500km
「俺も頼まれただけですんで……なんとも。それに軍事関係はあんまり詳しくないんですよ――どうして
問い詰められて困った
「
博士はそう言って、イタズラのバレた子供のように笑う。
「そういうことですか。相変わらずですね博士……だいたい事情は分かったので、試射を始めてください。射程500kmともなると、空路をいくらか遮るでしょう?」
肩を竦めた
「社長、
「よし、
切り替えられた画面には
新たに表示された映像プレートには、先ほど話にあった
さらに別のプレートが出現し、そちらには、各種観測パラメータがリアルタイムで表示される。
会議室は一転、研究観測用モニタールームになった。
「初仕事、緊張するなぁ」
「しっかりやりなさい」
肩に力が入る
【
トリスの音声に沿って、
「トリス、いいよ」
【了解しました
命令を受領、了解した旨を伝える機能だ。ボタンなどが存在しないA.S.F.のグラフィカル・コックピットでは、パイロットの入力が正しく処理されていることを伝える為に、
【続いてマクスウェル・チャンバー、展開】
カノンの後方にも、一回り大きな円環状の
【
「『ハッブルの瞳』を望遠モードに」
【望遠モード。集光用
最後に
【ターゲットを光学で捕捉。距離508km。試射プランから約8kmの誤差】
「弾体が出す衝撃波の影響も考慮して、ターゲットの高度を上げた分、すこし距離が伸びてる……
ケイが資料と照らし合わせながら言った。
「だいじょうぶだよお姉ちゃん、このくらいなら……ハッブルの視覚情報を元に、地磁気と重力の再計算……コリオリ偏差修正……気象データも再検証……っと。トリス、これでどう?」
【各種データ修正、再演算……完了。誤差修正完了です
「注文通り、トリスには『ハッブルの瞳』を使った、
トリスがうまく機能していることに頷きながらも、
「
データの表示された空中映像プレートを小突きながら、楽しそうにニール博士は答えた。
「ニール博士が軍事関係の技術に興味を持っていたのは、意外ですね」
ただ、弾道学は最早廃れた技術であった。
情報力学で飛翔するA.S.F.は航空力学をある程度無視して縦横無尽に空を飛ぶことが出来、現在の
そして
また、
これらの理由により、航空力学や弾道学は、情報力学の陰に埋没していた。
「ハハ、軍事技術か……A.S.F.なんて作っている男だよ? 僕は」
ニール博士の心中は、
ケイの母も、粒子センサネットワークの研究者だったと聞いている。
「そりゃあ、まあ、俺も電算調律師ですから、人のこと言えませんけども……」
粒子センサネットワークは新しいエネルギーであり、新しいネットワークインフラの形態であり、そして軍事技術であった。
そうこうしている内に、
「星歴2102年4月28日14時17分、
録音用のプレートに、声を吹き込みながらエレインが試験開始を告げる。
「は、はい――エイム。機体安定……」
【誤差修正、疑似ロックオン。いつでも行けます
「――トリガー」
皆がモニターで見守る中、
同時に
「どうだ?」
射撃を行った
【弾着観測、誤差X軸9m、Y軸マイナス7m】
電磁加速レールで打ち出されたプラズマ弾頭は、直径20mの的の中心から大きく逸れ、縁の当たりを辛うじて打ち抜いていた。
【――無誘導プラズマ翼式弾体は初速の97%を維持したまま飛翔、標的命中後、556km地点で
「結構ズレた……? 社長ごめん」
「大丈夫だ。的には当たってるぞ
*
「500kmともなると、トリスの演算でも、どうしても誤差が出ますね」
モニターの観測値を睨みながら、
「主流がA.S.F.に移ってから、弾道学や航空力学は随分と廃れてしまったから、情報の絶対量が足りないのだろう。
「用途は限られますが、対地目標用途なら十分な精度ですね。この精度であれば……例えば200km地点で、大型の飛行目標に命中させることも可能なようですし」
支援火器として、どうにか『電子戦闘空域』に投入できそうな200km地点の試射のデータを見ながら、
「そもそもA.S.F.には効果ないですよねコレ。無誘導だからフレア・アレイは効果が無いけど、狙撃とは言え、バリア・アレイやシールド・アレイを一撃で抜ける威力はないわけだし……」
と現役パイロットのケイがバッサリと切って捨てた。正直なところ、
現在の『
しかし誘導が効かず、弾道演算の関係上連射にも不向き、更には
かと言って対テロ用途など、対地攻撃や対人攻撃にしても、A.S.F.の通常の演算兵装で事足りる為、驚異的な超長距離射程も、実のところさほど魅力ではなかった。
「まあ、普通であればこれ以上の精度は必要ないだろうけども……ね――それで
「誤差1m以下ですか!? いえ、研究目標としては構いませんけども……」
電算調律師としては、粒子センサネットワーク分野の第一人者である、ニール博士に当てにしてもらえるのは、うれしい話である、のだが。
「――ええっと」
「ハハ。
「
いつものように笑うニール博士に、
「お、なに?
そんな話に喰いついてきたのは
「んな話はしてねーよ」
と、
「私としても、
「おいおい
「俺はまだ、博士の研究室を出るつもりはありませんよ……」
ニール博士に学ぶことは、まだまだたくさんある。ケイのように大学を出て、スレイプニル社に入るつもりはなかった。
「以上で、
滞りなくプログラムを終了したエレインが、本題からやや逸れた話題で盛り上がる一同を見て、呆れ顔で言う。
「もーッ! 僕の初仕事なのに、お父さんも月ニイも、ちゃんと見てなかったでしょ!」
モニターの向こうでは、緊張の初業務を終えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます