どうする? ここは放っておいてケイちゃんの方に援護に行かせるか? あっちもマズいんだろう?」
合理的な思考で、
まごついている時間はないという事だ。長い付き合いだし、
しかし、時間も無いが、
あの
技術者としての直感がそう告げていた。
「……仕方ない。ケイに聞くか」
「ちょ、ケイちゃん戦闘中よ!?」
「構いませんよ。どうせ今聞かなきゃ、後から『何で私に聞かなかったんだ』って怒られるだけです――トリス、急いでデュプレと直通回線を開いてくれ」
【
トリスの目が赤い。これは
「構わない。ケイの知恵が借りたい。繋いでくれ」
月臣がトリスを見つめてそう言うと、瞳の警告色は解除され、元の菫色の瞳へ戻る。
【了解しました
「
開口一番。パイロットである
【
そう言ったのはデュプレ。
映し出された映像は、
「あのケイちゃんが苦戦してるわね……」
「仕方ないですよ
エレインと
「いや、戦闘の方はどうでもいい」
「いや、どうでも良くないわ! つーきーおーみーッ!」
追いすがる二機からのザッパーを、フレアも使わずに
「ケイ、さっきグラードの空母を調べてたら、甲板上に光学系の誘導装置のようなものを発見した。トリスに『ハッブルの瞳』で周辺を観測させたんだが、見えない爆撃機のようなものも存在しない。多分、時間がない。答えをくれ」
「真剣な顔で戦闘中に無茶振りするな!」
「真剣な話だ」
「ああ、もうッ! 分かったわよ
ケイが被りを振って折れた。もちろん、グラードのエリート集団が操る最新鋭機二機を相手に、激しい空戦を繰り広げながらだ。
「……なんか、プロポーズみたい」
と、横で見ていた
「……! ……良いから真面目に仕事してください
横で若干吹き出しそうになった
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