ASF-X03S
【
トリスが唐突に、艦橋内にアバターを結像して、そう言った。
粒子センサネットワークによる索敵は、艦載レーダーよりも広範囲高精度の為、A.S.F.は艦内にあっても常にアイドリング状態で運用されている。
そのため、トリスも常に稼働状態にあった。
「わかった。他の部署にも伝えてやってくれ――って、
振り返ると、
A.S.F.パイロットや電算調律師以外にはあまり縁の無いアバターだから、驚くのも無理もないが、この反応には
「――いや
「ああ、はいはいはい、仕事仕事。未確認A.S.F.って、敵機?」
【近海を定時哨戒中だったアドラー軍の
「また、グラードの
因縁の名に、その場にいた全員が怪訝な顔をした。
「Ver2.00はケイが
「グラードの
「
「あー……」
「なんて間の悪い……
「どうするってお前……今、この船で出れるの、
「だよな……降参するか?」
「それは……マズいかもしれませんね。最悪、電磁加速レールや『ハッブルの瞳』関係はまあ、
エレインが額に手を当てて言う。
「……トリス、
【それは、
にっこりと笑みを浮かべて、トリスが右手を添えると、その先に空中映像プレートが現れて、少しふくれっ面の
「僕だって、いつまでもしょげてないよ月ニイ」
「いや、しかしだな……
それよりなにより、
ニール博士は
それを緊急とは云え迎撃に使うことは、
「月ニイは全部奪われてもいいの? 僕はお父さんの遺した研究を守りたい」
そう、
確かにそうだ。Ver2.00の増槽を搭載した
【状況判断は
「……義務……義務って言ったか? トリス」
【はい。『私の』義務です
そのトリスの瞳に宿る光は――
「――あはは、義務と来たか……二人とも頑固に育っちゃってまあ……さすがニール博士の娘達だ。ホント、ケイに似てきて……苦労しそうだ」
ニール博士もケイも、神耶の人間は、こうと決めたらテコでも動かない。
「
「S型への改修は九割方終わってる。普通に飛ぶ分には大丈夫だ。だけど、
「確認するぞ。戦えるのか?」
念を押すように
「並のA.S.F.が相手なら負けはしない……程度にしか保証できない」
「O.K.――
「聞いてる。S型をいきなり飛ばすのか? ウチの連中の酒抜くのに三分、準備が二十分で発進シークエンスに入れられる」
甲板で手を上げる技術部長の
酒を抜く方法はあえて聞くまい。
「ギリギリだな。迷ってる暇はないか――
「あいよー」
「
珍しく神妙な
「ああ、任せろ」
と答えた。
*
深夜、巨大な満月の見守る洋上。
降り注ぐ月光の中、空母の甲板が俄かに慌ただしい。
甲板に開いた奈落から、エレベーターがゆっくりと迫り上がる。その上に乗るのはシルエットが少し変化したASF-X03S――S型フェイルノートだった。
S型はスレイプニル社の事で自社の改修以上の意味はなく、
ゆっくりと銀色の機影が移動し、カタパルト上に固定される。
機首の『ハッブルの瞳』はそのままだが、エンジンから生える翼部は大きく前に張り出した極端な前進翼に変更されている。
通常、A.S.F.の
さらに、後方へ向けて尻尾のように取り付けられているのは、機体上部から移設された
大きく翼を広げた銀色のV字から、前に機首、後ろに二又のバレルが伸びる姿は、まるで空を飛ぶ白鳥のようで、それに技術部の付けたあだ名がそのまま『白鳥』
「
甲板員の振るう誘導灯が、月夜に弧を引いた。
「
「お父さんの仇……か」
「
「大丈夫。任務の時はどんな時も氷のように冷徹に、でしょヨーコちゃん。お父さんの仇は、今は忘れる。前は空を飛ぶことすら出来なかったけど、僕は今度こそ、みんなを守るために戦うよ月ニイ」
誤魔化しも、気負いも見られない。どちらにしても
「トリス、
「ちょ、
「頑張ってみるよ社長」
流れ弾を受けた
【了解しました
「トリス。守るのはお前自身もだ」
少し厳しい声が
【……はい。最優先コマンド変更、
少し嬉しそうな顔をして、トリスは言う。
「ああ、頼む。必ず戻れ。
「――無理はするけど」
「おい、
「でも、僕はちゃんと帰ってくるよ、月ニイ」
言葉尻を奪って、
「よし、
話が終わるのを待っていた
「ところで、
「いやー、この会社、みんな私のこと
「ええ。そりゃ、目上の人ですし……」
「私だって、
「それで
「戦闘教練の時にお願いしたら、呼んでくれるようになった」
胸を張ってそんなことを言う。
念のために断っておくと、元軍属と言うこともあり
「元少佐が、何やってんだかなぁ……」
変な緊張感のほぐれ方をした
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